【インタビュー】『ジョン・ウィック:パラベラム』を観て「疲れて欲しい」 ─ 監督が語るアクション哲学「殺陣とはリズムである」

「お茶飲みますか?」監督にもてなされた。日本には2、3年おきに来ていて、簡単な日本語も話せる。「ずっと前、講道館(文京区)で柔道もやっていましたよ。」日本のウイスキー、特に「響」と「山崎」もお気に入りらしい。
インタビューが始まる頃には緑茶が出てきた。監督たってのリクエストで、取材場所となったホテルが用意してくれたものだという。監督はお茶の香りを確かめる。
THE RIVERでは、『ジョン・ウィック:パラベラム』チャド・スタエルスキ監督に単独インタビューを敢行。かつてスタントマンだったチャドは、『ジョン・ウィック』シリーズで映画監督デビューを果たした異色の経歴の持ち主だ。アクションに対するこだわりは人一倍強い。

「日本で撮影したい」想い語る
──『ジョン・ウィック:パラベラム』のアクションは、図書館や馬小屋などユニークな場所が舞台になります。
僕たちは、脚本を書くより先に探索をして、色々な所を見て回るんです。今回もニューヨークでゆっくり過ごしながら、あちこちを見に行きました。馬小屋も図書館も、そうやって見つけていきました。馬小屋で戦うならこうしようかな、図書館だったらこういう事が出来るかな、って。僕はいつも、場所探しからスタートします。
ちなみに明日は東京を見て回りますよ。アイデアを膨らませながらね。大阪と京都も見に行きます。帰ったら執筆だ。
── その中で、使いたかったけど結局使えなかった場所ってありますか?
100件規模であります。許可が降りないような所も多くてですね。行政の事情とか、人が多すぎるからとか。東京も素晴らしいんですけど、許可が取れないんですよね。本音を言えば、日本で撮影したいですよ。
(※この翌日、実際に多摩美術大学の図書館を訪問している。)
映画『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ監督が多摩美術大学八王子図書館を見学されました。https://t.co/xxhJMZ1Lt7#多摩美 #チャド・スタエルスキ #ジョン・ウィック pic.twitter.com/oL5boG9wAy
— 多摩美術大学 (@tamabi_kikaku) 2019年9月13日
ジョン・ウィックが身近なものを武器にする理由
── ジョン・ウィックって、手にとったものが何でも武器になりますよね。そのうち、マシュマロで人殺すんじゃないかっていう。
それはない……、ありえるかも。
── さっきの質問と少し被るかもしれませんが、ジョン・ウィックが使う武器はどのように思いつくんですか?
僕はマーシャルアーツ出身なのですが、ダンスの振り付けもかなり勉強しています。フレッド・アステアやダニー・ケイのような偉大なダンサーは、椅子さえも小道具にしてしまう。ジャッキー・チェンのアクションもそうですよね。何でも使っちゃう。僕たちも考えて考えて……。舞台は図書館。図書館には何があるかね?
── 本です。
馬小屋には?
── 馬。
簡単な話でしょう。
── 例えば本を手にとって、「これをこう使って敵を倒そう」と考えるわけですね。
そういうことです。僕たちが意識しているのは、バイオレンスではなく、ファン(fun)ということ。どうすればこの映画を、みんなにとってファンなものに出来るか。本や鉛筆は、誰でも手にしたことがありますよね。でも剣はそうじゃない。だから、誰もが手にしたことのある本や鉛筆を使うんです。もちろん剣や銃のような特別なものも良いですが、「普通のもの」を使うことに意義があるんです。この映画を見た後、本や鉛筆を手に取る度に思い出して欲しい(笑)。

観客には疲れて欲しい
── 製作中のテスト試写では、「アクションは凄いけど、ちょっとトゥーマッチだ」という反応があったそうですね。アクションのバランス取りはどうでしたか?
映画製作者には、それぞれやりたいことがある。僕の場合はアクションをトゥーマッチなくらいやりたかったんです。ジョン・ウィックはとても疲れた、擦り切れた状態なので、観客にも同じように疲れて欲しいんです。ジョン・ウィックがあれほど必死に戦う感覚を、観客にも味わって欲しい。君がジョン・ウィックだったら、どう感じる?
── 疲れですね。
そう。だから観客にも疲れて欲しい。映画が終わったら、「あぁ、終わった……」って。確かに、スタジオとか、そのへんの人に理解してもらえないこともありますよ。「トゥーマッチだ」とか。でもね、僕はアクションをアクションのためだけにやっているわけじゃなくて、「どう感じるか」のためにやってるんです。アクションが好きでもそうでなくても、この映画を観てめちゃくちゃ疲れて欲しい。

アクションはリズムだ
── ストーリーが進むにつれて、アクションがどんどん過激になっていきますよね。映画を拝見した時、隣の席にいた女性が震えていましたよ。監督の考える、アクションとバイオレンスの境界線ってどこになるんですか?
トーンが大事です。シリアスなトーンなら、『プライベート・ライアン』になる。戦争映画なら、バイオレンスも合いますけどね。『ジョン・ウィック』では、ゴア描写とか大量の血とか、「ウワァ〜!」みたいなのはやりません。僕はすべての殺陣を監修していますが、音楽なんですよ。バッバッ、ババッ!リズムです。殺陣も、ダン、ダン、ダダン!ォォォオオオオ〜〜〜!バババン!つまりリズムなんですよ。緩急がある。まぁ、人によってはバイオレンスだとか、残虐だって言われるのも仕方ない。例えばね、君が殺し屋なら、敵のどこを刺す?
── (胸のあたりを指す)
それじゃ殺せないな。
── いや、分かんないです(笑)。
分からないでしょう(笑)。実際はそんなもんですよ。でも『ジョン・ウィック』のキャラクターは殺し屋だから、どこをどう刺せば人を殺せるか分かっている。人殺しなわけだから、残虐な人間ではあります。しかし、そこには美学とアートがある。リズムがある。サスペンスがあるんです。
さらにアップデートされたアクション
── 今回の敵はニンジャですね。
『ザ・レイド』シリーズのセセプ・アリフ・ラーマンとヤヤン・ルヒアン、ゼロ役のマーク・ダカスコスが大好きで。キアヌも達者ですが、アクションを組み立てる上ではキアヌよりも上手(うわて)な敵を見つけてくるんです。

── そして今作では、ついにコンチネンタル・ホテルのシャロンがアクションに挑みます。
シャロン役のランス・レディックとは1作目からの付き合いですが、とてもいい人なんです。今作ではアクションをやってみないかと打診したら、「是非とも」と快諾してくれて。過去2作のシャロンは、かなり侍っぽいんですよ。
── キアヌのアクションも長回しが凄かったですね。
殺陣はダンスの振り付けのようなもので、20、30、40もの動きを身体で覚えるんですよ。リハーサルには5、6ヶ月かけたので、半年かけて準備したことになりますね。
── 今作までに、キアヌのアクションはどうアップデートされていますか?
まず、キアヌの身体能力が上がっていますね。それから柔道、柔術、サンボ、シュートレスリング、合気道、合気柔術も組み合わせて、銃はショットガンやMPXも使って、バイクに馬、剣にナイフ、剣術、カリと呼ばれるフィリピン武術も加わりました。
── 第1作目の公開は2014年でしたが、シリーズがこれほど拡大すると想像していましたか?
いいえ。当時は、もしかしたら誰にも観てもらえないんじゃないかとさえ思っていましたよ。今までにないアクション映画だったから失敗したらどうしようかと、キアヌも僕も不安に思っていました。
ところで『ジョン・ウィック』シリーズは、物語の主な舞台のひとつであるコンチネンタル・ホテルを描くスピンオフドラマ「ザ・コンチネンタル(原題:The Continental)」も企画されている。「現在パイロット版に向けて動いている」と状況を教えてくれた。キアヌ・リーブスもカメオ出演するという噂については「それはまだ決定していません。今、スタジオ側とあれこれ話し合っている最中です」とのこと。また、前日譚になるのかと確認したところ、「現在、取り組んでいるところ」と明言を避けながら、「アイデアはあります。別の時代設定になります」と答えた。
なおチャド・スタエルスキ監督との単独インタビューについては、ネタバレにあたる興味深い事実も聞き出すことができた。こちらは別記事でお伝えする予定だ。
映画『ジョン・ウィック:パラベラム』は2019年10月4日(金)全国ロードショー。
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