【宇宙はあまりにも広く、人生はあまりにも短い。だけど僕らにゃ「愛」がある】恋愛映画『パッセンジャー』擁護レビュー
つい先日、アメリカの航空宇宙局(NASA)が、地球から39光年(12パーセク)離れたところに、太陽によく似た若い恒星があり、その周りに7つの惑星を発見したと発表しました。しかも7つの惑星のうち3つが、水や生命の存在することができる「ハビタブルゾーン」にある可能性があるとアナウンスしています。39光年という距離は、天文学的には「かなり地球に近い」部類に入り、将来的な人類の移住先としても、また交信可能なほど発達した文明が存在する可能性においても、今回の発見は、かつてないほど希望の持てる発見なんだそうです。
ところで、39光年って宇宙船で実際に移動するのにどのくらいかかるかご存知ですか? これがですね、人類が宇宙へ飛ばした人工物のうち、現在一番遠くまで航行しているのが1977年に打ち上げられたボイジャー1号、その航行速度である時速6万kmで換算すると78万年くらいになります。いやあ……結構遠いなあ。78万年前っていうと、ネアンデルタール人が誕生したのが35万年前って話ですから、それよりも約40万年前に出発して現在到着する感じですか。ちょっと生きていられない長さですよね。NASAには早いとこワープを実用化して頂くしかなさそうです。
さて、最初から話が大幅にそれましたが、本作『パッセンジャー』は、そう遠くない未来の話。植民惑星「ホームステッドⅡ」に移住する5,000人の旅客を載せて、地球から旅立った宇宙船アヴァロン号が舞台です。目的地までの航行時間は約120年。78万年に比べればだいぶ短いですが、人間一人が通常耐えうる期間では当然ありません。ですので乗員は一人一人に割り当てられたカプセルで、航行時間の120年を冷凍睡眠状態で過ごすことになっているのですが、なぜか二人の男女が予定よりも90年早く目覚めさせられてしまい、しかも冷凍睡眠に戻る術はありません。エンジニアのジム(クリス・プラット)と作家のオーロラ(ジェニファー・ローレンス)は、そんな絶望的な状況下で、互いを愛し合いながら、なんとか生き延びようとするのですが……。
このようにあらすじを紹介しますと、この映画、主役の二人が予定よりも早く目を覚ました理由をミステリー要素とするサスペンスなのかと思われる方も多いと思います。しかし、この謎の答えは割とアタマから提示されてしまうので、ミステリー要素は余りありません。また「広大な宇宙での孤独」と聞くと、哲学的な深いテーマを期待される向きもあると思いますが、そういった意味深長な映画でもありませんでした。そうした映画を期待して本作を鑑賞すると、いささか肩すかしを食らいますので、未見の方はご注意ください。
それでは、この『パッセンジャー』、どんな映画かと言いますと、やっぱり宇宙を舞台にした「恋愛映画」という表現が一番ピッタリくるように思います。二人の男女の奇異な出会い、ロマンス、そしてその行方が主題の映画と考えると、否定的なレビューでよく言われているようなSF設定のゆるさや、ご都合主義展開は気にならなくなります。かたや、即物的な社会に嫌気がさして、クリエーションをするために新天地を目指す技術職の青年。かたや、現状に空虚さを感じ、まだ見ぬ「何か」を求めて旅立つ裕福な女流作家。出会うはずのない二人が、ひょんなことからお近づきになり、自らにないものを互いに見出して恋に落ちる、ところが運命の悪戯が、二人の恋の邪魔をして……と、ストーリー自体は王道のラブストーリーと言えなくもないのです。
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