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『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』ジャックのコンパスの謎に迫る ─ ティア・ダルマから貰っていたはず?

Prod DB © Walt Disney Pictures 写真:ゼータ イメージ

先日、読者の方からTHE RIVER編集部へこんなお便りが届きました。

【注意】

この記事には、映画『パイレーツ・オブ・カビリアン / 最後の海賊』のネタバレが含まれています。

「先日『パイレーツ・オブ・カリビアン / 最後の海賊』を観に行ったのですが、キャプテン・ジャック・スパロウ誕生のシーンで船長がジャックにコンパスを託していましたが、そもそもこのコンパスは”ティア・ダルマから貰っていた”ことになっていたはず。この矛盾を調べてできればこうなった経緯を知りたいので、どうか記事にして欲しいです。」

現在(2017年7月)大ヒット公開中の映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』。大人気フランチャイズの5作目の今作は、これまでの4作の設定を踏襲しつつも、主役級にヘンリー・ターナー(ブレントン・スウェイツ)やカリーナ・スミス(カヤ・スコデラリオ)といった新しい顔ぶれを投入し、シリーズを重ねるごとに「複雑になり過ぎた」との批判もあった物語の原点回帰を図っています。それを象徴するのが、懸案のキャプテン・ジャック・スパロウ誕生シーン」です。

大航海時代、「海の処刑人」として数々の海賊を誅殺してきたスペイン海軍将校アルマンド・サラザール(ハビエル・バルデム)と彼の旗艦サイレント・メアリー号。海賊の天敵として恐れられた彼らはついに、若き日のジャック・スパロウが乗り組んでいたウィックド・ウェンチ号(のちにブラック・パール号となる船)をその射程に捕えます。サイレント・メアリーの攻撃を受けて絶体絶命のウィックド・ウェンチ号。船長ウェンチは致命傷を負い、コンパスと指揮をジャックに託して死んでしまいます。ジャック・スパロウがコンパスを持つと針は魔の海域を指し示し、ジャックは船を巧みに操って追いすがる敵の船をそちらへ誘導。目標地点直前で急回頭したウィックド・ウェンチ号についていけなかったサイレント・メアリー号は、魔の海域に突っ込み暗礁で船底に穴を開けられて木っ端みじんに。サラザールとその麾下は全員絶命、呪われた存在になってしまいます。宿敵を見事に討ち果たし、尊敬を集めた若きジャック・スパロウはめでたく船長に就任します。

若き日のジャック・スパロウを演じた若手俳優アンソニー・デ・ラ・トーレのハマりっぷりも相まって(最初CGにしか思えませんでした)、シリーズを一応全て鑑賞済みの筆者も「若い頃のジャックにこんなことが…魔法のコンパスも前船長の遺志という形で手に入れたのか、なるほどなるほど。」しんみりしながら頷きそうになってしまいましたが、ちょっと待てと。なんか前の方の作品で、このコンパスをジャック・スパロウが入手した経緯がばっちり言及されていた気がするぞと。そう、シリーズ第二作目『デッドマンズ・チェスト』(2006)でティア・ダルマ(ナオミ・ハリス)が、はっきりとジャックのコンパスについて「私から手に入れた」と言っているんですね。後の『ワールドエンド』で、預言者ティア・ダルマは海の女神カリプソの化身だったということが判明します。そうすると、前段の亡きウェンチ船長との遣り取りは何だったのか、これって矛盾じゃない?というのが疑問として残るわけです。

ジャック・スパロウの「北を指さないコンパス」は、シリーズを通して作品世界を象徴してきた最重要アイテムです。「持つ者が欲する物」を指すこの魔法のコンパスは、時には宝物を、時には愛する人間の居場所を指し示し、シリーズのストーリーラインを引っ張ってきました。最新作で、これまで説明されてきたこととは違うように見える入手経緯が描かれてしまったこのコンパス。制作側からもこの件に関しての公式の説明はまだありません。ということで「脚本家が前設定忘れただけじゃないですかね?」という言葉をグッと我慢して、なんとか辻褄が合うように説明してみたいと思います。

【説1】あれとこれは違うコンパス説

この説は読んで字のごとく、ウェンチ船長から貰ったコンパスと、所謂ジャック・スパロウのコンパスは見た目がそっくりなだけで別物であるという説です。なんかファンから石を投げられそうな気がして怖いのですが、そう考えると色々辻褄が合う部分もあるのでどうか冷静にお読みください。

まず、例えばの話として、二つのコンパスが別物であるならば、シリーズ前作までのティア・ダルマから貰ったという点はクリアになります。次に『最後の海賊』ではジャックがコンパスを手放すことにより、サラザールが魔の海域に縛られている呪いが解けるのですが、お気づきのようにジャックがウェンチ船長からコンパスを入手したのは「サラザールが死ぬ前」です。サラザールが囚われている呪いとコンパスの所有者、因果関係があるように見えない問題もこれでどうにかなります。

いや、おかしいよと。ウェンチ船長はジャックにコンパスを渡すときに「決してコンパスを裏切るな」(シリーズ通してコンパスを裏切ると最大の恐怖がジャックを襲うという設定です)って言っていたし、そのコンパスはちゃんと所有者(ジャック)の願望、「サラザールを倒す手段」を示したじゃないか、そう仰りたいのは判ります。その二つの点に関して順番に説明させて頂きますと、まずジャックたちが活躍した大航海時代、船乗りたちにとって航海道具はとても貴重なものでした。中でも進路を決定するコンパスは、一度狂えば乗組員全員の生死に直結するため、精度の高いモノは希少価値が高かったと想像できます。船の進路を決める=乗組員の生死を握る、良いコンパスは船長職の象徴であり、代々受け継ぐものだったのかもしれません。このコンパスを信じろ、仲間を任せるぞ、という意味でウェンチ船長は「裏切るな」という言葉を遺したのではないでしょうか。

そして、ウェンチ船長が遺したコンパスが「魔法のコンパス」っぽいことをした件ですが、これはですね、コンパスが示したのは「魔の海域」と呼ばれるバミューダ・トライアングル。現代でもこの海域で何隻もの船や飛行機が行方不明になっているという噂の伝説の海域ですが、ここが魔の海域と呼ばれている理由の一つに「磁気異常」が発生しているという説があります。北の方角にあるわけでもないのに、特徴的な岩の切り立つ海域を示すコンパスを見たジャックは、「魔の海域」の噂を思い出し、サラザールを討つ博打をしたのではないでしょうか。

【説2】神々の視点説

前述しましたが、不思議な力があるジャック・スパロウのコンパスは、海の女神カリプソの持ち物でした。三作目『ワールドエンド』(2007)を御覧の方ならお分かりのように、その力は強大。海の支配者と形容されるに相応しい神様です。

そして、ジャック・スパロウ、彼もまた多くを語らない不思議な存在で、特に二作目『デッドマンズ・チェスト』のラストでクラーケンという巨大生物に飲み込まれたにも関わらず、三作目『ワールドエンド』ではどうやってかしれっとクラーケンのお腹から脱出した状態で登場したりします。何度殺されそうになっても驚異的な幸運で窮地を脱出します。ティア・ダルマはともかく、ジャックも「普通の人間」と呼ぶにはかなり抵抗感があります。一人だけ全然歳をとっていないように見えるのも不思議です。まだ明らかにされていませんがギリシア神話に多数存在する「酒の神様」とか「船乗りの神様」とかが人間ジャック・スパロウの姿になって、気ままに暮らしているという設定があるのかもしれません。
神様的な存在であるならば、ティア・ダルマが普通の人間(ウェンチ船長)の運命をちょろっとコントロールして、海を愛する半神ジャックの手元に自らのコンパスが渡るようにした、という意味で「私から手に入れた」と言い、ジャックも異議を唱えなかった、という説はいかがでしょうか。(苦しい)

さんざん頭を振り絞ってみたものの、我ながら非常に出来の悪い二つの説をひねり出すのが精いっぱいです。せっかくご要望頂いたのにお目汚しをして申し訳ありません。言い訳じゃないですが『最後の海賊』に登場するこれまでのシリーズとの矛盾点は、コンパスのことだけでなく、「呪いを解くのが目的の話がこれまでにもあったのにポセイドンの槍は初耳」とか「21歳の子供がいるって、エリザベス(キーラ・ナイトレイ/32歳)は何歳設定なの?」とか「バルボッサってついこないだまで死んでた気がするんだけど、いつ子供作ったの?」とか「ウィルの呪いを解いてしまったら、ジョーンズに刺された傷が復活して死んでしまうのでは?」など枚挙に暇がございません。

よってですね、助言というとおこがましいですが、洋画ファンの同志として言えることは『トランスフォーマー』そして『パイレーツ・オブ・カリビアン』、この二大人気フランチャイズを見るときは、決して深く考えてはいけません。ただ、目の前のスペクタクルを素直な心で楽しむ、それが唯一にして絶対の鑑賞のコツではないでしょうか。

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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