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【長文インタビュー】『ファントム・スレッド』アルマ役ヴィッキー・クリープス ─ 「アンダーソン監督はオープンで狂ってる」

ファントム・スレッド
© 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

── 海外映画に出演し、世界中を飛び回ることも増えたと思いますが、故郷に帰って、友達や家族と会う時間は大切ですか?

とても大事。何度かLAを訪れたんですけど、自身が育った場所からあまりに遠く離れすぎたって感じましたね。私はいつも、先祖から引き継がれた古い家に戻るんですよ。昔は農家をやっていた家で、ど田舎にあるんです。ベルギーのアンデルヌの近く、本当に何もない場所にポツンと佇んでますね。あの地域は大好き。暗い場所だけど、自分が育った場所なので大好きなんです。

今はベルリンに住んでいます。ベルリンも最高。この街は私をありのまま受け入れてくれるので、カッコつけたり、逆にカッコ悪くしたりと、変に自分以外の人間にならなくて良いんです。ただ私が好きなよう自由に過ごせますね。私がベルリンを選んだのではなく、ベルリンが私を選んだ、そう思いますね。

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ダニエル・デイ=ルイスとの共演

── 本作ではダニエル・デイ=ルイスの相手役を演じられていますが、彼と共演する経験は、想像と現実とでどう違いましたか?

想像以上に緊張したのと同時に、自分が思っていたよりリラックスしていました。最初の目標は、ダニエル・デイ=ルイスと映画を撮るということを忘れることだったんです。そうすることで、余計なことを考えないで仕事に集中できると思ったので。

でもセットに向かったら、周りのせいでそれが不可能だったんですよ。みんなが「あそこに彼がいる!」って感じでしたから。全員、彼のことをキャラクターの名前で呼んでいて、そのことに対してとても真剣でしたね。ある意味、彼よりも周りにいた人の方がもはや真剣でしたよ。なので、もちろん私も無視することはできませんでした。それに私は本作を撮影していたホテルで寝泊まりしていたんで、みんなの様子がいつでもどこでも聞こえてきたんですよ。

でも、最初のシーンを撮影したら全部大丈夫になりました。例えばレストランのシーンの、私が転んで赤くなる最初の場面を撮ったら、うまくいくって感じたんです。私たちは仕事をしているんだって実感できましたね。彼も、明らかに私と同じ感情を抱いていましたよ。それで、その後はただ3ヶ月の間、止まらず仕事を続けたんです。

── クリープスさんは、ダニエル・デイ=ルイスのように何か特定のメソッドを持っていますか?

私は特に持ってないですね。演技は”瞬間”が大切だと思うんです。”聞く”こと、そして”応える”ことが大事なんですよ。何でもないことのように聞こえるかもしれませんが、それが全てですね。

相手を本当に”聞く”ためには、エゴから完璧に解放されないといけないんです。拒否するのはダメ。「どう見える?私は誰?私は興味深い人?それともつまらない?」といった考えから自分を切り離して、その場所、この瞬間にいることを認識する。そして、本当に”聞こう”と努力する。それが演技の全てですね。私はただ相手をよく”聞く”んです。それも人だけではなくて、テーブルや椅子など自分が対する全てに耳を傾けるんです。

この映画でも”聞く”ことを心がけました。ダニエルは準備して来ると思ったので、私は赤ちゃんのようにただ準備せず、空っぽのまま入ろうって感じでしたね。

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── アンダーソン監督はクリープスさんを起用した理由について、ある時は純真に見えるのに、別の時は人を殺すかのように見えたからだと、以前インタビューでおっしゃっていました。この表情の変化は、意識したものでしたか?

その表情は多分、コントロールできませんね。私にできるのは、あくまで表情を顔に出せるよう、自分自身を解放することですから。自分の心を開くことで、キャラクターの人格や声を受け入れて、そして外に出せるようになるんです。なので、解放するよう努めてはいますけど、分かりませんね。そういうコントロールはできないと思いますよ。そもそも自分自身はそんな表情の変化をする人じゃないですし。

『The Chambermaid Lynn(原題)』を鑑賞した際に、私のそういった能力を発見したのかな。この映画はとても特別でしたね。同作の中で、私が演じるキャラクターはその時々によって違って見えるんです。ある時は、彼女は清掃作業員で、またある時は、とても美しい女性になるんです。なので彼はその変化を見たのかもしれませんね。分かりませんけど。

Writer

Marika Hiraoka
Marika Hiraoka

THE RIVER編集部。アメリカのあちこちに住んでいました。

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