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【レビュー】『ラ・ラ・ランド』の魅力を支える「古今の融合」「完璧すぎないというリアル」

惜しくもアカデミー賞作品賞をまさかのハプニングで逃した『ラ・ラ・ランド』

筆者は20回近くの試写会に見事に惨敗したが、日本公開後すでに2回目を鑑賞し終えた。『ラ・ラ・ランド』は間違いなく“傑作”であるが、もちろんさまざまな楽しみ方があり、観る人によって捉え方が違うのも面白い。すでにTHE RIVERにはいくつかのレビューが載っているので、今回はエンドロールを観ながら私なりに考えた本作の魅力を、興奮が冷めないうちに記しておきたいと思う。

この記事は、寄稿者の主観に基づくレビューです。必ずしも当メディアの見解・意見を代弁するものではありません。

①絶妙な「古今」の融合

『ラ・ラ・ランド』では、演出、衣装、美術、音楽、ストーリーなど、さまざまなところで絶妙な「古今」の融合を感じることができる。言い換えると、描かれている現代の中に、ごく自然に古い時代の要素が取り入れられているのだ。たとえば、画面の比率が昔の映画と同じ2.25対1であること、ライアンが運転する1962年から1999年ごろまで使われたビュイック・リヴィエラ、A-haの音楽、昔ながらのジャズ、エマが一人芝居のために執筆する手書きの脚本、古き良きミュージカルへのオマージュ、かつてのスターのポスター、50年代を思わせるネオンサインの数々、そしてクラシックな印象を残すラストやエンドロールの字体など挙げはじめたらキリがない。

しかし本作では、古い世界に惹かれるノスタルジーだけを描くのではなく、キースのように現代的な価値観を持った若者がいたり、移り行く時代に取り残された映画館「リアルト・シアター」など、現代的な価値観も、直接的・逆説的に顔を見せる。

ところで今、日本では、昔のものが逆におしゃれというアナログ・ムーブメントが起こっている(アメリカの事情は今ひとつ分からないが)。

たとえば「デジタルカメラよりもフィルムカメラの方が温かみがある」「新しい服よりも、ヴィンテージストアで買った服の方がだれとも被らないからおしゃれ」……。まさにoldies but goodiesなものに魅了されている人が増えてきているのだ。ファストファッションやテクノロジーの発達により、身の周りが均一化、機械化されてきている現代社会において、統一性からの離脱人の温かみを求める若い世代が増えているのではないかと感じる。

しかしながら、彼ら(私たち)は完全なるアナログに回帰してはいない。たとえばフィルムカメラで写真を撮ってもプリントせずにInstagramに投稿したり、オンラインショップでヴィンテージクローズを買ったりと、デジタルとアナログの「いいとこ取り」をしているのだ。

このことを踏まえて『ラ・ラ・ランド』という映画を考えてみると、デミアン・チャゼル監督は、ジャズやミュージカルというハリウッドでかつて人気を誇ったジャンルをあえて持ち出すという行動に出ながら、懐古主義ではなく、むしろデジタルの中にアナログをナチュラルに取り入れることによって「いいとこ取り」をしている。この感性こそ、『ラ・ラ・ランド』が老若男女に受け入れられた大きな理由ではないだろうか。

②完璧すぎない、というリアル

『ラ・ラ・ランド』でとりわけ絶妙なのは、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンという配役だ。もちろん美男美女の二人だが、いわゆる“パーフェクト”なイケメンと美女ではなく、むしろ親近感を抱かせるキャラクターである。

たとえばエマは、劇中のオーディションに参加する美女たちとは違う種類のかわいさを持っているし、コメディ映画でのイメージもあるからか、失敗や挫折からもその人間味をうかがわせる。シーンによって違った表情を見せてくれるのも楽しい。一部報道によると、ミア役は当初エマ・ワトソンが演じるかもしれなかったというが、個人的には彼女だと完璧すぎて、本作のポイントである「ミュージカルらしい夢物語さに囚われないリアリティ」を表現することが難しかったのではないだろうか。またライアンも、どこか癖のあるビジュアルの持ち主だが、その絶妙な垂れ目が作り出す表情から応援したい気持ちになった方も少なくないだろう。

さらに、劇中でライアンとエマが踊るダンスも「リアルな不完全さ」が追求されている。たとえば“A Lovely Night”のシーンでも、二人は特別に踊りが上手いわけではなく、ダンス経験ゼロの私でも頑張れば踊れちゃうんじゃないか……というようなシンプルなステップで、その足並みも微妙に揃っていない。こうした完璧ではないダンスから、ミュージカル映画でいかにも「ダンス練習しました」感を出すことを回避し、「思わず踊っちゃった」という誰にでも起こりうるリアルな状況が作り出されている。

振付を担当したマンディ・ムーアが一番恐れていたことは、冒頭3分間で「ミュージカル映画」を突きつけた後、観客が冷めてしまうことだったという。そこでマンディは、熟練したダンサーっぽさではなく、劇中に出てくる人たちも皆、夢を追う普通の「リアルな」人間だということを振り付けでも重要視したと語っている。まさに劇中では、その「不完全こそのリアル」が表現されていると感じた。

ほかにも本作には、衣装やカメラワーク、ロサンゼルスの絶景など、様々な点でディテールにこだわりが見られ、書き始めるとキリがなくなってしまう。『ラ・ラ・ランド』は観る者の世代や価値観、経験、趣味趣向の違いで十人十色の発見を楽しめる映画だ。映画を観たあとは、ぜひいろんな感想やレビューを見聞きしていただきたい。

そして『ラ・ラ・ランド』を機に、『雨に唄えば』や『ロシュフォールの恋人』、イングリッド・バーグマンの出演作品など、ミュージカルや映画界を代表する作品に触れたいと思う若者も増えるといいな……と、私自身がその時代に生きたわけでもないのに、勝手に願っている(ちなみに筆者も感化されまくり、『理由なき反抗』や舞台版『雨に唄えば』を観たいと思っている)。

Source: http://pagesix.com/2017/01/28/emma-watson-miles-teller-lost-la-la-land-roles-for-being-too-demanding/
https://mobile.nytimes.com/2016/12/13/arts/dance/mandy-moore-dance-in-la-la-land.html
Eyecatch Image: http://www.indiewire.com/2017/03/la-la-land-live-score-screening-hollywood-bowl-1201790109/
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