Menu
(0)

Search

【解説レビュー】素晴らしい映画化!『聲の形』原作との違いをチェック

大今良時による漫画聲の形のアニメ映画化作品がヒットしている。ろう者・いじめ・贖罪といった重いテーマを正面から扱った原作は大いに話題になった問題作で、その過酷ないじめ描写や、いじめの加害者と被害者の間に芽生える恋愛感情などについて批判する声も多い。今回の映画化では【いじめ加害者と被害者の関係】を中心に、主人公が罪の意識にもがき苦しみ成長する姿を丁寧に描き出している。

全7巻に及ぶ原作を1本の映画にまとめあげるためには、原作にある要素を取捨選択する必要がある。”説明描写”を回避して詩的な表現を多用するあまり、原作未読の人にとっては少し分かりにくいのでは?と感じた部分も少しあったものの、全体的に映画『聲の形』はスッキリとまとまっていた。なによりも主人公・将也の苦しみや葛藤がしっかりと語られ、原作に対する誠実さが感じられた。

しかし、私が原作を読んだときに最も強く感じた恐怖が削られてしまっていた。それは、将也以外の登場人物の心境や、ろう者である西宮に対するそれぞれの視点の違いからくる恐怖だったのだが、せっかくなので、ここに記しておきたい。

【注意】

この記事には、映画『聲の形』のネタバレ内容を含みます。

あらすじ

石田将也が通う小学校に、ある日聴覚障がいを持つ西宮硝子が転校してきた。筆談での交流を試みる西宮に対し、はじめはクラスメートたちも協力的に対応するものの、徐々にペースが乱されていくことに苛立ちを感じ始める。そして、その苛立ちはイジメへと発展する。イジメの首謀者たちは将也を中心とするグループだった。イジメの内容はエスカレートし、西宮の補聴器を繰り返し投げたり破壊するなど深刻化する。ついに問題は明るみになり、将也はイジメの責任を押し付けられてしまう。そして今度は、将也がイジメのターゲットになるのだった。

高校入学を控えた将也は、補聴器の弁償代170万円を実母に返し、西宮に謝罪して命を絶とうとするのだが、西宮と再会したことで気持ちに変化が生じて……。

各キャラクターの【西宮に対する視点】から浮かび上がるもの

西宮と再会したことで、自殺する以外の贖罪の方法を模索する将也の葛藤が描かれている本作。いじめた側の罪を容赦なく何度も何度も問い続けてくる作品だ。決して消せない過去とどう向き合い、いま目の前にいる西宮とどう向き合い、直視してこなかった周囲とどう関わるのか。イジメ加害者である将也の葛藤については、映画聲の形』の中に完璧に落とし込まれている。

しかし、私が漫画聲の形』を読んで衝撃を受けたのは、将也の葛藤と成長以上に、将也を取り囲むキャラクターたちの描き方だった。映画『聲の形』では省かれていた部分も含め、解説していきたい。

ゴッソリカットされた 【映画製作】部分

まず、映画聲の形』でゴッソリカットされていた要素として【映画製作】がある。原作では、将也の”親友”となる永束の発案でスタートする自主映画製作が後半のストーリー上のポイントとなっていて、映画中で描かれていた喧嘩なども、本来はこの映画製作の過程で生じたものだ。主人公である将也以外の登場人物の方が、主体的に映画製作に関わっていたという設定なので、原作ではそれぞれのキャラクターの意思や感情がよりクローズアップされているし、将也が昏睡状態となっている時期には、それぞれの過去について詳しく語られている。

永束友宏:西宮への視点【将也にとって大切な人】

「俺は親友」と言って首謀者少年に寄り添う見栄っ張りな永束は、常にフラットな視点を持つ人物だ。映画『聲の形』ではコミックリリーフ的なキャラクターとして存在感を発揮していた。彼に一貫しているのは、西宮のことを【将也の片想いの相手】と見ているという点だ。映画製作のために皆で話し合いをするシーンで、将也は「西宮も仲間に入れよう」と提案する。その意見は受け入れられるのだが、将也は皆が「可哀想だから」西宮を仲間に入れてあげたと思っている。しかし、永束は将也にこう言う。「将也の大切な人だから仲間に入れたいと思った」と。永束にとって、西宮は【ろう者】である前に【将也の想い人】であり、西宮が【ろう者】であるというフィルターを外せないのは、誰よりも西宮を救いたがっている将也なのだと気づかされるセリフだ。

真柴智:西宮への視点【自分と同じ元イジメ被害者】

映画では小学校の事件とは唯一無関係の友人として登場する真柴は、実は元イジメ被害者であり、加害者たちへの強い憎しみを持っている。彼は【イジメ被害者】という立場から物事を判断しているが、将也たち【いじめる側】の人物と触れ合うことで、その立場の曖昧さを知り、人間は変わることができるという可能性に希望を見出すことになる。彼は西宮を【自分と同じ元イジメ被害者】として認識しているが、彼女の障がいについては、はじめから問題にしていない。将也にとって真柴は、イジメ加害者としての罪をつきつけてくる存在であると同時に、常に自分の信念に基づいて行動できる尊敬すべき存在でもある。

Writer

umisodachi
umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly