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実力派俳優ドン・チードルが映画初監督に挑む『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』レビュー

北海道札幌市にて現在開催中の第11回札幌国際短編映画祭。日本国外から多数の短編映画が集められる本祭典は今回で11年目を迎え、アニメーションからドキュメンタリーまで幅広い分野の作品群が数多く出品されている、国内最大規模の短編映画祭だ。
そして今回から短編映画のみならず、長編映画作品の特別上映枠も用意され、ドン・チードル監督・主演で贈る『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』のジャパンプレミアが行われた。

本作は、“モダン・ジャズの帝王”と呼ばれ、ジャズ界を牽引してきた伝説のトランペット奏者、マイルス・デイヴィスの伝記映画である。『ホテル・ルワンダ』(’04)でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、近年では『アベンジャーズ』シリーズでジェームズ・ローズ中佐を演じるなど、その知名度を徐々に高めつつある実力演技派俳優、ドン・チードルが初監督&主演を務めている。 会場で登壇した担当者のエピソードによると、本作を札幌でいち早く上映するにあたって、ドン・チードル本人からも「是非、札幌で」という連絡があったというから驚きだ。本作は12月より全国で順次ロードショーとなるが、今回の映画祭でひと足お先に鑑賞させて頂いた筆者。映画の概要も伝えながら簡単にご紹介しよう。

http://eiga.com/movie/85398/gallery/
http://eiga.com/movie/85398/gallery/

映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』レビュー

本作の舞台は1970年代後半のニューヨーク。この頃からマイルスは、健康状態が年々悪化の一途をたどり、遂には、75年から80年までの約5年間に渡って休業期間に入ることとなる。この活動休止期間中には一体何が起きていたのか、そして、80年のカムバックはどのような経緯で実現したのかをユニークに描いているのが本作だ。

休業中の彼は酒、女、ドラッグなどに明け暮れ、復帰の声には全く聞く耳を持たず、ただ無駄な時間のみが過ぎていく。そんな中、ローリング・ストーン誌の記者デイヴが訪れ、マイルスの記事を書こうと接触を試みるのだ。その後の2日間、マイルスとデイヴは思い掛けないことから行動を共にし、まるでバディ・アクションさながらの、スリル溢れる追跡劇にも発展する。伝記映画を観ているという感覚を忘れてしまいそうになる程だ。

これらアクション映画さながらの展開には一部フィクションも織り交ぜられているということで、半自伝的な娯楽作として、誰が観ても楽しめるように工夫されている。 この作品はマイルスの逸話に焦点を当てているが、それと同時に、マイルスとデイヴのバディ・ムービーでもあり、見る角度によっては様々なジャンルへと変貌していく面白い映画であると感じ取った。マイルスの前妻であるフランシスとの出会いと別れも変容に描かれており、ロマンス映画の側面も垣間見ることができる。
また、画面の絵作りも非常にレトロな質感を感じさせ、どこか昔懐かしい古風な映画を観ている感覚だ。まさに、70年代の映像作品を意識したかのような絶妙なカメラワークにもぜひ注目して欲しい。

キャストも主演のドン・チードルを始め、デイヴ役のユアン・マクレガー、ハーパー役のマイケル・スタールバーグなど、大変豪華な顔ぶれだ。特に、チードルの熱演にはぜひ拍手を送ってほしい。まさに演技派俳優というだけあって、彼の今までの印象とは全くかけ離れた素晴らしい芝居だった。普段のチードルとはまたひと味違う役柄に彼の新境地が伺える。 マイルス・デイヴィスのことを一ミリも知らない人間であっても問題なく楽しめるのが素晴らしい。現に、筆者は今回の映画を知るまで彼の存在は全く聞いたことがなかった。そんな私であっても映画自体は素直に楽しめたので安心して欲しい。むしろ、この映画はそんな彼のことを知らない人にこそ観てほしい作品であると、筆者はそう感じ取った。

劇中では彼の活動休止時期がメーンの話となっているが、要所要所では彼の過去なども回想されるので、従来のファンであってもより深く彼のことを知ることができるだろう。

映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』は2016年12月23日より順次全国ロードショー。第11回札幌国際短編映画祭は10月10日から10月16日まで開催中。

Eyecatch Image:http://www.avclub.com/review/miles-ahead-finds-novel-solution-biopic-problem-ju-234539

Writer

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Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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