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米アカデミー賞が「人気映画」部門を新設、早くも物議醸す ― 完全生中継の中止、放送時間短縮も

アカデミー賞
Photo by Prayitno https://www.flickr.com/photos/prayitnophotography/6883792695/

2018年8月8日(米国時間)、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー(The Academy of Motion Picture Arts and Sciences)は、高い成績を収めた人気映画を対象とする新部門を設立することを発表した。本件は米国をはじめ、早くも世界で大きな議論を呼んでいる。

そもそも「人気映画」とは?

このたび映画芸術科学アカデミーは、前述の通り、優れた成果を示した人気映画(popular film)を対象とする新部門の設立を発表。どのような映画が対象とされるのかなど、詳細は追って発表されるとみられる。しかし米国メディアや映画関係者は、今回の決定に対して非常に懐疑的だ。

まず問題とされているのは、“popular film”とはどんな映画を指すのか、という点である。米Variety「過去100年間、映画は常にポピュラーな芸術の形式だった」と記して、この区別自体に疑問を投げかける。
たとえば興行収入を基準に「人気」を測定し、それに従って賞を与えることはアカデミー賞の仕事ではないだろう。また、この新部門にノミネートされなかった映画は“popular film”ではないのだろうか? 選考基準は追って発表されることになるようだが、そもそも“popular film”とその他の映画を区別する必要があるのだろうか。

こうした議論が生まれたのには、前回開催された第90回アカデミー賞にて、おおよそオスカーとは縁遠かったギレルモ・デル・トロ監督による『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)が作品賞・監督賞・作曲賞・美術賞を獲得したことも大きいだろう。女性と半魚人の恋愛を、激しい描写をともなった演出で描いた同作は非常に高く評価され、「ようやくジャンル映画が、ギレルモの仕事がアカデミー賞に認められた」ともいわれたのである。

大きな前進を示した矢先の新部門設立は、同じ映画という形式で発表される作品に、これまでは必要としなかったはずの区別をもたらすものだ。近年、作品賞にノミネートされてきた『ラ・ラ・ランド』(2016)、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)、『トイ・ストーリー3』(2010)などはまぎれもなく「人気映画」だっただろう。さらに以前、作品賞を獲得した『タイタニック』(1997)、『グラディエーター』(2000)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)もそうだったはずだ。

スチュアート・オールダム氏(Variety)
「つまり…『ブラックパンサー』や『ミッション:インポッシブル』みたいな映画は作品賞を争えなくなるってこと?」

『ブラックパンサー』とアカデミー賞

現在、米国の映画関係者やメディア関係者、映画ファンの間では、設立される「人気映画」部門が『ブラックパンサー』(2018)のために用意されたものではないかとの疑念が生じている。米国興行収入で歴代第3位に収まるほどの社会現象となった本作は、主な出演者を黒人俳優で固め、現在の社会情勢を視野に収めた強いテーマ性をもち、批評家からも大きな支持を得た。これまでアカデミー賞の主要部門から無視されてきたヒーロー映画として、初めて作品賞を狙えるとの声も大きい作品だ。

なぜ『ブラックパンサー』がこれほどの現象となっている今、このタイミングで新部門の設立が発表されたのか。アカデミー賞がヒーロー映画やジャンル映画を無視しないのは良い傾向だが、それは従来通りの構造の中で行われるべきではなかったか。
業界関係者やファンの間では、「アカデミーは『ブラックパンサー』を無視こそしないものの、人気映画として扱うことで他部門への影響を減らそうとしている」「アカデミー賞は『ブラックパンサー』に作品賞を与えたくないのでは」との声が上がっているのである。

デヴィッド・シムズ氏(The Atlantic)
「“作品賞にノミネートしないのは心配な作品のための『ブラックパンサー』記念賞”。」

ブラックパンサー
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ
誤解を招かぬように明らかにしておきたいのは、現状、この「人気映画」部門の詳細は明らかになっていないということだ。「人気映画」部門にノミネートされた作品が、作品賞にも同時にノミネートされうるかどうかはまだわからない

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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