『オッペンハイマー』アインシュタインを演じたのは重鎮トム・コンティ ─ 本当は口ひげが嫌だった ─ 『戦場のメリークリスマス』ジョン・ロレンス役など

理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた、クリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』。この映画で、キリアン・マーフィー演じるオッペンハイマーと深い関係にある人物として登場するのが、かの相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタインである。
1879年生まれのアインシュタインは、特殊相対性理論や一般相対性理論のほか、1921年には光量子仮説を発表してノーベル物理学賞を受賞。“20世紀最高の物理学者”と呼ばれた。もっとも、原子爆弾の開発を目的とするマンハッタン計画には参加を求められず、広島・長崎への原子爆弾投下後は反核の姿勢を強く打ち出した人物だ。
『オッペンハイマー』でアインシュタイン役を演じたのはトム・コンティ。大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(1983)でジョン・ロレンス役を演じたほか、ノーラン作品では『ダークナイト ライジング』(2012)に出演。ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)が、地下深い牢獄から脱出するのを手助けする老囚人の役だった。
メイキング本『Unleashing Oppenheimer(原題)』で、キャスティング・ディレクターのジョン・パプシデラは、アインシュタインを「重要な、基準になる役どころ」と表現する。コンティの起用を思いついた張本人だというノーランは、起用の意図をこう語った。
「彼は本当に素晴らしい俳優で、後年のアインシュタインにとてもよく似ています。俳優としてのトムと昔のアインシュタインには、叔父さんのような愛想の良さという共通点もあると思う。彼はすべてを理解していながら、その物腰はポジティブで人を安心させるのです。それはオッペンハイマーにない一面だと思います」
オッペンハイマーは1947年にプリンストン高等研究所の所長に任命され、アインシュタインとの仲を深めていった。同研究所内での2ショット写真もあるほどだ。

ノーランとプロデューサーのエマ・トーマスからアインシュタイン役の打診を受けたコンティは、髪と口ひげを自ら伸ばし、ノーランに写真を送っていたという。もっとも、コンティ自身はアインシュタインの見た目をあまり気に入っていなかったようで、「長髪も口ひげも大嫌いですよ。スープは飲めないし、スパゲッティも食べられない。ひげ面では人生が台無しだ」と話している。
もっともプリンストンでのロケ撮影で、コンティは巨大な眉毛をつけ、白髪を縮れさせてアインシュタイン本人になりきった。さらに役づくりのため、本人の映像を見ながらドイツ訛りを習得。オッペンハイマーとの関係を、彼はこのように分析している。
「彼らは戦前から特別に仲が良かったわけではありません。科学者はとてつもなく競争心が強く、しかし情報が欲しいからお互いに話をするものです。しかし、この2人はお互いを尊敬していました。ともに同等の知的レベルを有していたのです」
映画『オッペンハイマー』は公開中。
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Source: Unleashing Oppenheimer