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【解説】『君の名は。』に次ぐランキング2位の超話題作!映画『聲の形』レビュー 繋がりたくても繋がれない…

週間マガジンに連載され数々の賞に輝いた大今良時さんの『聲の形』。『けいおん!』シリーズや『たまごラブストーリー』の山田尚子監督が手掛けた劇場版が好評です。スタッフトークつき上映会で、監督は“伝えたくても伝えられないコミュニケーションの難しさ”がテーマだとコメントされています。

以下、原作未読のネタバレです。

【注意】

この記事は、映画『聲の形』のネタバレ内容を含んでいます。

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なぜ将也は硝子をイジメるようになったのか

やんちゃな小学生の将也は転校してきた硝子に興味を持ちます。後に「ただ、話したかった」と言う高校生の将也。それは正直な気持ちだと思います。ちょっかいを出しても行き違い、自分を守るために愛想笑いをして「ごめんなさい」を繰り返す硝子。そんな彼女にもどかしさを感じ、イジメへとエスカレートしていきます。筆談ノートは面倒だし、手話もできない将也にとってコミュニケーションをとる方法が分からなかったのです。根本的には気になるからスカートめくりをする男の子と同じ心理で、将也自身はイジメをしてる自覚がなかったのではないでしょうか。

けれど、今度は自分がイジメられる側になります。人間不信になり、信頼できる人以外の他人の顔が見られなくなるのです。心に蓋をしている状態で、顔だけではなくリアルな声や心の声(想い)もシャットアウトしています。
自分が蒔いた種は自分が刈りとらなければならない。つまり、放棄せずに何かの行動を起こさないと絶望的な状況から抜け出せません。自転車の件で絡まれていた永束を助けたこと、それが初めの第一歩でした。

決めつけ、思い込みという“落とし穴”

たくさんの登場人物。原作ではそれぞれのキャラクターに対して丁寧な説明があるようです。この映画だけを観ると、99%の方が川井みきが一番嫌いだと感じるのではないでしょうか。私を含めて人間とは、表面的なものや一部分しか見ないで、ある人間に対して「こういう人だ」と決めつけ裁きたがります。自分の思い込みによって人を判断してしまうのです。
けれど、川井みきの生い立ちやこれまでの体験、抱えてきた想いなどを知ると“嫌い”という感情が弱まるのでは?むしろ好きになるかもしれません。その人の本当の想いや、何故その言葉を発したのか、何故その行動をとったのか、という動機はテレパシーでもない限り解るはずもないのですから。だから衝突やすれ違いなどのトラブルが起こり傷つけ合うのです。

本作は、将也と硝子はもちろん、ほかの登場人物も決めつけや思い込みによってコミュニケーションがとれずにこれでもかと“落とし”、それでもつながることの大切さを示唆しています。

なぜ硝子は将也を好きになったのか

あそこまでイジメられたら好きにはなりませんよね。植野が将也を好きだったように、将也には女子に好かれる“何か”を持っていたのでは。転校して初めて将也を見た硝子は一目惚れに近い気持ちを抱いていたのかもしれません。
硝子は外ではなく内へ内へと自分の感情を押し込め、何かあると「自分が悪いから」「自分のせいだから」と思い(思い込み)、一途で繊細です。落書きをされた将也の机を拭いてもその想いは伝わらず取っ組み合いになりますが、それでも理解し合えません。
イジメられて傷ついて離れても、心底将也を恨むようなことはなかったのですね。

将也が池へ落とされ、そこにあった硝子の筆談ノート。まるで「このノートを持って謝りに行け」と暗示しているような演出で、将也は実際にそうするのですが…。それは“大切なチャンス”。まだ二人はつながっていることを意味します。
出会うべくして出会った将也と硝子。運命。『君の名は。』のようですが、こちらは将也が過ちを犯し、絶望から光を見つける再生物語で、そのために出会ったのです。

なぜ硝子は自殺をしようとしたのか

突然、死のうとしたように見えますが、いくつかの理由が重なったからです。もちろん意志の疎通が上手くできないことで周りに迷惑をかけてきたから、という想い(思い込み)が根底にあります。障がいは“個性”ですがその痛みは共有できません。喜びは共有できますが残念ながら痛みは本人しか解らないのです。

「石田君の築き上げたものを壊してしまった」という自責の念。おそらく片方の耳がほとんど聞こえなくなってしまったこと。(それは一つしかなかった補聴器や、硝子に付き添って病院に行ったおばあちゃんの心配そうな顔とベッドで泣いていた硝子のショットで分かります。)優しいおばあちゃんが亡くなってしまったこと。髪をポニーテールにして将也に「好き」と告白しても伝わらなかったこと。いろいろなことが重なり生きていく気力がなくなってしまったのですね。

心の声に耳を澄ませて

決めつけや思い込みで人を判断することによって起こるすれ違いや衝突。それらを解決するにはどうしたらいいのでしょうか。相手の言動がその人の全てではなく、ほんの一部に過ぎないと認め、自分の考え方や見方が正しいと思わないことです。完全な人間などいないのですから。想像力を働かせて“心の声”に耳を傾けることが大事なのだとこの作品は教えてくれています。なかなか難しいことですよね。

ラストシーン。下を向かずに顔を上げ、遮断していたリアルな人の声を聴くことができた将也。周囲の顔の×印がはがれていきます。実は将也も決めつけや思い込みによって判断し、様々な人の声を聴くことをやめていたのです。とめどもなく流れる涙。やっと自分を許し心を解放できた瞬間です。

人は絶望に陥っていると周りが見えません。おばあちゃんが亡くなった時に現れた蝶々、それはおばあちゃんの魂。
花火やコスモス、ひまわり、カモメ、星空etc…。

 

世界は美しいもので溢れているんですね。

Writer

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プルーン

ピアノ教師、美容研究家、ライターetc.

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