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『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ローズ役女優、「私はこの世界で努力を続ける」 ― SNSでの嫌がらせ受け、心境と願いを語る

ケリー・マリー・トラン ライアン・ジョンソン
Disney/Image Group LA https://www.flickr.com/photos/disneyabc/35559685240/

映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)でローズ・ティコ役を演じた女優ケリー・マリー・トランが、米New York Timesにて自身の心境を語った。
2017年12月に同作が劇場公開されたあと、ケリーはInstagram上で一部映画ファンからの激しい嫌がらせを受け、2018年6月にすべての投稿を削除。このたびSNSを去ってから初めて、自らの思いと考えを明らかにしている。

ケリー・マリー・トラン(右) Photo by Disney/Image Group LA https://www.flickr.com/photos/disneyabc/35559685240/

ケリー・マリー・トラン、これまでの経緯と現在の心境

1989年生まれのケリーは、ベトナム戦争によってベトナムからアメリカへと移った両親のもとに生まれた。数々のテレビドラマや短編映画でキャリアを重ねたのち、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に抜擢されている。しかし同作の公開後、SNS上ではストーリーや役柄に関する批判にまぎれて、その性別や人種に対する差別的な発言が繰り返されてきた。

New York Timesにて、ケリーはそういった心ない言葉について「彼ら自身の言葉ではありません。私は彼らを信じ始めたところなんです」と記している。自身に投げかけられた言葉は、女性として生まれ、白人のコミュニティで有色人種として生きるなかで教え込まれた、“自分は彼らの人生やストーリーの脇役としてのみ有効なのだ”という考えを再認識させたという。

ケリーはアメリカで生まれ、アメリカで育った。彼女は9歳の時に、ほかの子どもたちからバカにされるのが嫌でベトナム語を話すことを完全にやめ、しかし17歳の時に白人のボーイフレンド一家と食事に出かけた際には、ウエイトレスから“流暢な英語を話す留学生”だと思われたことを振り返っている。こうした経験は、「私はよそ者なんだ」という意識を強め、ほかの人と違う自分を、そのルーツとしてある文化を恥ずかしく思わせたそうだ。「でも一番落胆したのは、自分がそんなふうに感じたことだったんです」。

アメリカで生きてきた中で、ケリーが教わったことがあるという。ある人々に向けて“ヒーローになれる、救世主になれる、アメリカの理想を継ぐことができる”と語られ、成功や充実が声高に主張される中で、自分はその日陰にしかいられないということだ。しかしケリーは、「ある種類の人間、ある性別、ある肌の色、ある存在が力を維持するために作られた言葉や物語をずっと信じていました」という。その裏側では、両親がベトナム人としての本当の名前を捨て、発音しやすいアメリカでの名前を付けていた。

「文化を文字通り消し去ってしまったことには、今でも心を痛めています。そのことを認めようとしないほど、かえって自分自身を責めるようになるんですよね。“もしも痩せていたら”、“もしも髪を伸ばしたら”、一番ひどいのは“もしもアジア人じゃなかったら”。何ヶ月も自己嫌悪を繰り返して、どん底に落ちていきました。そういう言葉を自尊心よりも優先して、自分自身をボロボロに傷つけたんです。」

しかしある時、ケリーはひとつの思いに至った。自分という人間には誰かが用意した限界があると思い込み、自分の身体を自分のものではないかのように感じ、誰かの基準によって自分の美しさが決められているように考えていた自分がいたのだ。そうした考えは、ハリウッドや、人々の弱みにつけ込んで服や靴を売り、メイクアップをビジネスにする企業によって刷り込まれたものだということに気づいたという。

かつて自分自身や自分のルーツを恥ずかしく感じていたケリーは、今では自分が育ってきた世界や、そこでの“独特な人々”の扱い方に対して恥ずかしさをおぼえる、と語っている。しかし同時に、ケリーは自分が育ってきた世界を捨て去りたいとも思っていないそうだ。

「私は、有色人種の子どもたちが、“白人になりたい”と願いながら思春期を過ごさずにすむ世界に暮らしたい。女性たちが、見た目や行動、存在を監視されずにすむ世界に暮らしたい。人種や宗教、経済的な階級、性的志向やアイデンティティ、それぞれの能力にかかわらず、すべての人々が常に“人間”として捉えられる世界に暮らしたいんです。この世界で私は暮らしています。だから、私はこの世界で努力を続けていくんです。」

同時にケリーは、「私は稀有な機会に恵まれて、今では生きることについての物語や、見聞きした話を語ることができる、特別な人たちの小さな集団に所属しています」とも記した。「それがいかに大切なことかはわかっています。だから諦めないんです」とも。

New York Timesの記事にて、ケリーの言葉はこのように締めくくられている。

「みなさんは私をケリーとして認識しているかもしれません。私は『スター・ウォーズ』で大きな役柄を手にした、初めての有色人種の女性です。私はVanity Fair(編注:米国ほかで刊行されているカルチャー、ファッション誌)の表紙に載った、初めてのアジア人女性です。私の本当の名前はローン(Loan)。私はまだ始まったばかりです。」

ケリーは『スター・ウォーズ』シリーズの次回作、映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にもローズ・ティコ役で引き続き出演する。同作でケリーがどんな活躍を見せてくれるのか、そしてその後はどんな作品に登場するのか、今後も世界から大きな注目が集まるにちがいない。

Source: New York Times
Eyecatch Image: Photo by Disney/Image Group LA

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。