『オッペンハイマー』原子爆弾製造の地、ロス・アラモスはいかにして再現されたか

映画『オッペンハイマー』第2幕では、主人公J・ロバート・オッペンハイマー率いる科学者たちが原子爆弾の開発に取り組むトリニティ実験の様子が描かれる。原子爆弾製造の地に選ばれたのは、米ニューメキシコ州にある自然豊かな町、ロス・アラモスだ。
1945年に行われたトリニティ実験を『オッペンハイマー』で再現する任務を任されたのは、『アス』(2019)や『NOPE/ノープ』(2022)といったジョーダン・ピール作品で知られるプロダクション・デザイナーのルース・デ・ヨング。クリストファー・ノーラン監督とは初タッグとなった。
ヨングが米Indiewireに語ったところによれば、ノーラン監督はトリニティ実験シーンのロケハンのために、実際にロス・アラモスまで車を走らせたそう。しかし、当時から75年以上が経過した街は様変わりしていた。「現在のロス・アラモスは非常に現代化されていました。角を曲がればそこかしこにスターバックスがあります」とデ・ヨングは振り返る。「彼(ノーラン)は“もしロス・アラモスを見に行きたければ行っても良いけど、僕はあそこで撮影する気はない”って感じでした」。

ロス・アラモスでのセット建造を諦めたノーランとデ・ヨングは、ニューメキシコ州のほかユタ州やコロラド州なども巡り、望んでいた眺望を再現できる地を求めた。最終的に行き着いた場所が、ニューメキシコ州北部にある、2万1,000エーカー(東京ディズニーランドの約166倍に匹敵)にも及ぶ広大な地、ゴースト・ランチだったという。そこには、デ・ヨングがロス・アラモスの街全体を建造するのに最適な台地があった。
「オッペンハイマーが自分のチームを何にもない場所へ連れていったことにどのような意味があったのか、それを観客の皆さんに理解してもらうためにも、圧倒的に壮大なロケーションを欲していました。」

一方、ノーランはあまりにもモダナイズされたロス・アラモスを完全に諦めたわけではなかった。デ・ヨングが「いくつかの建物は、当時から手付かずのままでした」と語るように、屋内での撮影にはロス・アラモスに現存する当時の建物が使用されたのだ。「1940年代に多くの女性が働いたドミトリーがありました。私たちはビー玉のボウルも置かれていたあの研究所として使用したんです」。
ある意味、“生き証人”である建物での撮影は、キリアン・マーフィーら俳優たちが役に没頭するための一役を買った。ロス・アラモスでの撮影は「彼らにとても影響を与え、素晴らしい心構えにさせました」とデ・ヨング。「彼らを当時にトランスポートさせたかったのです」。

製作の米ユニバーサル・ピクチャーズからは、プロダクション・デザインにフォーカスを当てたメイキング映像も公開されている。そこでは、デ・ヨングが「私が時代モノを手がける上で意識したのは、少ないほうがより豊かである(less is more)ということ。セットには趣向が凝らされる傾向にありますが、今作ではセットっぽく見せたくなかった」とこだわりを語る姿も映し出されている。映像内では、本編映像とともにゴースト・ランチでのロス・アラモス再現の様子も垣間見られる。
オッペンハイマーの妻・キティ役を演じたエミリー・ブラントは撮影を振り返り、「あそこに行けば、当時のロス・アラモスに連れていかれる感覚になりました。ディテールの一つも見過ごされず再現されています」と驚嘆。デ・ヨングは、「“これをみんなでやってのけるんだ”という共通認識を通して、私たちには仲間意識が芽生えました」と壮大な制作を振り返った。
『オッペンハイマー』は公開中。
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Source:Indiewire