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【解説】ジョニー・デップ『L.A.コールドケース』ラッパー暗殺事件って? ─ 90年代ヒップホップ界で起きた最悪の未解決事件とは

L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

ジョニー・デップとフォレスト・ウィテカーが豪華共演、話題のクライム・サスペンス映画『L.A.コールドケース』が、2022年8月5日より日本公開となる。

本作は、1990年代ヒップホップ・シーンを代表するラッパー“2パック”“ノトーリアス・B.I.G.”が暗殺された未解決事件を題材に、実在の熱血刑事と記者が事件の真相を探るべく戦う、スリリングな実話映画だ。豪華キャストに魅せられて興味を持った方の中には、題材となった事件についてあまり詳しくなく、きちんと楽しめるか不安、という声もあるのでは。そこで本記事では、映画で描かれる2パックとノトーリーアス・B.I.G.の暗殺事件について解説しよう。ヒップホップには全く詳しくないという方でも、ひとまずこれを読めば『L.A.コールドケース』でベースとなる知識は得られる。もちろん、映画の中でも事件についての説明描写はあるが、本記事で予習しておけば、さらにスムーズに楽しめるはずだ。

L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

1990年代アメリカ、ヒップホップ界の東西抗争

そもそも、どうして『L.A.コールドケース』で描かれたような暗殺事件があったかというと、1990年代のヒップホップはアメリカの東海岸側と西海岸側の派閥による激しい対立があり、かなりピリピリしていたからという素地がある。

その代表人物は、東海岸のレーベル「バッド・ボーイ・レコード」に所属するラッパー、ノトーリアス・B.I.G.(本名:クリストファー・ウォレス、通称ビギー。劇中でも様々な呼ばれ方をするので覚えておこう)、そして西海岸「デス・ロウ・レコード」の悪名高きボス、シュグ・ナイトと看板ラッパーの2パックだ。

ノトーリアス・B.I.G.ことビギーと2パックは非常に有名なラッパーなので、洋楽やラップミュージックには疎いという方でも、知らず知らずのうちに彼らの楽曲を耳にしているはずである。2人ともカルチャー・アイコンと化しており、例えばビギーが王冠を被った肖像画は頻出。マーベルのドラマ「ルーク・ケイジ」でも、ヴィランのアジトにデカデカと飾られていて、劇中に何度も登場した。2パックもヒップホップ史における極めて重要な革命児であり、彼に影響を受けたアーティストの数は計り知れない。

歳が一つしか違わない2パックとビギーは、元々親友同士だった。しかし、ある時2パックはビギーのテリトリーで銃撃事件に遭ったことで、ライバル関係であるビギーら「バッド・ボーイ・レコード」の連中に狙われたのではないかと疑いを深めていく。疑心暗鬼の2パックがビギーをディスる曲をリリースすると、いわゆる「ビーフ」と呼ばれる対立関係に発展。メディアもこぞって煽り立て、東西対立は激化の一途を辿った。

銃社会アメリカにおいて、「ビーフ」とはラッパー同士の単なる小競り合いでは済まされない。加えて、「デス・ロウ・レコード」のボスであるシュグ・ナイトがかなりの危険人物。本物のギャングとつながっている、敵対相手に暴行をはたらいているという黒い噂も絶えない人物だ。暴行、恐喝、銃、ギャングといった恐るべき話題も巻き込んだこの東西抗争は、最悪のバッドエンドへ辿り着いてしまう。2パックとビギーが共に暗殺されてしまったのだ。享年、わずか25歳と24歳だった。

こうして90年代のヒップホップ界とメディアは、自らが招いた対立騒動によって、若き才能を永遠に失うことになってしまう。そしてこの暗殺事件こそが、『L.A.コールドケース』で描かれる“アメリカ史上最も「悪名高い(ノトーリアス)」未解決事件”だ。

 L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

2パックとビギーの暗殺事件

2人の暗殺の瞬間は、ヒップホップ界では強烈な光景として語り継がれている。2パック襲撃は1996年9月8日。この夜、彼は友人のマイク・タイソンのボクシング試合観戦のためラスベガスを訪れていた。そこからクラブへ向かうためシュグ・ナイトと乗っていた車が赤信号で停車中、横付けしてきた真っ白のキャデラック車内から何者かが銃撃。その6日後の9月13日に死亡した。

ビギーが指示したのではないか、との噂も囁かれた。これを真っ向から否定していたビギーだが、その約半年後の1997年3月8日、同じような形で暗殺される。パーティーの帰り道、仲間たちと乗車していた車がやはり赤信号で停止車中、横付けしてきた黒い乗用車からの発砲を受け、同日のうちに息絶えた。

この二つの暗殺事件の真相は今なお、未解決のまま。様々な疑惑や説があるが、関係者が死去しているなど、はっきりした真実はわかっていない。ビギー暗殺については、シュグ・ナイトの依頼を受けたロサンゼルス市警警官が犯人であるという衝撃的な説もある。

事件の真相を追い続けた刑事ラッセル・プールと記者ジャック・ジャクソン

『L.A.コールドケース』が描くのは、このビギー暗殺事件を追い続けた実在の元刑事ラッセル・プールと、彼と協力したジャーナリストのジャック・ジャクソンだ。それぞれ、ジョニー・デップフォレスト・ウィテカーが演じている。

L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

ラッセル・プールは事件解明に執念を燃やした熱血漢だ。ロサンゼルス市警とシュグ・ナイトがつながっているという陰謀を解明すべく、波乱万丈で危険な捜査を続けた。プールは関係者や目撃者に次々あたり、事件の真相に近づこうと試みる。プールの読み通り、若き大物ラッパーの暗殺には市警が関与していたのか?事実であれば街が吹き飛ぶ大スキャンダル。当然、警察は隠匿を試みるので、そこでプールはロサンゼルスを黒く塗り潰すような陰謀に呑まれることとなる。

近頃は裁判騒動で注目されることも多かったジョニー・デップの、いわば日本公開“復帰”映画だ。スクリーンに登場するだけで視線を奪うそのカリスマっぷりは本作でも健在。スーツ姿で、おっかない相手にもグイグイ切り込んでいく様が印象的だ。

 L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

一方のジャック・ジャクソンは、この怪事件に身ひとつで挑むジャーナリスト。互いにはみ出し者であるプールとは時に対立しながらも立場を超えた友情を築き、終盤では彼らの熱いドラマが胸を打つ。近年では『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)『ブラックパンサー』(2018)といった大作映画でもお馴染みのフォレスト・ウィテカーが、デップとの濃厚なバディドラマをストイックに演じあげる。

『L.A.コールドケース』はヒップホップ界の大事件の捜査を描く実話映画だが、かといって「ヒップホップ映画」というわけではない。2パックとビギーの暗殺は90年代アメリカを知る人であればほぼ説明不要の有名事件であるため、本国でも特にヒップホップ・ファンをメインターゲットに据えているわけではない印象。むしろハードボイルド・クライムサスペンスとして地盤を固めている作風なので、本記事でご紹介した史実さえ抑えておけば、この実話ミステリーにすんなりと没入できるはずだ。

余裕があれば、同事件を題材にした別の作品のチェックもオススメ。ラッセル・プールのこの捜査劇は、2018年に「Unsolved: 未解決ファイルを開いて」としてドラマ化もされているほか、2パックの人生は映画『オール・アイズ・オン・ミー 』(2017)、ビギーは映画『ノトーリアス・B.I.G. 』(2009)やドキュメンタリー「ノトーリアス・B.I.G. 伝えたいこと」(2021)などでも丁寧に描かれている。共に楽しめば、『L.A.コールドケース』がさらに立体的に見えてくることだろう。

L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

最後におさらいしておこう。1990年代、アメリカのヒップホップ界は東海岸の「バッド・ボーイ・レコード」ノトーリアス・B.I.G .(クリストファー・ウォレス/ビギー)と、西海岸の「デス・ロウ・レコード」2パックシュグ・ナイトを中心に激しく対立しており、その結果として2パックもビギーも何者かに暗殺されてしまった。事件の真相は闇の中。ロサンゼルス市警が絡んでいるとの黒い噂もある中、熱血漢ラッセル・プールは真相解明にキャリアを捧げた。独自に調査を進めるジャーナリストのジャック・ジャクソンと共に、人生を賭けた一大捜査に挑んでいく。これが『L.A.コールドケース』のベースとなるところだ。

果たして、アメリカ史が最も悪名高い未解決事件として記憶する2大スター暗殺事件の、決死の捜査の末にたどり着いた「誰も望まない真実」とは。圧巻のクライムサスペンス『L.A.コールドケース』は、2022年8月5日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋ほかロードショー。その目で、確かめよ。

L.A.コールドケース
© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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