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【ネタバレレビュー】『君の名は。』はまぎれもなく”ポスト311”映画である

新海誠作品は『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』はすでに見たことがあります。多くの方が評価する通り、アニメーションは本当に素晴らしい。日常の何気ない一コマをあれだけ美しく描けるのは、彼ぐらいなものでしょう。雨の代々木公園にたくさんの人があこがれを抱いたと思います。

しかし一方で、2作とも生きた人間を語るにしては、どうにも陳腐で薄っぺらい内容であると感じていました。明らかに作り手の都合で動いているとしか思えない人物、わざとらしさが残るアイテムの数々。「青春のど真ん中を生きていた当時の自分は輝いていた」とか「どうせあの女性は高嶺の花だ。手は届かない」とでも言いたげ、内向きで、聞いてもいないのに自分語りでもしそうなナルシズムの匂いを感じる主人公たち。優しさの源も結局自分可愛さゆえの自己保身にすら見えてしまう。拗らせきっていて、なんとなく感情移入ができないのです。だから結局、新海誠の作品が面白いのは、美しい映像で薄っぺらい内容を粉飾しているに過ぎないからだ、そういう評価がある程度自分の中で固定されてしまっていました。

しかしながら8月26日公開の同監督最新作『君の名は。』はこれまでとは大きく異なり、長編アニメーション映画として明らかに一皮むけていました。彼の作品特有の青臭く拗らせた雰囲気が、多くの観客を感動させる大事な要素に変換されていて、万人受けする作品に仕上がっていたのです。そしてなにより驚いたのが、これがまぎれもなく”ポスト311”映画であること。同じ東宝配給の『シン・ゴジラ』と共通の発想が、この映画の源になっているのです。それが果たしてどういうことなのか、これから探っていくことにしましょう。

【注意】

この記事は、映画『君の名は。』の重大なネタバレ内容が含まれています。

http://news.ameba.jp/20160324-337/
http://news.ameba.jp/20160324-337/

スマホ社会の現代でいかにして”すれ違い恋愛”を成立させるか

核心に触れる前に、予告編やポスターでも強調されていた”すれ違い恋愛”の面白さについて考えてみましょう。まずメロドラマで最も大事な部分ってなんでしょう?当然、想い合うふたりの間に用意される障壁の数々です。メロドラマでなんの苦労もなく男女が結ばれてしまっては、さっぱり面白くないでしょう。だから物理的距離、時間差、身分の違いなど、ありとあらゆる手を使い、物語の作者は相思相愛のふたりを引き裂こうとします。たとえば『ロミオとジュリエット』だったらふたりの間に身分の差があるからこそ悲恋という要素が際立つ。さっき男女という言葉を使いましたが『ブロークバック・マウンテン』なんかでは男同士の恋愛を設定することで、差別や偏見といった抗いがたい障壁に破壊されていく恋の虚しさ、ふたりの苦しみを描いていきます。

そういうメロドラマに用意される障壁の中でも、昔はよくあったのが”すれ違い”です。たとえば、男女が手紙のやり取りで、何時何分に駅で会いましょうとデートの約束をする。ふたりは決めた通りに駅にやって来るのだけど、柱で背中合わせに集まっちゃったせいですぐ傍にいるのに気が付かなかったり、なんらかのアクシデントがあって集合時間に間に合わなかったり、という具合に結局約束通りに会うことはできません。そういう”すれ違い”のせいで上手くいかないという展開がありました。むかしは物理的・時間的距離はどんなに頑張っても解決できない問題だったからです。物語の中の恋愛にも不確実性がありました。しかし、2016年の現代にそういうお話を作るわけにもいきません。なぜなら情報・通信技術が著しく発達し、いつでもどこでも誰とでも繋がれる社会になったからです。スマホを片手に握りしめていれば、駅の集合時間に遅ようが、迷子になろうが、電話やLINEを使って”すれ違い”を防ぐことができます。世界中の人間とリアルタイムで繋がれるのは非常に便利ですが、その分だけフィクションの世界は安易に”すれ違い”を作れなくなってしまったのです。たぶんここ20年ぐらいは多くの作家たちがいかにして面白い”すれ違い”を作るのかに頭をひねってきたのではないでしょうか。

『君の名は。』では”すれ違い”の問題を男女の「入れ替え」によって解決しています。瀧と三葉はそれぞれ都会と田舎に住んでいて、お互いの素性もよく知らない。コミュニケーションも日記という間接的なものにとどまります。しかしお互いが相手の中に入り、どんな生活をしているのかを知る中で、次第に特別な感情が芽生えてくる。いろいろなプロセスをすっ飛ばして突然”合体”してしまうのだから、かなり特殊ではありますが...とにかく二人はそれぞれ自分の内にある相手への恋愛感情に気付きます。そしてそのタイミングで明かされる真実は、本作をほかの男女の「入れ替え」とは一味違ったものにしている。長野の山奥に住む三葉が実は2013年の隕石災害で死んだ過去の人間であり、東京に住む瀧とはそもそも生きている時間が違ったのです。ここに「都会と田舎」の対比に加えて、「現在と過去」という別次元の断絶が明かされます。ふたりの間にはツーバイツーの”すれ違い”があったんですね。『君の名は。』はSF的なアプローチによって、少々強引ではありますが、”すれ違い”を生み出すことに成功しているといえます。逆に言えば、これぐらいの力技じゃないと、情報社会の現代に”すれ違い恋愛”を語ることは難しいということです。

Writer

トガワ イッペー
トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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