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【ネタバレ解説】『オッペンハイマー』大統領役、実はあの大物俳優が演じている ─ ノーラン「彼以上の俳優はいない」

オッペンハイマー
© Universal Pictures. All Rights Reserved.

この記事には、映画『オッペンハイマー』のネタバレが含まれています。

オッペンハイマー
© Universal Pictures. All Rights Reserved.

トルーマン大統領役、ゲイリー・オールドマン

『オッペンハイマー』では、人類初の核実験となった「トリニティ実験」のあと、8月6日に広島への原爆投下が行われたことが描かれる。原爆の開発を目的とした「マンハッタン計画」を主導したJ・ロバート・オッペンハイマーも投下に関する詳細は知らされておらず、ハリー・S・トルーマン大統領によるラジオ演説でその事実を知ったのだ。

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広島・長崎の悲惨な被害を知ったオッペンハイマーは苦悩したが、その内面とは裏腹に、彼は戦争を終わらせた英雄として称えられてゆく。のちにトルーマン大統領に面会した際、オッペンハイマーは「私の手は血で汚れているように感じます」と発言。すると、トルーマンは怒りをあらわに「手が血で汚れているのは私のほうだ」と述べたという。側近との間では、オッペンハイマーを「泣き虫科学者(crybaby scientist)」と呼び、二度とオフィスに入れないよう命じたと伝えられているのだ。

監督・脚本のクリストファー・ノーランは、こうした史実を基にオッペンハイマーとトルーマンの面会シーンを執筆。ワンシーンだけの登場となったトルーマン役には、名優ゲイリー・オールドマンが起用された。ノーランとは『ダークナイト』3部作以来の再タッグである。

ゲイリー・オールドマン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/13925515511/

オッペンハイマーとトルーマンの面会シーンは、Apple TV+「窓際のスパイ」(2022-)を撮影中だったオールドマンが、唯一『オッペンハイマー』の現場に合流できた2022年5月4日にわずか一日で撮影された。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)で特殊メイクを駆使しながらタイトルロールを演じきったオールドマンは、本作では特別なカツラを使用してトルーマンを演じている。

メイキング本『Unleashing Oppenheimer(原題)』で、ノーランはオールドマンの起用理由をこう語っている。

「大統領や首相のように象徴的な歴史上の人物をキャスティングするのは非常に難しい。ゲイリーとは長年一緒に仕事をしてきましたが、彼以上の俳優は地球上にいません。彼ならば、理想主義的な科学者が権力の中に入り込み、今後の自らの役割を理解する瞬間の“断絶”を、短い台詞と豊かな表情で伝えられると思いました」

ノーランは、オッペンハイマーとトルーマンの面会が失敗したのは両者の思惑がすれ違ったためだと見ている。「オッペンハイマーは最高権力に接触し、彼らの行為がはらむ道徳的、倫理的な複雑さに関して自分の意見を述べようとしていた。しかし、トルーマンからすれば、“戦時中の努力に感謝する。ここからは我々が”という表面的な会談だったのでしょう」

オッペンハイマー役のキリアン・マーフィーとオールドマンの共演も、『ダークナイト ライジング』(2012)から10年ぶり。ポッドキャスト「Happy Sad Confused」に登場したオールドマンは、「キリアン・マーフィーは本当に素敵な、素晴らしい人。素晴らしいシーンになった」と回想。撮影に参加した一日は全体のクランクアップの約2週間前だったが、彼自身は「撮影がどれくらい進んでいるのか知らなかった」という。

「クリスから“一日だけ撮影に来て、この役をやってほしい”と言われたので、“いいよ”と答えたんです。(映画の)スケールを知っていたら、もう少しおじけづいていたかもしれません。部屋の中で男同士が話すだけのシーンだったから、とても親密で内面的だった。クリスが私を信頼し、うまく映画に組み込んでくれました」

ちなみにオールドマンによると、ノーランは「役者にあれこれ言うのではなく、ただ役者が自分の仕事をすることを望むタイプ」。『ダークナイト』3部作を通して、ノーランから演技にコメントが入ったのはたった1~2回だけで、しかもその内容がきわめて的確だったそうだ。「僕が世界のすべてを知っている必要はない。ただ後押しをしてもらえばいいんです。素晴らしい演出の一例だと思う」と語っている。

映画『オッペンハイマー』は公開中

Sources: Unleashing Oppenheimer, Happy Sad Confused

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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