Menu
(0)

Search

ジェラルド・バトラーのステルス鬼ごっこ大作『カンダハル 突破せよ』は『マッドマックス羅生門』?敵も味方もキャラが濃い、リアルな荒野大脱走アクション

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

身バレしちゃった孤軍奮闘ジェラルド・バトラー&出会ったばかりの通訳おじさん VS あちこちから現れる超精鋭ハンター集団の、命懸けの“逃走中”アクション映画『カンダハル 突破せよ』。『エンド・オブ・ステイツ』(2019)『グリーンランド -地球最後の2日間-』(2020)に続く、ジェラルド・バトラーとリック・ローマン・ウォー監督3度目のタッグ作は、敵地のど真ん中に取り残された身バレ工作員が、脱出ポイントを目指して突き進むステルス鬼ごっこ大作だ。

元諜報員の実体験を基にした骨太スパイアクション。潜伏先の中東イランで原子炉破壊作戦を無事成功させた主人公トム・ハリスだが、CIAの内部告発によって機密情報が漏洩、身元がバレてしまう。追われる身となったトムは、訳もわからず巻き添えになった通訳のモーと一緒に現地脱出を図る。目的地は400マイルのカンダハルCIA基地。30時間後に離陸する飛行機に乗らなければ、生き残るチャンスはゼロだ。複数の対抗勢力がそれぞれの威信をかけて一斉に追ってくる中、果たしてトムは逃げ切ることができるのか?その見どころを余すことなく紹介したい。

ジェラルド・バトラー、今度は絶体絶命の“身バレ”工作員に

主演のジェラルド・バトラーといえば、これまで敵軍を迎え撃つスパルタの王(『300 〈スリーハンドレッド〉』)、テロと戦う最強シークレット・サービス(『エンド・オブ』シリーズ)、地球滅亡に立ち向かう科学者(『ジオストーム))やロシア大統領救出に挑んだ潜水艦艦長(『ハンターキラー 潜航せよ』)と、数々の脅威と全身で戦ってきた。

今作で演じるトム・ハリスは、“どこにでも潜り込める男”と評される凄腕CIA工作員だ。リック・ローマン・ウォー監督曰く「戦争依存症」。長年、プライベートや家族のことはおざなりにしてきていて、もうすぐ卒業式を迎える10代の娘のために贈り物を買おうとするが、何を選べばいいかわからない。そんな仕事一筋の現場主義男が、任務で出会う家族想いの通訳との出会いを通じて、少しずつ人間性を取り戻していく。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

『カンダハル』強者すぎる追手勢の皆さん

本作で主人公トム・ハリスは様々な勢力から容赦なく追われることになるが、追手勢の中でも特に推したいのが、アリ・ファザール演じる一匹狼の若手エージェント、カヒルだ。個性的なキャラクターが勢揃いするこの大捕物合戦の中でも、カヒルのキャラ立ちはハンパない。

チャラい都会派 一匹狼カヒル

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

この映画はほぼ全編で中東の砂漠地帯を舞台としているので、登場人物の多くは砂埃にまみれ、頭にターバンを巻くなど、現地に馴染んだ服装をしている。しかしエリートハンターのカヒルは別で、都会的な洋服を着て、サングラスをかけ、ベイプを吸い、爆音でヒップホップを聴き、ピカピカの黒いバイクに乗って疾走する。カヒルだけは、そのまま『ミッション:インポッシブル』とか『ワイルド・スピード』にも登場できそうな出立ちなのだ(後述するが、演じたファザールは実際に『ワイスピ』に出演している)。

そして、チャラい。ターバン姿のタリバン老指導者たちを相手にした会合の最中にも、なんとマッチングアプリで女の子を探している。スマホをいじりつつも、タリバンの武力的な古い価値観に反対意見を述べ、自分たちはもっと現代化するべきだとスマートに主張。ちゃっかり年配の指導者らのハートを掴むと、いざ会議を抜け出せば「全員イカれてる」「あいつら全員過去の遺物ですね」と上司に電話で毒を吐く。

ジェラルド・バトラー演じる主人公トムが熱血タイプであるのとは対照的に、カヒルはオンとオフがはっきりした、割とQOLを大事にするクールなタイプだ。休日の最中、ホテルのベッドで女性と気分よく眠っていると、「今からスパイ(=主人公トム)を捕まえに行け」と指令の電話がかかってくる。「え、いま休暇中なんですが」と、若干イラつきつつ、カヒルはヘリコプターで現場に急行する羽目になる。

シティボーイのカヒルは、やっぱり砂漠での任務が性に合わないらしく、これが終わったらロンドンやパリに転属したいと訴える。ひたすら広大な砂漠が広がるアフガニスタンで、「何でオレがこんな仕事を」とでも言いたげな、少しの気だるさにヘルメットを被せて、砂埃をあげながら孤独に走るカヒル。憧れのアーバンライフを手に入れるために、何がなんでもトム・ハリスとかいうスパイを捕まえなくてはならないのだ。

カヒルを演じるのは、インドのボリウッド・スターとして日本でもアツいファンの多いアリ・ファザール。2017年には、米Varietyの「観るべき俳優10選」にティモシー・シャラメと並んで選出もされた注目株だ。よく知られている出演作は『きっと、うまくいく』(2009)。『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)にもカメオ登場したが、カメオにしてはホットすぎる存在感で話題を集めた。『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(2017)ではジュディ・デンチのヴィクトリア女王に仕える主役級を演じ、『ナイル殺人事件』(2022)にも出演。『カンダハル 突破せよ』でのファザールについて、プロデューサーのブレンドン・ボイーアは「まさにロックスター。本当にカッコいい」とベタ惚れである。

泣き顔が逆に恐ろしい アサディ大佐

各勢力が入り乱れる『カンダハル 突破せよ』には、他にも注目の追手がエントリー。カヒルの他にもう一人取り上げたいのが、イラン革命防衛隊の精鋭集団、コッズ部隊のファルザド・アサディ大佐だ。我が国の原子炉が爆破されたことで、国家の威信をかけてトム・ハリスの足取りを追うわけだが、そこでスパイ容疑者の女性ジャーナリストを捕らえて監禁。この取り調べを行うのがアサディ大佐である。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

垂れ下がった物憂げな目元はいかにも慈悲深そうで、「私にも娘がいます、あなたを帰らせてあげたい」とめちゃくちゃ理解的。あぁよかった、これは“話せばわかるタイプ”の予感がするぞと、誰もが思うだろう。

しかし、求めている情報が女性ジャーナリストから得られないとわかると、これまた残念そうな顔で突如退室。「“帰らせてあげたい”って言ったじゃないですか!」と女性が泣きながら訴えると、どこまでも哀しそうな顔でこう言い放つ。「帰れますよ。殉教者として」……怖すぎるやろがい!

実際にアサディ大佐は、帰りを待つ家族を残してこの危険な仕事に従事している。市街戦後の死傷者が転がる惨然たる現場で、カタギの奥さんと「何時に帰ってくるの?晩御飯は?」「今日はちょっと遅くなるよ」と生活感バリバリの電話をする姿が強烈に印象的だ。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

“ミスター・四面楚歌”トム・ハリスを地獄の果てまで追ってくるのは、チャラめな都会派一匹狼カヒルと、泣き顔が逆に恐ろしいアサディ大佐だけではない。タリバンの息がかかったゲリラ、金次第で敵にも味方にもなるウォーロード率いる武装集団も参戦し、荒野のデス鬼ごっこは混戦を極めていく。

頼れるのは通訳のおじさん モーだけ

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

そんな状況でトムが頼れるのは、まだ出会ったばかりの現地通訳のおじさん、モハマドことモーだけ。故郷で行方不明になった妻の家族を探すために中東に渡ってきたのだが、詳細を知らされないままトムの危険な任務に同行することになる。つまりモーからすれば、聞いてた話と違うぞというわけだ。

初めのうちは何だかピリピリしている二人だが、互いの命がかかった極限状況の中で、思わぬ絆が芽生えていくことになる。逃げ場なしの戦地の中で、モーは唯一、戦闘訓練を積んでいない一般人だ。トムよ、絶対にモーを守り抜いて、生きて脱出してくれ!

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

言わばマッドマックス羅生門?監督が参考にした映画

各国や各勢力の視点を織り交ぜたことについて、リック・ローマン・ウォー監督は『羅生門』の手法を取り入れたと述べている。1950年の黒澤明監督の名作のように、一つの追走劇をそれぞれの視点から複合的に追体験できる。プロデューサーのブレンドン・ボイーアはこう話す。「この作品では観客があらゆる登場人物に共感できるよう作られている。中東で対立関係にあるいくつもの勢力が、なぜそのような行動をとっているのか、観客にも明確に理解できる」。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

ジェラルド・バトラーとは信頼と実績の3度目タッグとなるリック・ローマン・ウォー監督はスタントマン出身で、アクションへのこだわりが強い。「僕はアクションのためのアクションには興味がない」と語る監督は、感情移入ができるアクションづくりを目指している。

中でも本作の注目は、ハリウッド映画としては同地最大規模でのロケ撮影が行われたサウジアラビアの贅沢な景色を活かしまくった、壮大爆走砂埃チェイスアクション。映画ファン的には、この画を観ればつい『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思い出してしまう。もしかして、参考にしたのだろうか?

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

監督に直接尋ねてみると、「砂漠、車、ハイスピードチェイスとくれば、やっぱりジョージ・ミラーをお手本にしないわけにはいかないでしょう!」とノリノリ。「まさに参考にしましたよ!」と、『マッドマックス』からの影響を認めた。『カンダハル 突破せよ』では、より実戦仕様のチェイスが緊迫感いっぱいに描かれる。『ジョン・ウィック』シリーズを手がけた敏腕プロデューサー、ベイジル・イヴァニクも製作に加わったことで、銃撃戦にも凄みが増した。

アクセントとなるのが、夜間の戦闘シーンでの暗視スコープを通じたPOV(一人称視点)映像だ。クロームメッキ調の白黒映像にガラリと変わる様はインパクトも臨場感も抜群。色彩に変化を加えるところも、ある意味『マッドマックス 怒りのデス・ロード』的ではないか。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

実話に基づくリアルな物語、「中東版『ボーダーライン』」

緊迫感たっぷりのスパイ・ストーリーに生々しいリアリティが感じられるのは、実際にアメリカ国防情報局の職員として何度もアフガニスタンへ派遣された異色の経歴を持つミッチェル・ラフォーチュンの脚本によるものだ。実は彼、元CIA局員のエドワード・スノーデンによる内部告発事件が起きた2013年時にアフガニスタンに滞在しており、本作はその時の経験をもとに執筆した。

紛争地帯を舞台としたアクションスリラーとして、『ハート・ロッカー』(2008)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)、『アウトポスト』(2020)といった硬派な作品がお好みの方にもおすすめだ。さらに監督は、メキシコ麻薬カルテルを描いたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『ボーダーライン』(2015)が大好きだといい、『カンダハル 突破せよ』は「私にとって中東版の『ボーダーライン』」だとも述べている。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

タイムリミットは30時間。「追手の攻撃を交わしながら、目的地カンダハルまでひた走る」というシンプルなプロットに、追う側・追われる側のさまざまな事情を絡めた立体的なスパイアクション映画『カンダハル 突破せよ』は2023年10月20日(金)、日本公開。このリアルな臨場感は劇場で味わいたい。

カンダハル 突破せよ
© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

Supported by クロックワークス

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly