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『オリエント急行殺人事件』が現代の観客に刺さる理由、キーワードは「復讐」と「恐怖」 ─ ケネス・ブラナーが分析

オリエント急行殺人事件
©2017Twentieth Century Fox Film Corporation

イギリスの名優であり、『マイティ・ソー』(2011)や『シンデレラ』(2015)の監督としても知られるケネス・ブラナーが主演・監督を務めた『オリエント急行殺人事件』(2017)は、“ミステリーの女王”アガサ・クリスティーが1934年に発表した同名小説の映画化だ。これまで何度も映像化されてきた不朽の名作が、新たな技術と解釈をもって描き直される。

なぜ『オリエント急行殺人事件』はこれほど何度も映像化され、そのつど観客の支持を得てきたのか。英indieLONDONにて、ブラナーはその魅力を分析している。

「アガサ・クリスティーの作品が現代にもぴったりはまるのは、彼女の物語が人間の経験することに通じているからでしょう。たとえば『オリエント急行殺人事件』では、道徳的に難しい問題がいくつも提案されています。そこには、復讐というものの本質についての問いかけも含まれている。復讐に終わりはあるのか、復讐は正義と言えるのか、“目には目を、歯には歯を”は人間の違いを解決する方法たりえるのか。あるいは、復讐の中に良心はあるのか。」

ブラナーは『オリエント急行殺人事件』について、クラシックなミステリーの奥底にあるものが各時代にフィットしてきたのだと指摘する。おそらく、それこそが物語を新鮮なものにしてきたものの正体だろう。ブラナーは、アガサ・クリスティーを「一般向けのストーリーを描くすさまじい才能がありながら、ひっそりと道徳を熟慮するところがある。それが現代の観客にも届くのだと思います」と語った。

本作の脚本を執筆したのは、『LOGAN/ローガン』(2017)や『ブレードランナー 2049』(2017)のマイケル・グリーン。再映画化にあたり、ブラナーは原作と脚本を読み、「とても原始的で恐ろしいものがあると思った」と語っている「アガサ・クリスティーを楽しく描くこともできるけれど、そこには恐ろしく危険な側面もある。みなさんが想像する以上に怖い映画にしようと思いました」。原作小説を、ブラナーは「復讐のドラマを描いた、ダークな心理劇でもある」と形容したのだ。

2017年版の『オリエント急行殺人事件』では、アガサ・クリスティーの権利者の許諾を得て、原作の精神を継承しながら、より独創的な脚色が許されたとのこと。原作や1974年版の映画とは人物設定などが一部異なるほか、ブラナーは、脚本家のグリーンに対して「登場人物の深みを見出してくれた」との賛辞を寄せている。さらにブラナーは、撮影現場で即興演技も採用し、クリスティーの原作やグリーンの脚本をさらに活かす方法も模索したとか。“今に通じる”『オリエント急行殺人事件』は、原作・脚本・俳優・監督、すべての力が結集して誕生した一作なのである。

Sources: indieLONDON, Entertainment Weekly, CRIME FICTION LOVER

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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