【レビュー】既成概念を覆す衝撃のSF映画『メッセージ』その魅力とは

2016年の東京国際映画祭においても話題となった、2017年5月19日全国公開予定の『メッセージ』。 監督は『プリズナーズ』『ボーダーライン』のほか、多くのファンが期待する『ブレードランナー2049』でメガホンを取る、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だ。 

一部映画評論家からは「過去にない傑作」という声も上がる本作。今回は、公開直前となった本作の魅力を余すところなくお伝えしていきたい。

王道のSF映画!と思いきや、何かが違う?

まず、最初にお伝えしたい魅力は、ストーリーの“意外性”である。

世界中のあらゆる場所に突如出現した謎の飛行物体(巨大なばかうけのような黒い塊)。街には警報が響き渡り、ニュースがこの地球規模の大事件を報じる。これを見て世界の終わりだと叫ぶ者や危機に備えて食料を買い込む者、適当な理論で扇動しようとする者までが現れ、人類は未曾有のパニックに陥った。まったく答えの見えない中、ついに人類は地球外生物との接触を試みる……。

このストーリー展開だけを考えると、ハリウッド映画で王道とされてきた、未知の何かと人類の接触をテーマにした「ファーストコンタクト系」と言われる定番ジャンルの定石通りだ。使い古されたこの設定だけに、この後の展開も予想できると思う方も多いのではないだろうか。

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地球外生物と友好的な関係を築き上げる『E.T.』、人類の存続を賭けて戦う『インデペンデンス・デイ』、その他多くの「ファーストコンタクト系」映画も、結論としては平和か戦争かの二択におさまるものが多いと思われる。

しかし、本作では世界中に謎の飛行物体が登場するものの、戦争が始まることもなく友好的なエイリアンが無防備に現れることもない。静かに硬直したままの状況が続くのだ。というのも、この物語の主人公は血気盛んな兵士や純粋無垢な子供ではなく、一人の言語学者であるからなのだ。

そう、物語の主たる部分は、この言語学者と地球外生命体の“コンタクト”だ

皆さんにも考えて欲しい。もしも知性を持つ生物同士が出会ったとして、一番最初の壁になるものはなんだろうか。お互いに文化も考えも違う。お互いに相手の目的がわからずどんな生物なのかも知らないので、何か具体的な行動に移すこともできない。そんな状況で求められるのは何だろうか。

鍵を握るのは銃でもミサイルでもなく「言葉」

本作で最も重要になるものは、「言葉」だ。

よくよく考えてみれば、過去のSFエイリアン映画の中には、もっと上手くコミュニケーションが取れていれば戦争にならずに済んだようなものも多いのではないだろうか。「地球外生命体は地球侵略のために来るもの」と勝手に思い込んでいるのは、妄想に溢れた小説や映画を見すぎた人間の勝手な妄想かもしれない。

巨大な飛行物体に乗った地球外生命体は「ヘプタポッド」と名付けられた。彼らはその宇宙船からまったく出ず、人類を船内に招き入れるだけ。彼らはイカやタコが吐いた墨のようなもので空中に「文字」を描くことができた。

https://www.youtube.com/watch?v=ZLO4X6UI8OY ©2016 CTMG

https://www.youtube.com/watch?v=ZLO4X6UI8OY ©2016 CTMG

ヘプタポッドの出す「文字」が一体何を表しているのか。世界中の国々がこのメッセージの解明を急ぐ中、ついに人類は一つの文章を読み解くのであった。果たして彼らのメッセージは何を意味するのか、彼らは何のために現れたのか。一人孤独に戦い続ける主人公と心同じく、見る者はその謎に惹きつけられるだろう。

そしてその答えの先には、衝撃の展開が待っている。

物語の終着点は重厚な人間ドラマ

「言語体系は思考を規定する」。言語学には、このような仮説がある。

例えば、日本語と英語では文法の構造が異なるため、論理の展開が変わる。英語は結論を先に、あとから理由を述べるという文法構造なので、西洋人は意見をはっきりと言う人が多く、対して日本語は結論を最後に述べる文法構造なので、日本人は控えめではっきりと断言しない人が多いそうだ。このように、言語体系がその人の考え方に大きく影響しているという仮説である。

本作にもこの学術的なテーマが根底にあるはずだ。つまり、地球外生命体の言語から読み取れるのは、単純なメッセージだけでなく、彼らの思考そのものなのだ。人間ではない知的生命体の思考、物事の捉え方に触れることで一体何がわかるのか?

この疑問と共に、物語は終盤に向かうにつれて大きく広がり、張り巡らされていた伏線はすべてつながっていく。そして圧倒的な重厚感を持つラストに、観る者はただただ息を飲むことになる。まるで巨匠テレンス・マリック監督の映画を見ているかのようにも思えるだろう。本作はSFを背景にしながら、人生を説く哲学的作品へと昇華されていくのだ。

ドゥニ監督の作品に、見る者はなぜ心を揺さぶられるのか。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品に共通するものは、「主人公の自分自身との対峙」だ。

一人の人間をある一定の状況に置くことで、その内面をじわじわとスクリーンに曝け出していく。台詞で多くを語ることがないのもドゥニ監督作品に登場するキャラクターの特徴だろう。監督自身は「映画を詩的なものだと考えている」と過去に語っており、確かに彼の紡ぎ出す映像は、すべてが主人公の心理の延長線上にあるかのように繊細なものと感じられる。

ドゥニ監督はリアルな映像の質感にこだわることでも良く知られており、本作もSFでありながらCGを極力使わずに撮影されている。本物と偽物では、そこから感じられる雰囲気がまったく違ったものになってしまうことを監督は懸念し、その手法をSFだからこそ最大限に生かしたという。加えて本作では、極限状況下の主人公を覆う空気感をBGMによって作り上げて、アカデミー賞音響賞を受賞している。それら一つ一つが主人公の深層心理を紡ぎ出しているのだ。彼の作品を一つでもご覧になったことのある方であれば、その演出力に誰もが納得するはずだ。ドゥニ監督の作品では、観る者も主人公の心理に寄り添い、ときに主人公を自分自身に置き換えて一喜一憂することができるだろう。

本作『メッセージ』は、きっと10年、20年後になってもSFの傑作として語り継がれるはず。それほどの驚きと感動に満ち溢れているからだ。繊細でありながら、力強く語りかけてくる監督からの“メッセージ”を是非、劇場で。

Eyecatch Image: https://www.youtube.com/watch?v=ZLO4X6UI8OY
©2016 CTMG

About the author

ゾンビからラブコメまで映画文化を愛するシネマフリーク。とにかく一人でも多くの人に素晴らしい映画に触れて欲しいため日々情報発信中。アジア映画と70年代アメリカンニューシネマにハマっております。

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