『オッペンハイマー』爆弾投下をめぐる議論、実際には「存在しなかった」と歴史家が指摘

映画『オッペンハイマー』はのちに“原爆の父”と呼ばれる理論物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーの半生を綴った1作。劇中では原子爆弾が投下されるまでのプロセスにもフォーカスが当てられているが、劇中には史実と異なる描写があると、歴史家・ジャーナリストのエヴァン・トーマスが指摘している。
エヴァン・トーマスは2023年、日本に原子爆弾を落とすという決断に関わった3人に迫った書籍『Road to Surrender(原題)』を上梓。米Timeとの取材で、「爆弾を落とすというアメリカの決断を『オッペンハイマー』はどう捉えていましたか?」と訊かれると「爆弾を落とす決断について、興味深いことがあります」と答えた。
「決断というものは存在しなかったのです。どういうことかと言うと、たくさんの男が部屋に集まって、“私たちは爆弾を落とすのか?落とさないのか?”というものではなかったんです。」
トーマスの言う通り、劇中では陸軍長官らによって原子爆弾を落とすかどうかの議論を行うシーンも登場する。トーマスは「そうではなくて、何がなんでも爆弾を落とすんだという大きな勢いがあった」と説明する。
「(開発には)20億ドルが費やされましたからね。オッペンハイマーの場合、彼は心血を注ぎ、完成させることができると知りたかったため、引き裂かれるような思いだったでしょう。プライドも介在していたはずです。野心もあったでしょう。」
『オッペンハイマー』はそうしたオッペンハイマーの倫理的なジレンマを「捉えている」とトーマスは評価しながら、爆弾を落とすかどうかを議論するシーンについて「議論が部屋で行われていたということはありません」と再び強調した。「彼らは落とすつもりでいました。爆弾を落とさずに解決できたかもしれない、というような遠回しの印象がありましたが、それは事実ではありません」。
劇中の後半では、オッペンハイマーの苦悩の姿も描かれる。トーマスは“原爆の父”という肩書きにある種呪われることになってしまったオッペンハイマーの心中をこう察している。「人々を救うために人々を殺さなければいけない。この場合、何人かを殺すというわけではありません。もっと多くの人間を救うために20万人を殺すのです。誰もそのような立ち位置にはなりたくないでしょう」。
映画『オッペンハイマー』は公開中。
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Source:Time