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『オッペンハイマー』の世界的ヒット、「映画はコンテンツではないことを再認識させた」 ─ ドゥニ・ヴィルヌーヴ&ポール・トーマス・アンダーソンが称賛

クリストファー・ノーラン ドゥニ・ヴィルヌーヴ
Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/35397143143/ | Georges Biard https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Christopher_Nolan_Cannes_2018.jpg | Remixed by THE RIVER

クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー(原題:Oppenheimer)』は、いまや世界の映画界に大きなインパクトを与える一作となった。全世界興行収入は9億1,283万ドル、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)を抜いて伝記映画史上最高のヒット作となったのだ。R指定、上映時間3時間というハードルを鑑みれば、いかに大きな達成を果たしたかがよくわかる。

マンハッタン計画を主導した理論物理学者、“原爆の父”と呼ばれるJ・ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた本作は、早くから大きな注目を集めており、興行的な健闘が予想されていた。しかし、まさか米国公開10週目にしてIMAX上映が継続され、イギリス・ドイツ・フランスをはじめ、中国・韓国といったアジア圏でも大ヒットを記録する“社会現象”になるとは誰も想像しなかったのだ。

この事態を受けて、米AP通信では、『DUNE/デューン』シリーズのドゥニ・ヴィルヌーヴが大きな賛辞を送っている。とりわけ称えられたのは、ノーランこだわりの上映形式だった。

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本作は世界各地の劇場で70mmフィルムやIMAX 70mmフィルムで上映され、優れた興行収入を記録している。近年、映画館業界はコロナ禍の閉塞感から回復に向かっていたものの、配信サービスの台頭もあり、“映画”の立ち位置は変わりつつあった。そんな中、劇場体験を大切にした本作がヒットを記録したことは、ひとつの革命的な事件だったのだ。

ヴィルヌーヴは「映画は芸術ではなくコンテンツになったと考える人もいます。しかし、私は“コンテンツ”という言葉が大嫌いです」と言い、本作が大ヒットした意義を力説した。

『オッペンハイマー』のような映画が大スクリーンで公開され、イベントとなれば、映画は映画館で体験されるべき巨大な芸術なのだという考え方に再びスポットライトが当たります。映画の未来はIMAXやラージフォーマットにある。観客は自宅やストリーミングでは観られないものを観たい、イベントを体験したいのです。」

初期の試写で本作を観ていたというヴィルヌーヴは、当時から「傑作」だと考え、興行的成功を予感していたという。しかし現在、ヴィルヌーヴは「この映画は私の予想のはるか上を行きました。人々が核物理学について語り合う3時間の映画ですよ」と驚きを隠さない。

ノーラン&ヴィルヌーヴと同世代である、『リコリス・ピザ』(2021)などのポール・トーマス・アンダーソンも、『オッペンハイマー』現象に賛辞を送ったひとりだ。同じくAP通信に対し、「クリスのように強力な作り手が、人々に向けて“どこに行くべきか”を語れば、誰もが耳を傾けます。[中略]この映画を観るため、エルパソからダラスまで往復18時間かけて車を走らせた映画ファンたちを私は知っています」とのコメントを寄せている。

「(本作のヒットを)私は“自然の癒し”と呼びたい。フィルムで『オッペンハイマー』を観るのが、あらゆる面で優れていることに異論を唱える人はいないはず。もはや人々は、“なぜテレビ番組を見るために映画館に行くのか?”という問いかけにうんざりしています。けれど、もうその必要はないのです」。

監督デビュー以来、ノーラン作品のプロデューサーを務めてきたエマ・トーマスは、「私たちは幸運なキャリアの持ち主であり、何度も素晴らしい体験をしてきました。映画を作り続けられるほどにヒットした映画もいくつかあります」とコメント。「しかし、本作の見られ方とその後の展開を鑑みれば、今回が史上最高の成功だと考えます」「私たち自身の野心的な想像を超えていきました」と喜びを語った。

現在の映画業界では、劇場公開の45日後に配信リリースが始まることが一般的になりつつある。ただし、『オッペンハイマー』は早くとも11月下旬までソフトや配信のリリースを行わない見込み。トーマスはIMAX上映の終了後、いずれ再上映が実現することにも期待をかけている。

映画『オッペンハイマー(原題:Oppenheimer)』は米国公開中。日本公開はいまだ決まっていない。

Source: Associated Press

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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