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「マンダロリアン」ビジュアルから読み解くジョン・ファヴローの創作 ─ 「シーズン1公式アートブック」発売に寄せて

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
© & TM Lucasfilm Ltd.

『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ、「マンダロリアン」(2019-)のビジュアルと製作の裏側を明らかにする、「スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック」が2021年12月8日(水)に発売された。シリーズのファンから新たな視聴者まで、幅広い支持を得ている新たな名作は、いかにして人々を作品の世界に引き込んだのだろうか?

このたびTHE RIVERでは、本書の翻訳を担当した上杉隼人氏による特別寄稿を掲載する。「マンダロリアン」のキーパーソンであるジョン・ファヴローの発想に迫るとともに、作品の一端を、本書の読みどころとともにご紹介いただいた。

「マンダロリアン」のビジュアルから読み解くジョン・ファヴローの創作

マンダロリアンをスター・ウォーズ・ユニバースにはめ込む

ディズニープラス配信の『マンダロリアン』で、ジョン・ファヴローは製作総指揮と脚本を担当し、ボバ・フェットとは明らかに違うアーマーを身につけた勇敢なマンダロリアン戦士たちの活躍を描く、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマを作り上げた。だが、マンダロリアン戦士は40 年以上つづく「スター・ウォーズ・サーガ」において、最初から何らかの形で登場してきた。『スター・ウォーズ』は「遠い昔、はるか彼方の銀河系で」起こった物語で、中心を担うのはジェダイとシスのライトサイドとダークサイドの戦いであるが、マンダロリアン戦士はこの一大サーガの歴史をつなぎ合わせる役割をはたしてきたのだ。(……)
マンダロリアン族が歩んできた歴史は、『クローン・ウォーズ』につづいてデイブ・フィローニが監督を務め、2013 年10 月放映開始された『反乱者たち』で、くわしく語られる。ジェダイと初顔合わせから激しく衝突した古代のマンダロリアン戦士たちは、ジェダイの超常的な力を抑え込むために、『エピソード5』に出てくるボバ・フェットのジェットパック装着アーマーをはじめとして、新たな武器の開発を推し進めたことが『反乱者たち』で明かされる。以来、ジェダイとマンダロリアン族の血で血を洗う抗争は数十年つづく。だが、プレ・ヴィズラの先祖にあたるター・ヴィズラがマンダロリアン戦士として初めてジェダイ・オーダーに加わり、ダークセーバーと呼ばれる特殊な漆黒のライトセーバーを作り上げるのだ。ここにおいて「スター・ウォーズ・ユニバース」に、マンダロリアンがジェダイとシスと並ぶ第3 の巨大な力として登場する。(『スター・ウォーズ「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』(以下、『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』p. 12)

『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』で、著者フィル・ショスタクはこのように記している。

惑星マンダロアの民、マンダロリアン戦士は、「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」(2008-2020)「スター・ウォーズ/反乱者たち」(2014-2018)など、『スター・ウォーズ』の正史にさまざまな形で登場してきた。スター・ウォーズ・ユニバースの壮大なパズルを完成させるには、宇宙のいたるところに散らばったマンダロリアンの純度の高い原石を集めて、一つひとつ磨きをかけてはめ込まなければならない。

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
© & TM Lucasfilm Ltd.

『スター・ウォーズ』の申し子たちの運命的な出会い

「クローン・ウォーズ」シーズン2で、ジョン・ファヴローとデイブ・フィローニが運命的な出会いを果たす。ファヴローがマンダロリアン族の過激組織デス・ウォッチを指揮するプレ・ヴィズラのキャラクターボイス(CV)を担当することになったのだ。

このあとルーカスフィルム社長キャスリーン・ケネディは、ファヴローとフィローニが共同で『スター・ウォーズ』初の実写ドラマ「マンダロリアン」を製作するのがいいと判断する。こうして「マンダロリアン」は製作に向けて大きく動き出した。

『スター・ウォーズ「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』にもくわしく記されているが、「クローン・ウォーズ」「反乱者たち」の監督を務めたデイブ・フィローニはもちろん、今後のディズニー映画、マーベル映画のみならず、映画界も背負っていくと期待されるジョン・ファヴローも、『スター・ウォーズ』に大変な影響を受けている。実際、『スター・ウォーズ』映画のエッセンスを自身の映画にさまざまな形で活かしてきた。

『アイアンマン』は、『スター・ウォーズ』に大きな影響を受けたよ」とファヴローは思い出す。「『スター・ウォーズ』に、コミックなどのオリジナル素材の扱い方を学んだんだ。ずっとファンでいてくれて、そのことならなんでも知っている人たちを大事にしつつ、新しい人たちも取り込む。スカイウォーカー・ランチでサウンド・ミキシングをしていた時、ケヴィン・ファイギがジョナサン・W・リンズナーの『メイキング・オブ・スター・ウォーズ 映画誕生の知られざる舞台裏』を見せてくれた。確か、『スター・ウォーズ』は少しも先が見えない状態でスタートしたけど、最終的にどんな映画ができ上がったのか、といったことが書かれていたと思う。当時の『アイアンマン』もどんな映画になるかわからなかったから、『よし、だったら、同じように何か大きなことから始めたらどうだろう?』みたいなことを考えたんだ」(『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』p.19)

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
© & TM Lucasfilm Ltd.

オリジナル『スター・ウォーズ』の魅力を今に伝える

ファヴローが「マンダロリアン」の制作で心がけたことは3つあると思う。ひとつは、自分が1977年に見たジョージ・ルーカスのオリジナル『スター・ウォーズ』の魅力をそのまま伝えることだ。キャラクター、特にクリーチャーの持ち味を、21世紀のツール、インターネット配信のドラマによって視聴者に味わってもらうのだ。

ルーカスフィルム副社長兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターで、ジョン・ファヴローの片腕として「マンダロリアン」のイメージ制作を進めたダグ・チャンは、『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』の「序」で、次のように述べている。

第2次大戦時に使われた爆撃機を思わせるレイザー・クレスト、『エピソード5/帝国の逆襲』に出てきたIG-88に似た殺人ドロイドIG-11、『イウォーク・アドベンチャー』に登場するブラーグ。こうした僕らが子供のころに刺激を受けた『スター・ウォーズ』のオリジナル・キャラクターの魅力を残すよう、ジョンに強く求められた。1980 年代のゴムのパペットで作られたようなクリーチャーや、市販のミニチュア模型を思わせる宇宙船が出てきても構わないとも言ってくれた。(『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』p.11)

パペット(人形劇で使われる操り人形の総称で、動かして楽しむために作られた人形全般を意味する。文楽・人形浄瑠璃で使用される人形はその代表格)で演じられるクリーチャーは、確かにオリジナル『スター・ウォーズ』の世界を強烈に彩る。今の時代はコンピューター・グラフィックス(CG)によってあらゆる映像をイメージ通りに作り出せるが、ジョン・ファヴローはパペットを積極的に使って「マンダロリアン」を製作しようとした。オリジナル三部作でパペットを作り出して映像化したクリエイターたちの仕事を、今の時代に再現しようとしたのだ。

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
© & TM Lucasfilm Ltd.

ファヴローの指示を受けて、ダグ・チャン率いるルーカスフィルムのデザイン部は、『スター・ウォーズ』オリジナル三部作でイメージ制作を担当したラルフ・マクウォーリーやジョー・ジョンストン、ジャバ・ザ・ハットのコスチュームを作成したニロ・ロディス=ジャメロ、ストップモーション・アニメーションを使って効果的にクリーチャーを撮影したフィル・ティペットらの仕事を洗い直し、そこから多くを学び取って、「マンダロリアン」のイメージ制作に生かした。『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』にはこうした過程が、62人の超一流アーチストが全身全霊で制作した超絶美麗なコンセプトアートとともに紹介されている。

西部劇や侍映画の要素も取り込む

ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』製作において、西部劇のほか、侍映画、特に黒澤明の作品に影響を受けたことはよく知られている。ジョン・ファヴローが「マンダロリアン」を作るにあたってふたつ目に心がけたのは、原典である『スター・ウォーズ』のさらに原典にあたる、西部劇や侍映画の要素も取り込むことだった。

主人公のマンダロリアンと幼いザ・チャイルドの組み合わせは、小池一夫原作、小島剛夕画の1970 年代の日本の時代劇漫画『子連れ狼』および若山富三郎主演のその映画シリーズに影響を受けている。『子連れ狼』の舞台は日本の江戸時代、柳生烈堂率いる柳生一族に妻をはじめとする拝一族を惨殺された「浪人」拝一刀は、息子の大五郎を乳母車に乗せて復讐の旅に出る。賞金稼ぎのギルドのエージェントであるグリーフ・カルガと同じように、烈堂は一刀と大五郎の首に賞金を掛ける。これによって一刀はいつどこから襲いくるかわからない敵から大五郎を守らなければならない。勧善懲悪、弱きを助け強きを挫くという一刀の大義の高潔さによって、敵ではあるが人を殺害する残忍さは相殺される。(『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』p.12)

黒澤明の『七人の侍』(1954)にも『スター・ウォーズ』は大きな影響を受けているが、ジョン・ファヴローは『マンダロリアン』チャプター4「楽園」で、この「原典の原典」とも言える作品の魅力を十二分に取り込んでいる。

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
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マーベル映画、ディズニー映画を作り上げた最新技術

また、ジョン・ファヴローは最先端の技術を自在に使いこなす器用な映画監督だ。マーベル映画『アイアンマン』(2008)『アイマンマン2』(2010)、ディズニー映画『ライオン・キング』(2019)などに見られる革新的な映像は、最新技術を使いこなすことで可能となった。これが3つ目にファヴローが心がけたことと思われる。

映画製作にあたってジョージ・ルーカスがインダストリアル・ライト&マジック(ILM)に技術革新を求めたように、ジョン・ファヴローもILMに進化を求めた。『ローグ・ワン』と『ハン・ソロ』では、LEDのビデオ・ウォール*1が用意されて、航空機のコックピットの窓の向こうにまるで本物の光が広がる様子が再現されたが、ILMでVFX(視覚効果)を統括するリチャード・ブラフと彼のチームも、似たようなビデオ・ウォールを今回持ち出した。だが、ブラフはそれを誰もやったことがなければ、危険なことにもなりかねない方法で用いた。完璧にデジタル処理したセット・エクステンション*2を役者たちの真後ろに映し、それを背景にカメラを動かして彼らを撮影したのだ。
それから1か月後の6月11日から15日、マンハッタン・ビーチ・スタジオでは、直径14メートルほどのLEDスクリーン数枚が組み合わせられ、その上に追加スクリーンが2本の機械アームで固定された。製作担当のアンドリュー・L・ジョーンズが統括するVAD(バーチャル・アート開発部)、エピック・ゲームズ、ILMの3者がそれぞれ持ち寄ったLED環境素材を前に、10回以上テスト撮影が行われた。ILMは『ローグ・ワン』と『ハン・ソロ』で使用した、現実世界の映像を360度パノラマ撮影できる自前の「パノスフィア」を持ち込んだ。こうした環境で、試作アーマーを身につけたマンダロリアンが氷の惑星マルド・クレイスで渡り板を歩く場面、酒場のドアに現れる場面、氷の惑星マルド・クレイスの酒場と惑星ネヴァロの酒場の中にいる場面、CGで作られたトランドーシャンが運転するアイス・スピーダーの後部座席に着いた様子、アーヴァラ7の砂漠を行く様子(同84-85ページ)などがテスト撮影された。(『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』p. 179)

なお、ビデオ・ウォールやセット・エクステンションなどには説明が必要と思い、『「マンダロリアン」シーズン1 公式アートブック』には、以下のような訳者注を補った(『スター・ウォーズ』関連の用語だけでなく、映画、製作関係者、撮影法など、日本人の読者になじみがないと思われるものには、すべて注を施した)。

*1: LCD(液晶)パネル、LEDパネルなどを複数枚使用し、一般のモニターでは実現できない大画面映像を可能にする技術。
*2: セットで撮りきれなかった場面を、撮影できた一部をVFXで拡張することにより、あたかもその場面を撮影したかのように見せる技術のこと。つまり別の場面の撮影映像をコピーし、オリジナル映像と合体させて場面を「拡張(エクステンション)」させることになる。

このように、ディズニープラス配信「マンダロリアン」シーズン1は、オリジナル『スター・ウォーズ』の魅力を存分に伝えながら、『スター・ウォーズ』が大きな影響を受けた映画の要素を取り込み、最新の技術で作り上げられている。

シーズン2も、また2022年に配信予定のシーズン3もそうだろうし、今後もジョン・ファヴローやデイブ・フィローニが、ダグ・チャン率いるルーカス・フィルムととともにどんな『スター・ウォーズ』映画やドラマを作り上げてくれるのか、期待はふくらむばかりだ。


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「スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック」

スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
© & TM Lucasfilm Ltd.
書名 スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック
著者 フィル・ショスタク(著)/ダグ・チャン(序)
訳者 上杉隼人
出版社 発行:うさぎ出版/発売:グラフィック社
価格 本体4,500円(税別)
ページ数 256ページ
判型・製本 A4変形判/並製
ISBN 978-4-7661-3586-2

上杉隼人

翻訳者(英日、日英)、編集者、英文ライター・インタビュアー、英語・翻訳講師。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科(現在の大学院の前身)修了。『STAR WARS スター・ウォーズ ライトセーバー大図鑑』(グラフィック社)、「スター・ウォーズ」全作(エピソード1〜9)、『アベンジャーズ エンドゲーム』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(いずれも講談社)、『マーベル・シネマティック・ユニバース ヒーローたちの言葉』(KADOKAWA)、チャーリー&ステファニー・ウェッツェル『MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密』(すばる舎)ほか、スター・ウォーズ、アベンジャーズ、マーベル関連の書籍を多数翻訳している。ほかにマーク・トウェーン『ハックルベリー・フィンの冒険』(上)(下)巻(講談社青い鳥文庫)、ベン・ルイス『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』(集英社インターナショナル)など多数(70冊以上)。

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THE RIVER編集部THE RIVER

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