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マッツ・ミケルセン、メソッド演技に否定的「準備は狂気の沙汰になりかねない」 ─ メディアの無自覚な賞賛にも疑念呈する

©THE RIVER

『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)『アナザーラウンド』(2020)などで知られる俳優、マッツ・ミケルセン。ハリウッドの大作映画から、祖国・デンマークの小規模作品まで幅広く活躍しているマッツだが、どうやら“メソッド演技”には否定的な考えを持っているようだ。

“メソッド演技”とは、役柄の人格や深層心理を深掘りし、その感情を追体験するなどの方法で役柄そのものに肉薄し、より自然な演技を追求するもの。近年はホアキン・フェニックス、ジャレッド・レト、ヒース・レジャーらがメソッド演技を採用したことで知られるほか、『ハウス・オブ・グッチ』(2021、日2022)のレディー・ガガ、「メディア王 〜華麗なる一族〜」(2018-)ジェレミー・ストロングの例も話題を呼んだ。

たとえばガガの場合、1年半にわたりパトリツィア役のまま生活を続け、うち9ヶ月間はカメラの回っていない場所でもイタリア訛りの言葉で話していたというエピソードが有名だ。ストロングもメソッド演技を徹底したあまり、共演者のブライアン・コックスから「やめてください」と言われるほど。マッツは英GQのインタビューにて、『ハウス・オブ・グッチ』や「メディア王 〜華麗なる一族〜」のケースを認識していなかったことを認めつつ、メソッド演技は「デタラメ」であるとの持論を展開している。

「準備は狂気の沙汰になりかねません。もしも酷い映画だったらどうするんですか? 何かを成し遂げられたと思えるのでしょうか? 自分から役を抜かずにいたことに感動するのでしょうか? 最初から役を抜いておくべきですよ。連続殺人犯役はどうやって準備するんでしょう? 2年かけて役作りをするんでしょうか?」

マッツの批判は俳優だけでなく、メソッド演技を無自覚に称賛するメディアにも向けられている。「メディアは“これほど真剣に演じたのだから素晴らしいに違いない、賞をあげるべきだ”と言いますよね。それが話題となり、誰もが知るところとなり、流行りになるわけです」。同じくメソッド演技で有名なダニエル・デイ=ルイスに関しても、マッツは「彼は素晴らしい俳優ですが、それとこれとは別の話」だと述べている。俳優としての素晴らしさと演技法は別問題である、という考え方がうかがえるところだ。

なおメソッド演技は本人の心身に影響を与える恐れがあり、ガガも『ハウス・オブ・グッチ』では現実との接点を失うほど役柄に入り込み、最終的には精神科の看護師を撮影現場に常駐させていたという。マッツと同時期にメソッド演技への懸念を示したのは、『デトロイト』(2017)『ミッドサマー』(2019)のウィル・ポールターで、彼は「心と体の健康が第一」だと強調し、「役柄に入り込むのは二の次でなければなりません。その過程で居心地の悪い環境を作り上げてしまうのは、何か大切なことを見失っていると思います。メソッド演技は不適切な行動の言い訳に使われるべきではありません」と述べた。

マッツやウィルとはまた異なる切り口からメソッド演技への疑問を口にしたのは、同じく名優のサミュエル・L・ジャクソンだ。いわく、メソッド演技に自らを捧げる共演者を見ていると「彼らが楽しんでいるように見えないことがある」。メソッド演技は観客や批評家の高い評価を受けやすい一方、俳優同士では古くからその評価が分かれるところだった。最近になって業界内で批判的な意見が少なからず聞かれることは、今後の評価軸を変化させることになりうるか? 追随する俳優の登場も含め、しばらく注視が必要なトピックだ。

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TEXT: MINAMI, 稲垣 貴俊
Source: GQ UKIndependent UK, Collider, The Guardian, Vogue

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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