【特集】ミュージックビデオから映画界の新星へ ― 『アメイジング・スパイダーマン』マーク・ウェブ監督の「これまで」と「これから」

『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを手がけたマーク・ウェブ監督にとって、2012年の第1作『アメイジング・スパイダーマン』は初めての“ハリウッド大作映画”だ。ミュージックビデオを約15年にわたって撮りつづけてきた彼にとって、この作品は長編映画2作目にして完全なる新境地、大いなる挑戦だったのである。
早くから映画界の新星として高く評価され、そのまま大作映画を手がけるに至った彼は、数年経った現在『アメイジング・スパイダーマン』シリーズをどのように捉えているのだろうか? 本記事ではウェブ監督のキャリアを振り返りながら、その心境に迫っていきたい。

MV監督、突如として映画界の大型新人に
マーク・ウェブ監督が、そのキャリアの最初期に活動していたのはミュージックビデオの世界だ。
1997年より、バックストリート・ボーイズ、グッド・シャーロット、マイ・ケミカル・ロマンス、ダニエル・パウター、ヒラリー・ダフ、ファーギー、マイリー・サイラス、グリーン・デイ、そのほか各時代のトップランナーたるミュージシャンを撮りつづけてきたのである。日本でもB’zの『今夜月の見える丘に』のミュージックビデオを手がけていたことが紹介されて大きな話題となったが、長きに渡り幅広くのアーティストを手がけて実力を磨いてきた人物なのだ。
そんなウェブ監督が初めて撮った長編映画が『(500)日のサマー』(2009)である。
主演は今やスター俳優の仲間入りを果たしたジョゼフ・ゴードン=レヴィット、ヒロインにはズーイー・デシャネル。脚本は、のちに『きっと、星のせいじゃない。』(2013)を執筆するスコット・ノイスタッター&マイケル・H・ウェバーが手がけた。
この映画でウェブ監督は類まれなる映像センスと色彩感覚、そして繊細かつ明快な心理描写を同居させた演出力を高く評価されている。突如として映画界の新星として扱われるようになったわけだが、『(500)日のサマー』で見せた演出の数々はいずれもミュージックビデオ時代に培われたものだ。
たとえば2005年の監督作品、ダニエル・パウターのヒット曲“Bad Day”のミュージックビデオを見ると、数年後に『(500)日のサマー』で示されるものに通じる瞬間を数分間で何度も目の当たりにすることになる。
そして『アメイジング・スパイダーマン』へ
『(500)日のサマー』を成功させたウェブ監督は、そのままソニー・ピクチャーズに見出されて大作映画『アメイジング・スパイダーマン』を手がけることになる。製作費は『(500)日のサマー』の約750万ドルから約2億3,000万ドルへと激増、まさしく大抜擢だった。
本作はサム・ライミによる『スパイダーマン』3部作の続編が実現しなかったがゆえのリブートだったが、ほろ苦い青春ストーリーとしての側面を持つ「スパイダーマン」の再映画化として、そしてアンドリュー・ガーフィールドという気鋭の俳優を主演に得たという点でもウェブ監督の抜擢は“ふさわしかった”のである。
しかし『アメイジング・スパイダーマン』そして第2作『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)は熱狂的なファンを少なからず生みながらも、完成した作品には賛否両論の声が寄せられた。また興行成績もソニー側の期待通りの結果とはならず、シリーズは残念ながら第3作の製作を待たずに終了することとなったのである。