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『ミッション:インポッシブル』トム・クルーズ主役卒業の構想があった ─ 『ゴースト・プロトコル』脚本大幅修正で見送りに

『 ミッション:インポッシブル/フォールアウト』記者会見 トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、ヘンリー・カヴィル、クリストファー・マッカリー監督
©THE RIVER

映画『ミッション:インポッシブル』シリーズに、イーサン・ハント役のトム・クルーズを主役から卒業させる構想が存在したという。問題の作品は、2011年に製作された第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)。同作で撮影監督を務めたロバート・エルスウィット氏が、同シリーズのファン・ポッドキャスト「Light The Fuse」にて明かした。

この記事では、映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の内容に言及しています。ただし、重大なネタバレはございません。

 ミッション:インポッシブル/フォールアウト
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』© 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

イーサン・ハント、IMF長官に昇進?

「『ゴースト・プロトコル』の最初のバージョンは、イーサン・ハントがエージェントを辞めて(IMF)長官になるという結末でした」。撮影監督のロバート氏は、これまで伏せられてきた『ゴースト・プロトコル』の秘密に言及した。「あの映画に関わった人たちの多くは、きっとこの話をしないと思うんですよね」。当時構想されていた“トム・クルーズ卒業計画”について、ロバート氏は記憶のかぎり説明している。

「(当初の構想では)新しいIMFのミッション・チームが、新しい俳優で結成される予定でした。それがジェレミー・レナー(ウィリアム・ブラント役)だったのか、別の俳優だったのかは誰にもわかりません。ものすごい出来事が次々に起こって、最後にトムは長官になる。そして、新しいエージェントがシリーズを引き継ぐんです。」

『 ミッション:インポッシブル/フォールアウト』記者会見 トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、ヘンリー・カヴィル、クリストファー・マッカリー監督
©THE RIVER

「一種の解雇通告だった」というこの結末を、製作当時は関係者の全員が受け入れていたという。プロデューサーを兼任するトム自身も、イーサンがIMF長官となって主役の座を退く展開に納得したのだろう。それでもその展開が実現しなかったのは、『ゴースト・プロトコル』の脚本が撮影中に大幅に修正されたためだった。

「脚本がちょっと雑だったんですよね。こういう内容でした。新しいエージェントが出てきて、トムを刑務所から解放して、いろんなことを一緒に経験して、そのあとIMF長官が殺される。最後に雪の中で派手な戦闘をやって、あれこれあって、トムが長官になる、と。」

『ゴースト・プロトコル』の冒頭で、イーサンはモスクワの刑務所に収監されており、ジェーン(ポーラ・パットン)とベンジー(サイモン・ペッグ)の助けによって脱獄に成功する。しかし当初の脚本では、この脱獄シーンは別のかたちで登場していたのかもしれない。なにせ製作チームは、この場面を撮り終えてから脚本の修正に入ったというのだ。キーパーソンとなったのは、第5作『ローグ・ネイション』(2015)以降を手がけるクリストファー・マッカリーだった。

「ロシアの刑務所から脱獄する場面を撮り終えた後でした。クリストファー・マッカリーが参加して、脚本を書き直したんです。映画の後半部分、それ以上かもしれません。そこで(撮影の)一番最初に撮っていた部分を変更する必要が出てきて、セリフを足して、小さなシーンを撮り直して、すべてを成立させました。彼(マッカリー)がすべてを繋げてくれたんです。そして最後には、トムは長官にならないことになった。彼は自分だけの道を進んでいくんです。」

 ミッション:インポッシブル/フォールアウト
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』クリストファー・マッカリー監督 © 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

スタジオと製作チームの葛藤

マッカリーの参加によって、当初構想されていた“トム・クルーズ卒業計画”は見送られることになった。マッカリーの手で大幅に修正された『ゴースト・プロトコル』の脚本は、トム・クルーズ/イーサン・ハントがきちんと手綱を握りつづける内容になっているのである。ロバート氏は一連の変更を象徴するシーンとして、イーサンとブラントが二人で行動し、列車に乗り込んでベンジーらと再会するシーンを挙げている。

「列車の中で起こることは、直接的にも比喩的にも、“トム・クルーズがこの映画を引き受ける”という宣言になっているんです。彼はIMFのメンバーを引き受け、映画そのものを引き受ける。あのシーンはその両方なんですよ。彼はひととおり説明しますよね。“ここまでにこんなことが起こった、これからはこうする、悪いヤツはこいつらだ”。すべてが整えられるんですよ。」

マッカリーの名前は『ゴースト・プロトコル』にクレジットされていないが、おそらく彼は映画全体を構築し直すほど大きな作業に取り組んだのだろう。同ポッドキャストでマッカリー自身が語ったところによると、『ゴースト・プロトコル』の肝であるイーサンの妻ジュリア(ミシェル・モナハン)の設定、ジェレミー演じるブラントの過去を完成版の形に整えたのはマッカリーだったとのこと。マッカリーの参加以前、二人にはまったく別の設定と展開が用意されていたという。しかもロバート氏のいう、“雪の中での激しい戦闘”は本編に存在しないのだ。

『 ミッション:インポッシブル/フォールアウト』記者会見 トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、ヘンリー・カヴィル、クリストファー・マッカリー監督
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』来日時記者会見にて ©THE RIVER

なおマッカリーは、自身が脚本を修正したあとも、別の脚本家がプロジェクトに参加していたことを明かしている。「LOST」(2004-2010)のデイモン・リンデロフが、「スタジオの意向に沿った結末にするため」雇われたというのだ。

「(スタジオの求める結末は)映画にまったくハマりませんでした。僕の書いた脚本の方向性ではなかったんです。スタジオ側は、自分たちの気に入った結末をなんとか成立させようと手を尽くしていましたね。しかし、その時にはもう、彼らの求めるものではない方向性で撮影が進んでいました。デイモンが気の毒ですよ。名誉のためにいえば、そもそも彼は的外れな仕事のために雇われたんです。スタジオが求める結末と、『ミッション:インポッシブル』が求める結末との間で走り回ることになってしまった。『ミッション:インポッシブル』というシリーズには、自らの意志がありますから。」

“トム・クルーズ卒業計画”が誰の意向によるものだったのか、その真相はわからない。しかしスタジオ側がマッカリーの脚本に沿わない結末を求めていたということは、それがスタジオの要求だったという可能性も十分に考えられるだろう。

既定路線だったトム・クルーズの主役卒業を覆したマッカリー監督は、その後トムやスタジオの信頼を受けて、第5作『ローグ・ネイション』と第6作『フォールアウト』で脚本・監督を務め、今後は第7作、第8作の連続公開を控えている。しかし、もしもトムが主役ではなくなっていたら、きっと現在の『ミッション:インポッシブル』はなかったはずだ。たったひとりのフィルムメーカーによって、映画史に輝く人気シリーズは救われていたのかもしれない。

映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』Blu-ray&DVDは発売中。シリーズ第7作は2021年7月23日に、第8作は2022年8月5日に米国公開予定(ともにタイトル未定)。

Sources: Light the Fuse(1, 2), Collider(1, 2

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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