【インタビュー】『シンクロナイズドモンスター』監督は松本人志マニア!「『大日本人』の影響受けたよ」

「今日の僕はSF男だよ!」──スペインの鬼才は、ノートPCのスクリーンの中で、アップル・シナモン・フレーバーのVAPE(電子タバコ)の煙をモクモクと吐きながら笑っていた。「日本の皆とTV電話で話して、巨大なピルを持って(Beats Pill ワイヤレススピーカー)、VAPEを吸っているんだからね。」

ナチョ・ビガロンド監督
©2016 COLOSSAL MOVIE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

なぜか巨大怪獣と動きが”シンクロ”してしまうという”ダメウーマン”の奮闘を描く異作『シンクロナイズドモンスター』のナチョ・ビガロンド監督は、テレビ電話を通じたTHE RIVERのインタビューに応じた。モクモクと吹き出されるVAPEのケムリを嗜むナチョ監督に「何かトリックを見せて」とリクエストすると、鼻から吸ったケムリを口から吐き出してくれた。てっきりケムリで輪っかでも作ってくれるかと思いきや、想像の斜め上を行くトリックを披露してくれたナチョ監督。「煙草は嫌いだから吸わないんだけどね」と笑う監督が手に持ったVAPEはライトセーバーにも見えて、あながち「SF男」という表現も遠くない。

「どうしても怪獣映画を撮りたかった」

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『シンクロナイズドモンスター』では、アメリカはニューハンプシャー州の主人公グロリア(アン・ハサウェイ)が、テレビを通じて巨大怪獣が韓国の街に現れたことを知る。そしてグロリアは、この怪獣の動きが自分自身とそっくりそのままシンクロしていることに気付くのだ。日本とスペイン、遠く離れた距離ながら筆者とナチョ監督がリアルタイムで話題を共有するように、この映画では地球を半周するほどの”距離”がテーマのひとつになっている。

「僕は若い頃から、怪獣映画を撮りたいと思っていた。もうね、どうすれば低予算で怪獣映画を撮れるだろうかと、ずっと考えていましたよ。そこで、“怪獣パニックが遠いところで起こっている”というアイデアを思いついたんです。モンスターがアジアの美しい街を破壊している。それを遠く離れた地から、テレビのニュースとして見ていることしかできないというね。

たとえば、福島で災害がありましたよね。あの時も、僕たちはテレビで観ていた。そんな風に、怪獣による被害を離れた地でテレビで観ながら心配する、視聴者目線の映画を作ったらどうだろうと考えたんです。だからこれはモンスター映画であり、災害映画であるけれど、同時に”距離”がテーマとなった映画です。」

ナチョ監督が東日本大震災の例を挙げたように、”遠隔地で起こった災害を、テレビを通じてリアルタイムで目撃する”ことは間違いなく誰もが身近に経験したことがあるはず。しかし、身近であることと、関与することは全く異なるだろう。『シンクロナイズドモンスター』は、登場人物がその境界線を超えていく様子が描かれる。

「ちょうど2週間前も、ここヨーロッパではバルセロナでテロがありました。(※このインタビューは2017年9月上旬に行われた。)テロの知らせを受けてまず僕がとった行動と言えば、友人に電話をして安否を確認することでした。つまり、僕はテレビの向こうで起こっている出来事に関与していったわけです。この瞬間、僕は”第四の壁”を超えたわけですね。

これがこの映画の核となるものです。もしかしたら僕たちは、テレビを通じて災害などで人が命を落とす様をただ観ることに慣れてしまっているのかもしれない。でも、こうした光景が自分に関係するという実感はあっただろうか?もしもそれが”自分ごと”になったら、人はどう反応するだろう?この映画に重要なのは、そういった疑念でした。『シンクロナイズドモンスター』では、基本的に主人公グロリアは怪獣の様子をテレビを通じてしか知ることができません。そこでグロリアが取った行動に大きな意味があるわけです。」

アン・ハサウェイが主演を熱望

そのグロリアを演じるのは、若い女性の憧れの的でもある女優アン・ハサウェイ。『プラダを着た悪魔』(2006)『レ・ミゼラブル』(2012)『ダークナイト ライジング』(2012)といった大作映画でクールな魅力を放ち続ける彼女が、『シンクロナイズドモンスター』の規模の作品で「ダメウーマン」と形容されるアルコール依存症の女性役で主演するというのは意外かもしれない。

「実はアンはこの作品に出資がつく以前から、この役に熱烈に賛同してくれていたんです。この企画は彼女のコミットによって実現したと言ってもいいくらい。ある午後、初めてアンとお会いしたときに、お互いの過去の“お酒のやらかし話”をぶちまけあったんです(笑)。けっこうエグい話もあったけど、楽しかった!
アン・ハサウェイは役をジャッジしないで、自分自身を投影するタイプなんですよね。アメリカのインタビューでも、”この役はどこまでが素の私かわからないでしょう?”と答えていたくらい、本来の彼女を引き出していました。別に、普段のアン・ハサウェイが呑んだくれって意味じゃないですよ(笑)。」

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アンが本作への出演を熱烈に希望したのは、脚本や設定の妙もさることながら、ナチョ・ビガロンド監督のユーモア溢れる人柄も決め手となったはずだ。ナチョ監督は撮影期間中のハロウィンの日、猫耳付きのぴちぴちキャット・スーツ姿で現場に現れたという。ちなみに、アン・ハサウェイが『ダークナイト ライジング』で演じたキャットウーマンにかけているわけではないそうだ。

「だって、ハロウィンだもん!皆仮装してたし。でも、僕が一番アホな格好をしてたのは事実(笑)。一番酷かったよ。でも、みんな仮装してたから!」

ナチョ監督の人懐っこさは、PCのスクリーン越しにも伝わってくる。インタビューでは通訳さんによる日本語訳を待つ間、スクリーンの向こうでVAPEのケムリと遊ぶ様子を見せてくれた。それほどのユーモア精神は、もちろん映画全編を通じて色濃く現れている。ナチョ監督にとって、笑いとは映画と人生に欠かせないものなのだ。

「コメディ要素はすごく大事ですよ。僕はスペインの小さな町で、おとなしい家族の中で育った。そんな僕にとって映画製作とは、宇宙飛行士になって月面を歩くくらい非日常的なもの。時に人生って悲しいこともあるけれど、映画くらいは楽しくありたいじゃん?コメディはそんな楽しさを表現する手段だと思うんです。」

これまで地元スペインで短編映画の多くやインディペンデント映画を手がけてきたナチョ監督にとって、『シンクロナイズドモンスター』は自身最大規模の作品となった。もちろん、大女優アン・ハサウェイの主演も大きい。さぞプレッシャーを感じたのかと思いきや、「プレッシャーは全くありませんでしたよ」と、あっけらかんと答える。

「言ってもインディペンデント映画ですし。確かに予算はこれまでで一番大きかったけれど、僕の場合は今までの作品が全て超低予算だったから、あまり関係ないかも。これがスピルバーグ映画史上最大規模!とかだったら、また話は違いますけどね。」

 

ナチョ・ビガロンド監督は松本人志の大ファン

ところで『シンクロナイズドモンスター』とは日本独自の邦題で、原題は”Colossal”(巨大な、並外れた、の意)と言う。ナチョ監督は「日本版のタイトルは大好きですよ。この映画は、日本の怪獣映画から大きなインスピレーションを受けていますから」とご満悦。何せ「スペインのオタク」を自称するナチョ監督は日本の漫画や映画が大好きで、特にお気に入りの映画監督は松本人志なのだという。

ヒトシ・マツモトは最高だよ!実はね、『大日本人』のアメリカ配給と、僕の第一作の配給が同じ会社だったんですよ。予算も同じくらいでね。僕がマツモト映画を観たのはそれがキッカケでした。『シンクロナイズドモンスター』は『大日本人』の影響を受けていますからね。

マツモト映画は全作観ていますけど、映画として僕の中ではベスト。マジで大ファンなんです。日本では有名なお笑い芸人なんですよね?お笑いをやりながら映画監督でもいられるというのが勇気づけられますよね。ヒトシ・マツモトにタケシ・キタノ。他の国ではありえないですから。コメディアンだったらコメディアン、映画監督なら映画監督というようにね。でも日本なら両方成り立つ。すごいことですよ。」

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映画『シンクロナイズドモンスター』は2017年11月3日より、新宿バルト9とヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開。最後に日本の観客にメッセージを求められたナチョ監督は、「まずは純粋に楽しんで頂きたい。それ以上の解釈は皆さんに委ねます!」とニヤリ。ダメウーマンと大怪獣が遠く離れてシンクロするという斬新なストーリーは、是非劇場で。

(取材、構成:Naoto Nakatani)

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