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【長文インタビュー】『ファントム・スレッド』アルマ役ヴィッキー・クリープス ─ 「アンダーソン監督はオープンで狂ってる」

ファントム・スレッド
© 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

アルマは愛のために戦っていた

── 本作は解釈が難しい作品ですが、アンダーソン監督はクリープスさんにどのように説明しましたか?

説明しなかったし、今に至るまで説明されていないですよ。観客の皆様に監督が解説しているのか分からないですけど、多分してないですよね。彼が執筆した脚本は、美しいと共に奇妙でイカれていて、そしてとにかく理解するのが難しいんです。普通の数式みたいに理解したくても、できないんですよ。

私はすぐに、彼が沢山の指示を与えたり、情報を提供したりすることはないと気づきました。ただ、彼は私を信頼したんです。それは大きなプレッシャーでしたね。ダニエルもダニエルなので、私に何も教えてくれないんですよ。彼は役に入るだけでした。彼とはセットで会いましたが、それ以外で会うことはありませんでしたね。

考えてみると、そんな状況に身を投じたことは、どんなことにも対応できる準備をしないといけないって、気づかせてくれましたね。本作では、それを実行に移しました。私の準備は、どこに進むか知らなくても、自分がどこにでも行けると信じ、心を開くことだったんです。

── アルマとレイノルズの関係性をどのように捉えましたか?

脚本を読んでいた時と撮影していた時で、考えは変わった気がしますね。最初に読んだ際、アルマはそんなに強い女性ではなかったんです。それに撮影の初期段階でも、強いとはあまり感じませんでしたね。彼女は最後にその姿を表すんですよ。アルマがどこまで強くなれるか知り、その力がどこから生まれるのか探すことは、プロセスの一つでした。

それに脚本を最初に読んだ時から、アルマがレイノルズと恋に落ちているのは知っていましたよ。彼女は彼を愛していて、彼が見えない何か、それに彼の中に存在する美しいアーティストを見ることができたんです。あと、彼女がとても強い意志や、説明のいらない強さを持っていることも分かっていましたけど、それがどこから来ていて、どのように彼の心に入り込むことができたのか。そしてあのエンディング…。あんなことを誰かができるとは想像しませんでしたね。

映画を撮影している時もどうして彼女がそういうことをするのか、あまり理解できなかったんですけど、ただ常に感情に寄り添っていたら、正しいと思えたんですよね。あの最後のキッチンでレイノルズが食べるシーンは、序盤で撮影したんです。その撮影をしている時も、私は何をしているんだかよく理解できませんでしたね。もちろんセリフは分かっていましたけど。でも、私はこのシーンは愛とセクシュアリティについてだと感じたんです。そのことについて話しをすることはなかったし、説明もありませんでした。名前もなかったですね。なのであのシーンでは、2人ともただ直感と感情に従ったんです。そうしたら、以前より理解できるようになったんです。

── 本作でアルマは愛のために戦っていると思いますか?それとも権力のためですか?

愛のためですね。私にとって大切なのは対話なんです。この映画は権力闘争の話ではありませんよ。決闘(デュエル)というよりデュエットなんですよ。もちろん、どんな優れたデュエットも決闘ですけどね!見事なダンスは、どれも2人の強い人物が戦っているようなものなんです。時に一人がリズムをつかむけど、もう一人はダメで、そこからどうやって足並みをあわせるか。そういうところが人間関係において興味深いと思いますし、彼らの関係性もデュエットと同じですね。

── ちなみに、レイノルズ・ウッドコックのような人物と恋に落ちることはできますか?

無理です。そこが一番取り組まないといけないところだったかな。私は常に彼の中に存在する美しさや、背後に潜むアーティストを見ないといけませんでした。俳優は、部屋や家具、その人の全て、一緒に仕事をする人物の顔色(カラー)など全てを吸収しないといけないんです。そしてレイノルズ・ウッドコックを愛するためには、彼の周りも全て愛さなければなりませんでした。なので、私は完全に彼が選ぶ壁紙やガラス製品、生地、そしてアトリエなど、全ての魅力の虜になったんです。私はレイノルズが来るとき、家や彼の周りの人々、そしてドレスといった全てを見ていました。私は全部と恋に落ちたんです。”全て”は自分が好きなだけ手に入れられて、プールのように終わりがないので、良かったですね。私自身は彼と恋に落ちませんし、そもそも壁紙を好きにはなりません(笑)。

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Writer

Marika Hiraoka
Marika Hiraoka

THE RIVER編集部。アメリカのあちこちに住んでいました。

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