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子連れ映画レビュー『ジャングル・ブック』4歳の息子が本気で怖がった動物ベスト3

子供と『ジャングル・ブック』を観に行った。主役のモーグリ以外はすべてCGという『ライフオブパイ/トラと漂流した227日』のような圧巻の映像と、さすがの飽きさせないストーリー進行で大いに楽しんだのだが、案の定4歳の息子は途中から怖がっていた。

『ジャングル・ブック』の主人公は、オオカミに育てられた人間の子(モーグリ)だ。オオカミの子供として平和に暮らしていたモーグリだったが、人間を脅威だと考える虎(シア・カーン)によって命を狙われることになる。自らオオカミの群れを旅立つことにしたモーグリには、様々な出会いや危険が待ち構えているのだが、命を狙われるのは3回。本記事では、モーグリの命を狙う動物たちを、息子が怖がった順に紹介していこうと思う。

息子が怖がった動物第3位:シア・カーン

『ジャングル・ブック』の中で、最大の敵はシア・カーンだろう。人間に傷つけられた過去をもつ孤高の虎。人間の危険性を唱え、モーグリを抹殺しようとする。その過程の中でオオカミのボスを一瞬のうちに葬るなど、残虐性も高い。しかし、息子はシア・カーンを怖がることはなかった。それはおそらく、1位と2位の動物に比べて、悪意がはっきりと目に見えていたからだと思われる。自らの行動について、しっかりと理由を説明した上で行動に移しているので、”想定外”の動きをすることがないシア・カーン。オオカミのボスを瞬殺したシーンだけ少し意表をつかれたものの、シア・カーンというキャラクターそのものについては、むしろ好意的に捉えていたようだ。

なお、日本語吹替版でシア・カーン役をつとめたのは伊勢谷友介。強い意志をもち、孤独に生きるシア・カーンの人生(虎生)まで想像させるような声で、秀逸な演技だった。『ジャングル・ブック』豪華声優陣のうち、個人的No.1。

息子が怖がった動物第2位:キング・ルーイ

廃墟の巨大寺院に住むサルたちの王にして、伝説の巨大類人猿ギガントピテクスであるキング・ルーイ。巨大すぎるその身体は普通に怖い。しかし、息子が怖がったのはその風貌が現れたときではなく、その後に続く会話の中でのことだった。人間が生み出す赤い花(火)を差し出すことと引き換えに、仲間にならないかと提案するキング・ルーイ。モーグリは火の生み出し方を知らないので、取引は成立するはずがないのだが、キング・ルーイは納得しない。あたかも正当な交渉をしているようにみせかけて、実際には相手を意のままに利用しようとする狡猾さが、キング・ルーイの恐ろしいところであり、その止まるところを知らない富への欲望は風刺的でもある。

キング・ルーイは、『ジャングル・ブック』で唯一ともいえる、しっかりとしたナンバーを歌う。かなり楽しい曲調にも関わらず、息子がかなり怖がってしまったのは、あたかも普通の会話をしているように見える陰で、キング・ルーイの欲望や怒りが増殖しているのが感じられたからではないだろうか。もちろん、『ジャングル・ブック』の中でも最も派手に演出された逃走シーンの迫力のせいもあるのだが、“はっきりと目に見えない悪意”が与える恐怖心はなかなかのものだ。そしてその悪意は、欲望に魅せられて他人を利用することしかできなくなってしまった大人の悪意そのものだといえるだろう。

息子が怖がった動物第1位:カー

魅惑的な声を持ち、過去の出来事を見せるという不思議な力を持った巨大なニシキヘビ、カー。森の中で出会ったカーは、モーグリに優しく話しかけ、彼の出自を教えてあげるのだが、息子はこのシーンで異常に怖がった。もともと、「眼の色が変わる」という描写に恐怖心を抱くタイプなので、大蛇の瞳が怖かったというのが最大の理由だとは思うが、このカー、大人が見ても相当怖かったのは確かだ。

まず、何を考えているのか全く分からない。“味方のような顔をして、どこか空恐ろしさがある”というキャラクターで、敵対心を剥き出しにしているシア・カーンや、途中からイラつきと怒りを露わにしてくるキング・ルーイよりも、ずっと闇が深くて怖ろしい。巧妙に残酷な悪意を隠して、甘い顔をして近づいてくる人物が、息子の人生に現れないことを祈るばかりだ。

人生で大切なことを教えてくれる『ジャングル・ブック』

以上、『ジャングル・ブック』に登場する恐いキャラクターを、息子目線で順位付けしてみた。『ジャングル・ブック」は子供向けの映画の中でも、かなり恐怖心をあたえるタイプの作品であることは間違いない。その理由は、各キャラクターに“現実社会の厳しさ”がリアルに反映されているからに他ならない。

家族という単位の中で、ルールを守って安全に暮らしていたモーグリは、外に出ることで色々な経験をし、学んでいく。それは「ルールを守るだけではいけない」ということだったり、「自分自身を知る」ということだったり、「本当の友情」だったりするのだが、「社会で晒されるかもしれない避けるべき悪意」も同時に示されていて、それがカーであり、キング・ルーイの姿を借りて表現されている。一方で、「立ち向かわなければいけない宿命」も示されている。それが、シア・カーンだ。

『ジャングル・ブック』は、子供が大人になる前に、これから待ち受けている社会というものや、人生で大切にすべきものをしっかりと教えてくれる傑作だ。ぜひとも子連れでの鑑賞をおすすめしたい。そして、親子で感想を語りあってほしい作品だ。

Writer

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。