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エンターテイメントではない愛の痛み 『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』レビュー

愛を心電図にたとえるなら

「愛と苦しみを繰り返すのはうんざり。心電図のように波打つ生活じゃなく、平らがいいの」

「心電図なら平らは死んでいるのと同じだ」

トニーとジョルジオの主張はどこまでも食い違う。あるときは世界で一番幸せなカップルのように振舞えるのに、あるときにはありったけの怒りと憎しみを相手にぶつけてしまう。惰性のように、それでも体を重ねるのは止められない二人。ここで筆者が連想したのは漫画家、高浜寛の短編集凪渡り ― 及びその他の短篇に収録された『水いらず』という話だ。離婚を決意した夫婦が最後の思い出に二人きりで温泉旅行をする。混浴しながら体を求め合う二人は、体の相性を実感しながらもこれ以上生活を続けられないことは分かっている。

セックスと愛情の関係は一言で表せるものではないが、少なくともこう考えることはできる。終局を迎えたカップルにとって、セックスの相性がむしろ苦しみに変わることはありえるのではないか、と。

10年間に渡って未練と憎悪の中、完全に関係を断つことができない男女の苦しみを本作は丁寧に描いていく。10代で巨匠リュック・ベッソンの妻となり、わずか4年で離婚したマイウェン監督、その壮絶な人生がどこまで本作に反映されているかは知る由もない。ただし、離婚後、ストレスから肥満に悩まされたという監督と、膝のリハビリを通じて精神的にも平穏を取り戻していくトニーの姿は、どこか重なるものがある。どんな境地で監督は、あのラストシーンへと到達したのだろうか。そして、あなたはトニーのラストカットの表情から何を感じとるだろうか。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』は2017年3月25日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

c 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR ? STUDIOCANAL

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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