【レビュー】現代の幸せの定義の多様性を象徴した映画『マギーズ・プラン~幸せのあと始末~』チャーミングな策士とダメ男の物語
女は皆、策士です。
各々が自分自身を幸せにするために“プラン”を練っています。そして、それを遂行させようと着実に日々歩みを重ねていってるはず。あなたも、私も、そしてマギーも例外ではありません。
マンブルコア界のスター女優グレタ・カーウィグ、再び等身大ヒロインに

私はあまり有名人や俳優・女優に熱を上げるタイプではありません。しかし彼女、グレタ・カーウィグは別。最近徐々にインディーズ映画界において盛り上がってきているマンブルコアというジャンルが私は死ぬ程好きでして。同ジャンルの映画には、何故かいつも彼女の姿があります。『ハンナだけど、生きていく!』『フランシス・ハ』と、少しこじらせたヒロインを演じる事に定評があるのがグレタ・カーウィグなのです。
そんな彼女が今回演じるヒロイン マギーは、またもや純粋で少し抜けてて、我が道を行く……策士?
ピュアでしくじり気質なヒロインは、史上最もハッピーな策士?

『マギーズ・プラン(MAGGY’S PLAN)』という今作のタイトルは、まさにそういう事で、簡潔に述べるとマギーのプラン(計画)の一部始終が描かれている作品なのです。
【注意】
この記事には、『マギーズ・プラン~幸せのあと始末~』に関するネタバレ内容が含まれています。
マギーは30代前半。ニューヨークの大学で「アーティスト・コーディネーター」という、芸術家が自身のアートをビジネスとして成功させる事ができるように、彼らの事業を成功させる“プランナー”的なお仕事をしています。
そんな彼女は映画冒頭で「子供を作る」という自身のプランを元カレでもある親友に打ち明けるのです。しかしその作り方とは古風なものではなく、精子だけを提供してもらって、後は自分でやる…つまり最初からシングルマザーになるということ。しかも、優秀なDNAが欲しいからという理由で、大学時代の同級生であり数学に強く今やピクルス事業をはじめている男の精子を貰うというんです。
何故マギーが、結婚をしてその人と子作りをするという一般的な道を選ばなかったか。それは彼女が「半年以上誰かと続いた事がない」からでした。30を過ぎた彼女にとって、自分自身が結婚できるなんて思っていなかったのです。
しかし、子供は欲しい。しかも産むならうんと出来のいいやつ。非常に無駄がなく、合理的。これって、とても現代っぽくないですか?
晩婚化が進む一方で、世間では結婚したくないのか、結婚できないのかがわからない女性が増えてきている。ただ女性には問題があって、早くに子供を産まないと産み辛い身体になってしまうのです。
なので彼女のプランというのは、非常に現代女性の心理、願望をドストレートに表しているとも言えます。なんなら、彼女はもはやパイオニア的存在になり得るのではないでしょうか。
しかし、プラン(計画)というものは、なにかと狂うものです。
「よし、精子も頂戴していざ突っこんだぞ!」という時、マギーの部屋のドアを“計画の狂い”がノックしたのです。それこそ、イーサン・ホーク演じるジョンでした。
ワガママで愛情を搾取する男が女の予定を狂わせる

このイーサン・ホーク演じるジョン。2017年度ダメンズアワードにノミネートしたいですね。彼は同じ大学に勤務する、文化人類学者。そして既婚(2人の子持ち)でありながらも、自分の書いている小説に興味を持って褒めながら呼んでくれるマギーに好意を持ちます。
さらに、承認欲求が妻(ジュリア・ロバーツ演じるジョーゼット)では満たされない(何故なら妻は自分より学位の高い学者で自分をこき使い、虫けら扱いするから)ので、マギーのところへ転がりこんで「僕は君を愛しているんだ……今夜ソファじゃなくてベッドに寝て良い?」なんてぬかすのです。
グレタ・カーウィグが演じるキャラクターはいつだって不器用でこじらせていて、男からこのようなワガママな告白をされても、つい「私も……愛しているんだよね」と返してしまう子。
そこから不倫が始まり、3年後彼らは夫婦となっていました。
そしてマギーには彼女のプラン通り、美しい娘ができていました。しかしその娘だけでなく、彼と元妻の間にいる2人の子供の面倒も見る羽目になっていたのです。元妻は自分の夫が若い女と不倫した上に、自分と離婚して彼女と結婚した、という赤裸裸な内容の告発本を出版するわ、ジョンは今まで自分が押し付けられていた家事や育児をマギーに押し付けるわで、マギーにとっては忙しくてストレスフルな毎日が続いていました。
今や自分の夫となったイーサン・ホークは、子供をみてくれもしない、ただ自分の小説に没頭している。そんな全く自分を支えてくれない彼を見つめながら、マギーはある事に気がついてしまうのです。
「やばい、冷めちゃった。私もう彼の事愛してない」
マギーの“返却”プラン、始動

「子供を作る」プランを見事成功させたマギーは、なんと彼と別れたくなったので元妻に夫を“返却する”プランを企てます。
まず元妻に接触し、「もしまだ彼を愛しているのなら、返すから」なんてドストレートに提案。勿論、一度奪っておいて飽きたら返すだって?と、元妻は激怒します。しかし、数日後彼女は「そのプラン、のった」と共謀者になるのです。
その返却プラン全貌はこうです。
元妻:遠方で行われる学会に夫を招待するように手を回す(勿論自分も出席)
マギー:「遠い」と渋る夫の背中を押すという連携プレー
元妻:数日間彼と学会が行われる雪山にあるコテージで過ごすうちに誘惑する

そしてなんと、このプランが成功するのです。元妻も出席すると知らなかった彼は、学会に彼女がいる事に驚きますが友人として接したいと申し出ます。それを、少し冷たく返す元妻。かと思えば、雪山で散歩中に甘えて、彼の気持ちを揺さぶるのです。お互いがまだ好意を持っている、ということがわかった夫は少し安心し、コテージでのパーティで元妻をダンスに誘い、二人で楽しい時間を過ごします。
元妻にとってあとはもう簡単。自分の部屋をノックしてくる彼を待つだけです。
冒頭でも言いましたが、もしこの映画を男性が観れば、女性がいかに物事にプランをもっていてそれを水面下で着々と進めている、ということに驚き、内容次第ではショックを受けるかもしれません。
帰宅した彼は、元妻と会うようになります。計画が成功していると実感したマギーは「まだ好きなんでしょう?私はいいから……」と、別れを切り出します。
全てがマギーのプラン通りに進んでいました。しかし、先述の通りプランとは狂うものです。ここでもまた、ひょんな事から計画が崩れてしまいます。
なんと、彼が全て仕組まれていた事を知ってしまったのです!
1人の策士倒れど、2人目の策士立ち上がる
ショックのあまり憤慨した夫は家出、マギーは共謀者である元妻に謝ります。しかし、女というものは欲しいものは力づくて取りにいく根性がある生き物でして。
倒れたマギーの屍を超え、元妻はひとりである勝負をしにいくのです。
その結果は、誰もが予期せぬ……いえ、元妻だけが予期していたものとなります。
こんな三角関係も、ありかも?

海外ではカップルや夫婦が、マンネリを打破すべく見知らぬ女の子をいれて3Pをしたがるという事が多いです。Netflixでも最近『僕と君と彼女の関係』というドラマが配信されましたが、まさにマンネリ解消のためにエスコートサービスに手を出した夫婦、そしてエスコートガールの三角関係が描かれています。一人の男を取り合うう三角関係もの映画でいえば、トリュフォーによる『恋のエチュード』ウディ・アレンによる『それでも恋するバルセロナ』などがあり、新しい恋愛スタイルが提唱され続けていますね。
今作では、マギー視点で述べれば「妻、夫、元妻」という三角関係ですが、他の三角関係映画と比べて珍しくそこに子供(しかも3人も)が介入しているところも見所。夫婦にとって、子供は蝶番であることがこの映画ではよくわかります。
幸せの形は、人それぞれあるものだ

また、今作は現代における幸せの定義が多様化している事の象徴とも言え、「~すれば幸せ」という誰が言い出したかわからない幸せのルールブックを、真っ白にしてくれるのです。
プラン(計画)というものは、それを作った時点から狂ったり崩されたりする可能性が生まれる。しかし、その結果が思いもよらない形で人を、そして自分を幸せにするかもしれません。そしてそれは、“神のみぞ知ること”ですね。
私は自分の愛する人間を他の女性とシェアするなんて絶対無理ですが……人によってはこういう幸せっていうのも、あっていいのかも?
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