『メガロポリス』予告編に虚偽の映画評論家酷評コメント、動画取り下げで配給が謝罪

巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督による渾身の新作『メガロポリス』新予告編が、実際とは異なる映画評論家コメントを使用していたとして異例の取り下げとなった。配給のライオンズゲートが謝罪する事態となっている。
『メガロポリス』は、廃墟と化したアメリカ再建を試みる天才建築家と、利権に固執する市長の対立や、市長の娘との恋愛模様も描く物語。『スター・ウォーズ』などのアダム・ドライバーとジャンカルロ・エスポジート、『ワイルド・スピード』シリーズのナタリー・エマニュエルら人気俳優が集う。
第77回カンヌ国際映画祭で初上映されると7分間のスタンディングオベーションも起こったとされるが、実際には賛否両論で作品表は大きく割れているという。
最新予告編では、こうした否定的な意見を逆手に取ろうと試みたようだ。予告編の冒頭では『ゴッドファーザー』(1972)や『地獄の黙示録』(1979)、『ドラキュラ』(1992)といったコッポラ監督の過去作に対する、公開当時の評論家たちの批判コメントが次々と登場していた。『ゴッドファーザー』については「ダラダラとした自己満足映画」「その芸術性によって価値が薄れている」「何がしたいのかわからない」、『地獄の黙示録』には「画期的な失敗作」「中身が空っぽ」「壮大なるゴミ」、『ドラキュラ』には「中身よりもスタイルの勝利」「華麗なる失敗作」「スベってる」といった辛辣なものだ。
現在では、これらの作品は傑作や名作として語り継がれている。『メガロポリス』についても、公開時の評論家からの辛口批評は作品の価値に影響を与えず、むしろ時の試練に耐えうる新たな傑作が誕生した、ということを伝えたかったようである。
ところが問題となったのは、映像に使用されたこれらの評論家コメントの引用元が不明、あるいは不正だったことだ。コメントには全て評論家の氏名と当時の所属・掲載媒体名が添えられているのだが、米VultureやVarietyは、これらのコメント全て、引用元の批評記事には該当部分が見当たらないことを次々と指摘した。
予告編に名前が登場した評論家たちの中には既に他界している者もある。『ドラキュラ』の部分で当時Entertainment Weeklyへの寄稿として「華麗なる失敗作」とのコメントが使用されたオーウェン・グレイバーマン氏は現在はVariety在籍の現役で、今回の映像に怒り心頭。「予告編は虚偽のシナリオの上に成り立っている」とコメントし、「華麗なる失敗作」という批評については「(当時)そんな風に言っておけばよかったよ!」とした。また、「中身よりもスタイルの勝利」というロジャー・エバート氏のコメントは、実際には『ドラキュラ』とは全く別の作品である『バットマン』(1989)に対する当時の批評からの引用だと指摘されている。
こうした致命的な誤謬が明るみに出ると、配給のライオンズゲートは映像を取り下げ、謝罪文を発表した。
「ライオンズゲートは『メガロポリス』の予告編を直ちに取り下げました。関係する評論家の方々、フランシス・フォード・コッポラ氏、そしてアメリカン・ゾエトロープ社に対して、我々の審査プロセスにおける許し難い失態を深くお詫び申し上げます。我々はしくじりました。申し訳ございませんでした。」
削除された映像は、本記事時点で米媒体のYouTubeにて視聴することができる(今後削除される可能性もある)。
作品にとっては災難なことに、予告編の内容よりも騒動の方が話題となってしまった。コッポラにとっては、『メガロポリス』に関する受難が続いている。構想は40年にもおよび、製作にあたっては自身の所有する自慢のワイナリーも売却して1億2,000万ドルもの費用を自費で捻出。現在85歳のコッポラにとってはこれまでのキャリアで築いた大部分を賭けて挑むような野心作だが、撮影中はトラブルが生じ、一時は撮影困難にまで陥ったとされた。
完成後も配給先がなかなか見つからず困難が続いた日々もあり、さらにコッポラが撮影現場で女性エキストラにセクハラを働いていたという疑惑も噴出した。現在はやっとの思いで9月27日よりIMAXを含む米公開決定にこぎつけたところだが、この予告編騒動で再び不本意な注目を集めることとなった。現時点で日本公開予定は不明。
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