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『オッペンハイマー』原爆投下は必要だったか?本人が答える1965年のインタビュー映像

https://www.youtube.com/watch?v=AdtLxlttrHg

「原爆の父」物理学者ロバート・オッペンハイマーを描く映画『オッペンハイマー』が、米公開からおよそ8ヶ月を経てついに日本公開を迎えた。映画ファンから熱い支持を受けるクリストファー・ノーラン監督によるこの最新作は早くから映画賞を席巻することが期待されていたが、日本ではさまざまな事情によって公開が危ぶまれる時期もあった。

映画では、オッペンハイマーが「マンハッタン計画」に携わるようになる経緯や、人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させる様子、その裏にあった心理的葛藤などが繊細に描かれる。すでに各所で語られているように、映画はあくまでもオッペンハイマーの視点に集中しており、彼らが開発した原爆が広島・長崎に投下される様子、その後の惨状は映像で描かれない。一方で映画では、オッペンハイマーが被爆者たちの苦しみを投影し、恐ろしい重責を感じている描写もある。

実際に、ロバート・オッペンハイマーは自身が開発した原子爆弾が、二度にわたって日本に投下され、多数の死者を出した事実について、どのような想いを抱いていたのだろうか。貴重な資料として、終戦20年後である1965年に米CBSがオッペンハイマー本人に行ったインタビュー映像がある。

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これは米CBSが2023年7月19日に公式YouTubeに公開したアーカイブ資料で、おそらく映画の米公開(7月21日)に合わせたものだろう。鳥の囀りの聞こえる屋外で、オッペンハイマーは煙管をふかし、インタビューに答えている。

オッペンハイマーはこの時61歳ごろ。彼は1967年2月18日に62歳で亡くなっているので、死の少し前のインタビューということになる。

最初の質問は「今振り返ってみて、我が国の原爆投下は必要だったと思いますか?」というもの。オッペンハイマーはかなり慎重に言葉を選ぶ様子とともに、「私が多くの人々から学んだ見解、とりわけマーシャル将軍や陸軍長官スティムソン大佐から聞かされた見解、つまり、我々は本島でも戦わなければならず、その結果としてアメリカ人と日本人の大規模な殺戮を伴うだろうという見解は、誠意と、遺憾と、そして当時あった最善のエビデンスに基づいたものであり、その代替案として導き出された原爆投下は、大きなrelief(=安堵、安心感、救済)であったと私は思います」と返答。他者より伝え聞いた“見解(view)”に基づく範囲内での言及にとどめている。

続いてオッペンハイマーは、「この戦争は39年に始まり、数千万の死者を見ることとなりました。20世紀半ばにはなかったような残虐行為と劣悪化を見ることとなりました。この手段による終戦のあり方は、間違いなく残酷なものでした。軽々しく受け取れるものではありません。しかし私は今日に至るまで、より良い道が当時開かれたと、確信しているわけではありません」と話す。一点を見つめながら、緊張したような面持ちで話していたオッペンハイマーは、この辺りでようやく視線を上げ、「この質問について、私は良い回答を持ち合わせていません」と、当惑したように答えている。

続いての質問は、「あらゆる合理的な考え方や、歴史が我々に示すあらゆる必然的な選択をもってしても、あなたや、あなたのような多くの人、つまり爆弾を誕生させた人々は、今なお良心の呵責に苦しんでいるようであります。そうなのでしょうか?」というもの。

オッペンハイマーは「他の方達についてお話しするつもりはありません。なぜなら、それぞれに異なっているからです」と断ったのち、「(原爆開発の)重要な役割を演じ、数十万人以上の死者、そして同等数の負傷者を出したということについて……、簡単なことと考えないのが自然です。私たちには大義名分がありました。しかし、人類史の流れを変えるべく自然を研究し、真実を学ぶという部分から逸脱することに、私たちの良心が全く安易であってはならないと考えています」と、開発者としての思いを話している。

「ずいぶん前、私は一度、下品な意味で、野卑さやユーモアを消し去ることはできないと言いました。物理学者は罪を知っていると(編注:1947年の発言)。これは、私たちの仕事の結果が死を招いたという意味で言ったわけではありません。“プライド”ということの罪を知っていたという意味でした。

私たちは、人類の歴史に大きな影響を与えることになりました。これは人類のためになるのだというプライドがありました。責任を持って関与した人々の多くに、その爪痕が残っていると思います。これは科学者にとって、自然な仕事ではないのです。」

次にCBSの質問者は、「広島への投下の数日後、あなたは、爆弾を開発した科学者たちが、核兵器が新しい行動パターンをもたらすという“希望”を育んできたと仰っておられました。その“希望”は、なぜ実現しなかったのでありましょうか?」と尋ねている。

これに対してオッペンハイマーは、かつて「新しい行動パターン、そして新しい機関」について言及したことがあるとし、「米ホワイトハウスとロシア間で電話におけるコミュニケーションがなされていること」、「世界征服の一歩としてではなく、ホロコーストの前に、議論し、説得するために立ち止まり、考える機会を与えるための一歩」がなされていること、「ロシアの知識人たちが、フランス、イギリス、アメリカに関心を寄せ、軍事の問題や科学応用の問題、平和維持の問題について議論していること」などは新しい行動パターンであると指摘。「機関がなく、パターンには欠陥があり、かなりの脆弱性もある。しかし、風は吹いています」との考えを述べている。

これを受けて質問者は、「あなたが未来について熟考なさる時、悲観より希望の方が多いということでありますね。あるいは、私は単純化しすぎでしょうか?」と映像内最後の問い。オッペンハイマーはまず「私は希望が持てることについて話すよう努めました。希望のない物事は、人々の心に飛び込んでしまうものです」と返してから、「中国が巨大な核戦争を起こす力を身につける前か、あるいはその後で、彼らは人類の運命についての見解、私たちとの関係性についての見解を変更するだろうか?それは誰にもわかりません。ロシアと西側諸国の関係は、この時代の歪みに耐えられるだろうか?アジアで今起こっていることに耐えられるだろうか?わかりません。全く望み無しと見る理由はいくらでもあります。誰もがそういうことを考えるのは当然だと思います」と述べ、「私が言おうとしたこと以上に、反対側のことを考えるのは難しいものです。しかし、どんなに脆弱で、どんなに暫定的で、どんなに限定的なものであっても、それらは実在し、より住み良い未来への足掛かりであるように私には見えます。その未来は、尽力が欠かせないものです」との見通しを語っている。

映画『オッペンハイマー』では、キリアン・マーフィーがオッペンハイマー役を演じた。この映画は第96回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞を含む7部門で受賞。現地インタビューでマーフィーは、「僕たちは、原爆を作った男についての映画を作りました。良くも悪くも、僕たちはオッペンハイマーの世界に生きています。だからこそ、この受賞を、すべての平和主義者に捧げたい」とコメントしている。

作品賞と監督賞を授かったノーラン監督は、映画の伝える教訓について具体的な言及を避けるようにしているという姿勢を示しながらも、「この映画は私が劇的に必要だと考える、絶望の瞬間に終わる。しかしながら現実では、絶望が核兵器の問題に対するアンサーになるとは考えていません」との見解を語った

Source:CBS News

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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