【特集】俺たちの『マグニフィセント・セブン』は、何故こんなにもアツいのか…キャラ、見所、Blu-ray/DVD特典映像を徹底紹介

2017年1月27日に日本で劇場公開され、キャラ立ち満点の7人が巨悪を討つ胸熱っぷりで多くの洋画ファンがエンディングまで握り拳を解けなかったアクション超大作『マグニフィセント・セブン』が、早くも2017年5月24日(水)にBlu-ray & DVDリリースされる。
Blu-ray & DVDでは、ファン待望の日本語吹替音声が収録されており、大塚明夫、三上哲、宮本充ら人気声優が集結。作品の持つアツさをそのまま尊重した見事なキャスティングに、ファンらも大感激。愛と正義と平和が溢れた作品なのだ。
今回は特別企画として、まだ『マグニフィセント・セブン』を鑑賞していない方も、既に鑑賞済みの方とも一緒にアツい気持ちになれるよう、愛と情熱を込めて作品紹介を行いたい。そして本編Blu-rayに収録される81分の特典映像、更に特典ディスクに収録の27分のメイキング映像を合わせた合計108分の激アツ特典映像もたっぷり紹介しよう。
『マグニフィセント・セブン』に男たちが惚れる理由

アマドール・シティに高く昇る太陽は大地を焦がし、街の酒場にたむろする“ならず者”達の眉間にハイ・コントラストの影を刻む。汗と砂汚れが口ひげに馴染む凄腕のガンマンが葉巻の煙をくゆらせる頃、ひとりの執行官がスイング・ドアをキシリと開き訪ねてくる…。
『マグニフィセント・セブン』は、男たちが憧れる全ての要素を兼ね備えている。独自の流儀を持つ求道者たちが、たったひとつの雄大(=Magnificent)なる「正しき行い」に共鳴し、荒野の砂を踏み締める。それぞれの武器を手に、悪を討つべく命を賭け、風となって大地を吹き上げ去っていく。
『マグニフィセント・セブン』は、時代が忘れかけていた西部劇の鼓動を現代に蘇らせてくれる。ピストルの発砲音は乾いた空気に響き渡り、火薬の残香はスクリーンを通じて僕たちの嗅覚をも満たそうとする。ヒュンヒュンと巧みに銃を回転させるガンスピンが、一瞬で生死を分かつ早撃ち対決の張り詰めた空気を優美に吹き飛ばす。いななく馬を乗りこなし、夕陽が溶け落ちる西の紅を背後に、荒野を、草原を駆け抜ける…。かつて男たちはそんなハード・ボイルドな世界に憧れていた。ところが、アンディ少年の部屋がウッディからバズ・ライトイヤーに模様替えされたように、世界は西部の男たちの物語をすっかり忘れかけていたのだ。
そんな現代、アントワーン・フークア監督は1960年の傑作『荒野の七人』に新たな風を吹き込んだ。強欲な侵略者に脅かされる貧しい街を救うべく7人のガンマンが結集するという大まかなストーリーはそのままに、7人の男たちに現代的なダイバーシティを重ね合わせ、胸が熱くなるチームプレイが光る圧巻のアクションで男心をガンガン撃ってくる。
もともと『荒野の七人』は、ご存知の通り黒澤明監督の『七人の侍』(1954)の舞台を南部開拓時代のメキシコに移してリメイクした作品。日本が誇る黒澤映画のスピリットが時代と大海を超越して『マグニフィセント・セブン』でも燃え続けているという点も見逃せないだろう。
『マグニフィセント・セブン』7人の男たち
今作の凄いところは、7人のキャラクター性がじっくりと描かれているところだ。思えば、2012年のマーベル映画『アベンジャーズ』でもヒーローが集結する物語が描かれており、主なメンバーは6人だった。半数のキャラクターは先立って単独映画が制作されていたので、メンバー紹介はスムーズだった。一方、『マグニフィセント・セブン』は『アベンジャーズ』より1人多い7人だし、約2時間の本編の中で全員をしっかり紹介しておく必要がある。
にも関わらず、今作における7人の中で影の薄いようなキャラクターは一人ぽっちとしていないし、それぞれが共感できる主役級ヒーローとしてシビれるような見せ場がしっかりと用意されている。7人のキャラが立ちに立ちまくっているからこそ、全員が揃った時に組み上がる七角形の各辺総和はローズ・クリークの街の端から端までかけても尚余るほどにダイナミックだ。
それでは、それぞれに異なる流儀と戦闘スタイルを持つ7人の“ならず者”の魅力を紹介しておきたい。
サム・チザム / デンゼル・ワシントン

『七人の侍』では島田勘兵衛、『荒野の七人』ではクリス・アダムスが担った、6人を呼び寄せてまとめ上げるリーダー。カンザス州ウィチタの委任執行官で、インディアン準州及び7州の保安官でもある。南北戦争で北軍の騎兵隊に所属していたサムは、極めて無駄の無いガンマン・スタイルを得意としており、引き抜いた銃を横腰に固定し、安定した姿勢から素早く撃ち抜く。乗馬にも長けており、疾走する馬体から半身乗り出したまま敵を射止めるなど、その戦闘経験の豊富さを覗かせている。7人の中でも一際胆力を持っており、悪党ボーグに大胆な交渉を挑んでいく。全身をまとう黒い衣装のように、人に明かさない黒いものを引きずっているようだが…。
デンゼル・ワシントンとアントワーン・フークア監督と言えば、『イコライザー』(2014)でも仕事を共にしている。『イコライザー』では闇社会の悪に一切動じず、容赦なく一掃する凄腕の元CIA工作員を演じたが、今作でも悪を裁くべく冷静沈着に銃口を光らせる仕事人ぶりは健在だ。己の美学を真直ぐに貫く眼差しは、デンゼルというベテラン俳優だからこそ確かな説得力を帯びて悪役ボーグに突き刺さっている。
ジョシュ・ファラデー / クリス・プラット

『荒野の七人』におけるヴィンに相当する、コミック・リリーフ的な役割を担うキャラクター。ハード・ボイルドな世界を描く『マグニフィセント・セブン』の中でもアントワーン監督は「粋で愛嬌のあるスターが必要だった」と語っており、“口から生まれた”ようなクリス・プラットは適役中の適役だろう(最早、クリス・プラットそのままかと思うほどにハマりまくっている)。
詐欺師で、酒飲みのギャンブラー、カードマジックが得意なナルシストというとんでもない男だが、クリス・プラットが演じると一切の嫌味無い、西部の風のような爽やかさが生まれるから不思議だ。
「お前は“世界一のモテ男”の俺に殺されるぜ」とか「うわぁ、俺って最高」といったノリノリのセリフをスッキリと言い放ったかと思えば、ひとたび戦闘になれば冷静沈着。一発、また一発と敵を着々と仕留めていく。普段は余裕しゃくしゃくにおどけているがやる時はしっかりやる、男も女も憧れるルパン三世的ヒーローだ。
グッドナイト・ロビショー / イーサン・ホーク

かつて南北戦争では南軍に従属し、サムとは旧友。凄腕のスナイパーであり、先の戦争では23人をも狙撃したことから「死の天使」と恐れられていた。しかしこの戦争でPTSDを患い、恐怖で引き金を引くことができなくなったグッドナイトは己の役割を見失い、まさに翼を折られた天使のように西部を彷徨っている。「死の天使」の恐るべき名誉だけが亡霊のごとく独り歩きしており、周囲の期待がグッドナイトの心の傷に塩を塗る。
演じるイーサン・ホークは、過去の呪縛に囚われた哀れな男の瞳に“恐れ”と“焦り”を完璧なクオリティで宿しており、7人の中で最も立体的なキャラクターとして、乾いた荒野に影を作りながら歩かせることに成功している。
グッドナイト・ロビショーに相当するキャラクターは、『荒野の七人』におけるハリー・ラックとリーと言えるだろう。
ビリー・ロックス / イ・ビョンホン

グッドナイト・ロビショーの相棒で寡黙な殺し屋のビリーはナイフの達人。しなやかな身のこなしから流れるようにナイフを投げて中距離の敵を制しながら、接近戦の間合いに入り込んだ次の瞬間には既にナイフを突き刺している。銃や弓を扱う6人と異なりただ1人ナイフを扱い、サムライのように結わえた髪をなびかせるその立ち位置は、言うまでもなく『七人の侍』における久蔵、『荒野の七人』におけるブリットの求道心を受け継いでいる。久蔵と言えば、ルパン三世の石川五右衛門のモデルとしても有名だ。イ・ビョンホンが現代に蘇らせた寡黙な剣士の威風堂々たる輝きは、想像以上にカッコよく、デンゼル・ワシントンやクリス・プラットら西洋の大スターを食ってしまうほどに魅力的。オリエンタルでミステリアス、クールでセクシーなビリーの魅力を存分に味わって欲しい。
実際に南北戦争後にはアメリカに多くの東洋人が移住している。現代よりも人種に対するステレオタイプが強かった時代において、ビリーのような東洋人が受けた不遇を想像すれば、彼の寡黙さと時折見せる笑顔に深みを感じられるはずだ。ちなみに『甘い人生』(2004)以来イ・ビョンホンの大ファンだというフークア監督は、彼を“ビー・エイチ(BH)”と呼んで親しんでいる。
バスケス / マヌエル・ガルシア=ルルフォ

二丁拳銃を扱う一匹狼のアウトローで、失うものがないバスケスはサムの誘いに付いていく。ジョシュとは「このメヒコ野郎」「このグエロ(白人)」と張り合う喧嘩仲間。ひとりで生きてきただけあって少々クセも強いが、冗談も挟む憎めない存在だ。今作の衣装デザインを手掛けたシャレン・デイヴィスは、バスケスが流れ者として旅を重ねた過去を語らせるため、西部とメキシコのファッション・スタイルを少しずつミックスしたと語っている。ちなみに、演じるマヌエルはガンスピンの腕前もプロ級で、特典映像で見られる舞台裏では華麗な銃捌きを度々披露している。
東洋人ビリーも現代ならではのダイバーシティを象徴するが、バスケスはさらに現代的だ。『マグニフィセント・セブン』におけるヴィラン、バーソロミュー・ボーグという男は、資本主義の権化とも言える男。対するバスケスは賞金首、つまり追われる立場にある男で、メキシコ人という設定もトランプ政権下のアメリカにおいてはアイロニックなキャラクターだ。様々な人種が結集し、資本主義の悪役に立ち向かっていくという構図において、バスケスが放つ銃弾には格別の意味も感じられる。
ジャック・ホーン / ヴィンセント・ドノフリオ

7人の中でも最も力強い男、ジャック・ホーンはトラッキング(追跡)術を得意とする山男。ジョシュが「人間の服を着たクマだな」と例えるその巨体でライフル、斧、ボウイナイフとあらゆる武器を使いこなし、猪突猛進のパワープレイで敵をねじ伏せていく。クライマックスの戦闘では民間兵をかばいながら従える頼もしい一面も。誰よりもピュアな心を持っているようだが、そのピュアさがあまってサイコパス的な狂気を覗かせる。あらゆる場面で聖書の一説を唱えており、時に哲学的なフレーズを口からこぼす。
ヴィンセント・ドノフリオはこの危険な山男を演じるにあたって、「声」に特徴を付けた。家庭が壊れたジャックは山に篭もる生活が長く、人と話すのが久しぶりだと考え、甲高くぎこちない声を作ったのだ。その不安定な声色は、ドッシリした巨体に相対して怒りや悲しみといった感情が脆く溢れやすい危うげな性格を持つアンバランスさも見事に演出している。
レッド・ハーベスト / マーティン・センスマイヤー

7人目の戦士レッド・ハーベストでは、拳銃よりも弓や斧といったオーセンティックな武器を扱うコマンチ族のネイティブ・アメリカン。一族を離れひとり放浪していたところ、サムら一行に遭遇して仲間に加わる。メンバー最年少だが、野生の狩猟生活を送ってきただけあって一切の脂肪分がないようなシャープでデンジャラスに燃えるオーラを纏っている。
この若き戦士を演じるマーティン・センスマイヤーもネイティブ・アメリカンの血を引いており、故郷から離れてLAで生活していることもあって役柄には共感できたと語る。戦闘時にはコマンチ族の伝統的なフェイス・ペイントを施しているが、制作時に専門家と相談しながら丁寧にデザインしたという。先住民の文化を尊重するため、本物の民族にも正式に許可を得ているそうだ。
『マグニフィセント・セブン』が最高のヒーロー・チーム映画である理由
面白いチームもの映画の絶対条件は、キャラクターひとりひとりのバックグラウンドがしっかり感じられるということだろう。それぞれ異なるカラーが一画面に集まるからこそ派手に感じ、オールスター感が演出されるのだ。
その点、『マグニフィセント・セブン』は凄い。“全員がならず者のガンマン”だった『荒野の七人』から、よくぞここまで一人ひとりに異なる魅力を築き上げたものだと感心する。個性も出自もてんでバラバラな7人が、「正しい行い」のためにチームを結成し、お互いを補い合いながら悪に向かっていく。

ヒーロー・チームものの魅力といえば、ひとりのヒーローが完全無欠な活躍を見せるのでなく、得意・不得意を持つヒーローたちがひとつにまとまって初めて強力なチームとなっていく過程を目撃できるところだ。この種の映画は、誰も1人で戦うことは出来ないけれど、誰にだって戦うべき瞬間が用意されているのだということを観客に教えてくれる。それは二丁拳銃を止め処なく撃ちながら最前線に突進する役かもしれないし、屋根上から弓矢で援護攻撃をする役かもしれない。仕掛けた爆弾で敵の進撃を食い止める役かもしれないし、敵に向かって体当たりで突撃していく役かもしれない。
『マグニフィセント・セブン』の男たちは、それぞれが何かしらの得意技を持ち寄って戦う。厳しい戦いの間には冗談を言い合いながら酒を飲み交わす様子を観るのも楽しい。戦闘で命を落とすものもいるが、共に戦った仲間を弔う姿も、また熱く胸に染み渡る。
先述したように、7人もの主要人物それぞれのキャラクターをしっかりと認識させるのは容易ではない。アメコミ映画は各々の単独映画を作ることでキャラクター性を提示したが、それを一作で見事にやってのけたのが『マグニフィセント・セブン』だ。個性豊かな男たちがスクリーンを飛び出して、あなたの目の前でチームを結成していく魔法のような時間をしっかりと堪能して欲しい。
自宅でこそ鑑賞したい作品?
やっぱり映画といえば、映画館の大画面、大音響で鑑賞したいもの。特に『マグニフィセント・セブン』のようなアクション映画なら尚更だと思うだろう。
ところが、今作は自宅でこそ鑑賞すべき作品なのではないかと思う。なぜなら、アツすぎるシーンが次々と登場しすぎるので、思わず叫び出したくなったり、「カッケェ…!」と漏らしたくなってしまうからだ。

今作は、1人でお気に入りのバーボンでも嗜みながらじっくり観るのも粋だし、友人・家族・恋人と大盛り上がりしながら観るのも最高だ。きっと見つかるであろう“推しキャラ”の活躍シーンは声をあげて応援したくなるし、男の美学を貫き通すアツい死に様にはむせび泣きたくなってしまう。映画館でなく、自宅鑑賞のみに許される贅沢があるとすれば、自由なスタイルで映画を楽しめるというところ。『マグニフィセント・セブン』は、そのメリットをたっぷり享受できるアツい一作なのだ。
豪華すぎる特典映像を徹底紹介
そして、今作を自宅で楽しむべき理由はもうひとつある。Blu-ray & DVDでのみ観られる特典映像がむちゃくちゃ豪華で超濃厚だからだ。未公開シーンやメイキング映像、キャスト、スタッフのインタビュー映像に加え、7人の豪華キャスト+監督が勢揃いした超貴重なトークセッションもたっぷり収録されている。とんでもなく豪華な特典映像の内容を紹介せずにはいられない。ひとつひとつ簡単に取り上げていこう。
7人の俳優と監督によるトークセッション
まず、改めてこの7人が揃ってアントワーン・フークア監督を挟み、談笑しているという絵が奇跡すぎて正座モノ。何でも、本国製品版に収録されていたこちらの映像、日本のアツいファンの皆さんが「日本盤でも絶対に収録して欲しい」と熱望、それを聞きつけたソニー・ピクチャーズさんが、後には退けぬと収録を即決したという。
本編の進行に併せて監督とキャストらが丁寧に解説・考察してくれるので、作品への理解と愛着がより一層深まる。是非注目していただきたいのが、アントワーン・フークア監督の表情だ。もちろん監督自身も作品への想いを熱弁するが、自分の作品のために集まって苦労を分かち合ってくれた豪華なメンバーも同様に作品への愛を語ると、込み上がってくるものがあったのか何度も涙目になっている。今作は、『七人の侍』『荒野の七人』といった伝説の作品の魂を正式に受け継ぎながら、超一流の役者たちをまとめ上げるという、監督にとってとんでもないプレッシャーを強いる仕事だっただろう。重責を果たし、自分を信じてくれた仲間たちが未だこうして共に熱い想いを分かち合ってくれているのだから、思わず監督の瞳も潤む。トークセッション中にその姿を見つけた時、きっと働く大人の胸にも何か響くものがあるはずだ。Blu-rayのみに収録。
未公開シーン
全4種、合計7分以上の未公開シーンを収録。特に注目したいのがバスケスが子供に父親という存在の偉大さを説くシーン。勘の良い方はお気づきかと思うが、これは『荒野の七人』におけるベルナルド・オライリーへのオマージュだ。別のシーンでは、イーサン・ホーク演じるグッドナイト・ロビショーのピアノの弾き語りも堪能できる。
ザ・セブン
アントワーン・フークア監督と制作スタッフらが、魅力たっぷりの7人のキャラクターとキャストを紹介していく。キャストらもインタビューで役への想いを熱弁。改めて個性バッチバチの7人の魅力をじっくり味わうことができる。これほどの豪華キャスト陣が今作にいかに参加していったのかを語る裏エピソードは、まさに劇中さながら。
監督の仕事

今度はキャストらが、アントワーン・フークアという頼もしい監督を自慢げに紹介してくれる。『七人の侍』がきっかけで映画監督を志したと語るアントワーンは、ニューエラ・キャップが似合うヒップホップ・アーティスト風の出で立ちが印象的だ。特典映像で語られる監督の言葉にはクロサワ映画、西部劇へのリスペクトや信念がしっかりと込められている。だからといって頑固にはならず、現場では演者に自由を委ねながら、ジャム・セッションのように柔軟に作品を紡ぎあげていたことがよくわかる。
ローズ・クリークの舞台裏
『マグニフィセント・セブン』はキャストらだけでなく、裏方スタッフらも凄い。何と言っても、ローズ・クリークの町そのものをガチで作ってしまったのだ。最大の見せ場のひとつとなる街での決闘シーンは、セットが築かれたルイジアナの太陽が容赦なく照りつける酷暑のもと、450人ほどのスタッフが参加、馬も数十頭立ち並ぶ中で撮影された。落馬回数は映画史上最多だそうだ。まるで手品の種明かしのように紹介されるスタント・アクションの裏側は、思わずのめり込むほど興味深い。現場で適当な事をペラペラ喋りまくるクリス・プラットのボケ倒しっぷりにも注目だ。Blu-rayのみに収録。
悪党 ボーグ

優れたストーリーには魅力的な悪役の存在も必須条件。特に、“正義”側の7人に個性と魅力がたっぷり詰まった『マグニフィセント・セブン』だからこそ、悪役も相当ワルい奴でないと困る。
バーソロミュー・ボーグはとことん冷徹で、カネこそが絶対だと信じている恐ろしい男だ。『荒野の七人』の悪役カルベラには意外と話が通じる律儀なところもあったが、ローズ・クリークの街を乗っ取ろうとするこの悪党に情け容赦など一切ない。氷のような冷徹さは、乾いた西部の舞台だからこそ一層引き立つ。
演じるピーター・サースガードはアイデアに富んだ役者で、現場でも監督らに積極的に提案を行っている様子が見られる。徹底的に恐ろしいボーグが生まれる過程を目撃しよう。
ガンマンになるには

男なら誰もが憧れてしまう西部劇のガンマンには、当然ながらカッコいい銃の存在が欠かせない。ここでは、今作の武器担当/銃器指導を行ったセル・リードという人物が登場。本物の凄腕ガンマンであるセル・リードは、早撃ちの腕前は世界一、生ける伝説とされる大物なのだ。そんなセルが様々な銃を手に取りながら「これがデンゼルが使ってた銃だよ」と気さくに紹介してくれる。キャストらも伝説の男の指導に応えるべく、真剣さと楽しみを持って練習に挑む様子を観察できる。特にバスケス役マヌエルのガンスピンがあまりにも達者で、セルも舌を巻く場面がアツい。やっぱり、ガンマンって理屈抜きにカッコいい。Blu-rayのみに収録。
マグニフィセント・ミュージック
誰もが一度が聞いたことがあるであろう『荒野の七人』のテーマ曲は、『マグニフィセント・セブン』でも惜しみなく使用されている。ミュージック・エディターのジョー・E・ランドが「映画史だけでなく、アメリカ史の一部」と語るように、今作に流れる偉大な血流は音楽面にも循環している。
しかし、その裏には悲運な出来事があったことを、この『マグニフィセント・ミュージック』の映像は明かしている。もともと今作の楽曲を手がける“はずだった”ジェームズ・ホーナーは、『タイタニック』の『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』をはじめ、数々の優れた映画音楽で知られる作曲家。『サウスポー』(2015)からアントワーン監督の作品のファンであるジェームズは、制作側で予算が不足していたにも関わらず『マグニフィセント・セブン』の仕事を快く承諾していた。ところが、制作期間中に起こった飛行機事故により、ジェームズは突如として帰らぬ人となってしまう。
誰もが悲しみに暮れる中、監督はジェームズが7つの贈り物を遺していたことを知らされる。まだ映像もない段階で、脚本から想像力を膨らませて楽曲を既に作っていたのだ。『マグニフィセント・セブン』劇中で荘厳に鳴り響く楽曲は、ジェームズが今作のために用意していた7曲の遺作を元に、遺されたアーティストたちが総譜に仕上げ、87人のオーケストラによって魂を吹き込まれたものなのだ。亡き友を偲ぶ音楽仲間たちの眼差しには、劇中ドラマ同様にこみ上げてくるものがある。
メイキング・オブ・『マグニフィセント・セブン』
自宅で楽しむ『マグニフィセント・セブン』は、まだまだ終わらない。Blu-ray版には、特典ディスクとして更に27分ものメイキング映像が収録されているのだ。舞台裏映像をふんだんに盛り込み、監督、キャスト、スタッフらが本作へのこだわりや想い入れをたっぷり語った映像は見応え満点の贅沢なプレゼント。メイキング映像は「西部劇への憧れ」「黒衣の男」「ローズ・クリークの建設」「現代の西部劇を作る」「馬について」「スタントマンの伝説」「偉大なる歴史」の7章に分けられており、それぞれここでしか見られない映像や解説を堪能できる。今回は、この映像で是非注目して頂きたい2つのポイントをご紹介しよう。
砂と汗にまみれたクラフトマンシップ
メイキング・オブ・『マグニフィセント・セブン』をひとたび再生すれば、監督・キャスト・スタッフの全ての人間が同じページ上でクラフトマンシップとも呼ぶべき魂を持ち寄っていたことがわかる。その情熱はキャラクター衣装の繊維にまで染み渡っており、西部劇の伝統に敬意を払った慎重なデザインワークと、南北戦争後の時代への緻密な考証の上にはじめて成り立っていたことに気付かされる。
それはローズ・クリークの街そのものを作り上げた撮影セットにも同様だ。あらゆる視覚効果がデジタルでリプレイス可能な時代に西部劇を撮影するというのは、本物の土埃と汗にまみれたクラフトマンシップを蘇らせるということ。僕たちが『マグニフィセント・セブン』で目撃するオブジェクトのひとつひとつは、すべて人の手によって、木材、釘、ペンキ、金具といった素材で組み立てられている。撮影時に映えるよう、太陽の向きを計算して配列された建物は内部装飾に至るまで作り込まれており、表のデッキに散った砂の一粒にまで本物らしく見えるよう神経を行き渡らせている。
そこまでディティールにこだわったセットだが、撮影地のルイジアナは雨季に突入しており、度々雨嵐に苛まれた。雨風と土砂でセットは無残にも流されてしまうが、その度に彼らは何度でも組み直していたのだ。『マグニフィセント・セブン』の舞台裏で繰り広げられた職人ドラマを、是非味わって欲しい。
日本からハリウッドへ…「正しき行い」のDNA
「重要なのは『七人の侍』のDNAに忠実であること。
クロサワが生きていれば、現代版のこの物語を観たいと思ってくれると信じている。」
アントワーン・フークア監督がこれほどまでに敬意を払う『七人の侍』のDNA、それは「正しき行い」を全うするため、無防備な人々のために見返りを求めず立ち上がる高貴な精神だ。1954年に黒澤明監督によって描かれた侍たちの魂は海を渡り、1960年に『荒野の七人』として受け継がれていく。

「今こそ西部劇だ。特別な集団が戦うべき出来事が起きてる」「現代の反映だ」
アントワーン・フークア監督は映像の中でこのように語っているが、『マグニフィセント・セブン』という作品があえてこの時代に西部の風を吹かせたのには、特別な意味があるに違いない。今作は、ハード・ボイルドなアクション・エンターテインメントの傑作でありながら、変わりゆく時代の中で失ってはならない精神 ─『七人の侍』『荒野の七人』の頃から確かにあった高潔な魂─ を思い出させてくれる。
文化や思想を異にする人々が「正しき行い」のために自分本位を捨てて団結し、命をかけた決斗に挑む…。今こそ、今こそ西部劇。だからこそ『マグニフィセント・セブン』なのだ。今作は、その時々に様々な想いを抱きながら何度も鑑賞するに値するアツい逸品なのである。
映画『マグニフィセント・セブン』Blu-ray & DVDは、2017年5月24日(水)ついに発売開始。
(文:Naoto Nakatani)
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