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『モアナと伝説の海』脚本、『ジョジョ・ラビット』タイカ・ワイティティが参加していた ─ なぜ離脱したのか、完成版に残ったものとは

タイカ・ワイティティ
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/36201776766/

ディズニー映画モアナと伝説の海(2016)には、ひとりの人気フィルムメーカーが携わっていた。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)を手がけ、『ジョジョ・ラビット』でアカデミー賞脚色賞に輝いたタイカ・ワイティティだ。現在は『マイティ・ソー/ラブ&サンダー(原題:Thor: Love and Thunder)』を控えているほか、今後、人気漫画『AKIRA』のハリウッド実写版を手がける可能性もある。

タイカが『モアナと伝説の海』に携わっていたのは、創作の初期段階である2012年のこと。ディズニーの依頼を受け、脚本の第一稿を執筆したのである。もっとも、完成した映画にタイカが執筆した内容はほとんど残っていないそう。タイカ自身、「残ったのは“屋外・海・昼間”という設定だけ」というジョークを飛ばしているほどである(本当にジョークなのだろうか……)。

監督のロン・クレメンツによれば、タイカは本作において「一人目の脚本家」。通常、ディズニーのアニメ映画の場合、脚本の第一稿はチームのメンバーが執筆するとのこと。しかし本作が扱うのは、南太平洋諸島の物語。監督たちはリサーチのため現地へ赴き、主人公の少女に「モアナ(海)」という名前をつけ、先に全体のあらすじを決めたあと、タイカを“現地の文化に精通するストーリーテラー”として招いたのだ。

クレメンツ監督「南太平洋出身のスタッフからタイカのことを聞きました。『モアナと伝説の海』では、実際の文化圏を出身とする人に脚本を書いてほしかったんです。タイカが脚本・監督した『Boy(原題)』(2010)という映画は素晴らしかったし、もうひとつ彼の脚本を読んだら、そっちもすごく良かった。そこで、僕たちが進めていた仕事を見てもらい、すごく気に入ってくれたんです。数ヶ月間いっしょに仕事をしました。」

タイカの父親は、『モアナと伝説の海』に登場するマウイのモデルとされるニュージーランドの先住民・マオリ族。母親はヨーロッパにルーツを持ち、祖父はロシア系ユダヤ人、祖母はアイルランド系だ。タイカは自身を“ポリネシア系ユダヤ人”と形容するが、彼の作品にはニュージーランドの先住民文化が深く染み込んでいる。タイカ自身、本作についてはこのように振り返っている

タイカ「鈍感で薄っぺらい映画を作らずに済む最善の方法は、そのコミュニティ出身の人間を、つまり太平洋の人間を入れること。だから、脚本でやれることがあるなら、ダメな映画にならないよう挑戦してみたいと思いました。だけど、やることがなくなって……。いつもそうなんですけど、結局は自分の映画を作りたくなったんです。それで、代わりにヴァンパイアの映画を作ることにしました。」

“ヴァンパイアの映画”とは、タイカ・ワイティティの名前を世界に知らしめた一作『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(2014)のこと。『モアナと伝説の海』の脚本初稿を書き終えたタイカは、同作を手がけるためニュージーランドに帰国している。折しも、当時のタイカは子どもが生まれたばかり。「アメリカに居たくなかった。オフィスでの仕事も、誰かの映画の脚本を書くことも、したいことではなかったので」と彼は振り返っている。

なおクレメンツ監督によると、タイカが脚本を執筆する以前、ディズニー側は“モアナに6人の兄弟がいる”というアイデアを検討していたという。ただし監督は、このアイデアについて「“私は男の子じゃないし、頑張って自分自身を証明しなきゃいけない”なんて、時代遅れですよね。だからタイカは、そういう面も脚本に反映してくれました」語っている。残念ながらその多くは使われなかったが、監督は「タイカは素晴らしい脚本家です」と絶賛。プロデューサーのオスナット・シューラーも「太平洋諸島のユーモア精神を取り入れてくれた」と語った。

シューラー「タイカがちょっと失礼なユーモアを映画に入れてくれたおかげで、私たちも同じ道を進めるようになったんです。彼はその文化で育っているし、どうやって映画にユーモアを入れるのかを私たちに教えてくれた。彼は作品に文化的な豊かさをしっかりと取り込んでくれました。それらは形を変えて、映画にも残っていると思います。」

その後、完成した『モアナと伝説の海』について、タイカは「良かった」と率直な感想を語っている。「太平洋の文化を蔑むようなものになっていなかったので、ホッとしました。すごく心配だったし、不安に思っていたんです」。シューラーが言うところの「太平洋諸島のユーモア精神」については、「現地の人々に敬意を払わなきゃいけない、というのが危ないんですよ。太平洋諸島の人たちやポリネシア人ほど、敬意の欠けたユーモアを使う人たちはいませんから」と笑いつつ、現状への理解も示している。「だけど、アメリカ人は別の文化を描き、過去にはマイノリティの表現で批判を受けてきた。だから、彼らは少しでも安全な作品を作らなくてはいけないんです」

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Sources: The Guardian, MovieFone, /Film

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

THE RIVER編集部。「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。劇場用プログラムや各種媒体への寄稿なども喜んで承りますので、お気軽にお尋ねください。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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