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『ルイス・ウェイン』が描く、美しく感動的な「悲しみ」と人生 ─ 監督に単独インタビュー

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

ベネディクト・カンバーバッチ主演、有名な猫画家ルイス・ウェインの奇妙で切なく愛おしい半生をエモーショナルに描く映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』が、2022年12月1日より日本公開だ。

この作品に惚れ込んでしまった筆者は、国内配給に監督取材ができないかと直談判。こうしてウィル・シャープ監督との一対一のオンラインインタビューが実現し、作品の魅力や、鳥肌裏話を引き出すことに成功した。

イギリスの上流階級に生まれたルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)は、父亡きあと一家を支えるために、ロンドンニュース紙でイラストレーターとして活躍する。やがて、妹の家庭教師エミリー(クレア・フォイ)と恋におちたルイスは、身分違いだと大反対する周囲の声を押し切り結婚するが、まもなくエミリーは末期ガンを宣告される。

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庭に迷い込んだ子猫にピーターと名付け、エミリーのために彼の絵を描き始めるルイス。深い絆で結ばれた“3人”は、残された一日一日を慈しむように大切に過ごしてゆくが、ついにエミリーがこの世を去る日が訪れる。ルイスはピーターを心の友とし、ネコの絵を猛然と描き続け大成功を手にする。そして、「どんなに悲しくても描き続けて」というエミリーの言葉の本当の意味を知る──。

ウィル・シャープ監督は1986年生まれで、母は日本人。8歳まで日本で育った。俳優としても活躍しており、ドラマ「FLOWERS(原題)」(2016-2018)や「Giri/Haji」(2019)などでも活躍。本作では、カンバーバッチというAリスト俳優を迎え、初の長編映画(単独)作品への挑戦となった。

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
©2021 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

『ルイス・ウェイン』ウィル・シャープ監督 単独インタビュー

──ウィルさん、『ルイス・ウェイン』最高に素晴らしかったです。大号泣しました。すっかり心奪われましたよ。映画ジャーナリストに「最高でした」と言われても、お世辞みたいに聞こえるかもしれません。でも本当に、心の底から惚れました。

嬉しい。ありがとうございます!

──ドラマ「Giri / Haji」にも出演されていましたね。あのドラマでの演技も素晴らしかったですが、俳優業も監督業もやられるなんて、すごく多彩でいらっしゃいますね。「Giri / Haji」では日本語のセリフもありました。

そうそう、そうです(笑)。

──さて、『ルイス・ウェイン』について、ベーシックな質問から始めさせていただきます。ズバリ、猫は飼っていらっしゃいますか?

はい、2匹飼っています。ドーラとモートという名前です。6歳くらい。トラネコと黒猫です。

──僕も愛猫家で、猫を飼っています。(どんな猫?と尋ねられ、猫の写真を見せるやりとりがあってから)猫との撮影は、さぞ難しかったろうなと思います。猫って、写真を撮るのも難しいですからね(笑)。大変だったことはありますか?

いつ猫の準備ができたかを見極めるのが大変でしたね。とにかく辛抱が必要でした。でも、時々思わぬ“ほっこり”をもらうこともありましたよ。猫の魔法を感じた時は、みんなで本当に嬉しかったし、元気になりました。

まぁ、でも猫が気まぐれっていうのは、よく知られた話ですからね。猫のご機嫌に合わせる必要もありましたよ。

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
©2021 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

──そもそものお話ですが、ルイス・ウェインの物語の監督を引き受けたキッカケは何でしたか?

ベネディクトとご一緒できるのが嬉しかったからですね。彼は、まさに本作のキャラクターにハマり役でした。

でも一番大きかったのは、ルイス・ウェインの人生についてを読んで、感銘を受けたからです。なんて勇敢な、魂のこもった人生なんだと。こんな素晴らしい冒険をされた方だったなんて、僕は全く知らなかったんです。彼の絵は見たことがあったけど、彼の名前すらも、その人生のことも、何も知らなかった。そこで、歴史上、唯一無二の刺激的な人だと思ったからです。

──ルイス・ウェインは日本でも有名なのですが、どちらかというと「可愛い猫の絵を描いていた画家が、精神の病を患って、恐ろしくサイケデリックな絵を描くように変貌してしまった」という悲劇的なエピソードで知られているところもあります。でも本作では、そのサイケデリックな絵を描く部分にはあまりフォーカスされませんでした。

精神疾患は彼の人生の一部ではありますが、そのことが彼の全てを定義するとは考えていません。もちろん、そこにあった苦しみは伝えたかったけれど、それよりも彼の家庭の側面や関係性、エミリーとの結婚や、猫の里親になったことなど、画家人生に影響を与えた様々な出来事を描きたかった。

彼の人生に起こった出来事の、その感覚をできるだけ完全かつ複雑に伝えようと努めました。だから、そこには様々な側面が入ってきます。もしも自分が、彼として、彼の気持ちで当時を生きたらどう感じるだろうかと想像しました。彼の持つものを、ただ(精神疾患や暗い側面を描くだけの作品まで)削減したくなかった。

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
©2021 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

──彼の人生をきちんと伝えるんだという考え方、素敵だと思います。この映画は、ルイス・ウェインだけでなく、あらゆる形の人生を表していると思いました。人生、悲しいこともあれば、トラブルも起こるし、考えたくもないこともある。でも、きっと大丈夫だって、自分は楽観的にやれるんだって、騙し騙しやってくんですよね。猫はその乗り越え方をよく教えてくれます。それから、愛です。愛は必ずしも全ての物事を解決するわけではないですが、生きる理由を与えてくれる。ルイス・ウェインの人生には、そういう物語がありました。この映画は、世界とは見方次第で美しいのだと教えてくれます。あなたはルイス・ウェインを通じて、世界や人生をどう捉えますか?

あなたの言葉がすごく完璧なので、言うことがない(笑)。えーっと、そうですね、彼は常に、世界をとらえて理解しようとした方です。ある時は、世界がすごく美しく見えて、とても楽しくて自由を感じることもある。でも、またある時は、世界がすごく残酷で抑圧的で、理解し難いこともある。

本作では、彼が世界をどう知覚していたか、その感覚を伝えています。彼と一緒に人生の旅に出るような。だから映画の最後の瞬間には、彼の人生に自分も添い遂げたんだと感じられ、苦しい思い出も、美しい思い出も振り返るような作品にしたかったんです。

間違いなく、本作の大きなテーマは「悲しみ」です。あなたの言うように、エミリーは彼に生きる理由を与えましたし、彼が世界に心を開く助けとなりました。でも残酷なことに、彼女は奪われてしまった。その愛の哀しみを与えたかったんです。どうしてこんなに辛いのか?それは、エミリーと特別な何かを分かち合ったからだと、彼はそういう境地に至ったと思うんです。それは祝福すべきことなのです。

この映画では希望の面も描きたかったし、同時に苦しみの知見も活かしたかった。彼の人生の、非常に生々しい苦しみです。

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
©2021 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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