日米レンジャーの違いとは?映画『パワーレンジャー』プロデューサー、Web独占インタビュー!
日本のスーパー戦隊シリーズを原案としたアメリカの人気TVシリーズを、ハリウッドが総製作費120億円の圧倒的スケールで描いた、日米ハイブリッド超大作『パワーレンジャー』。
2017年7月15日(土)の全国公開に先駆け、THE RIVERでは来日を果たしていた同作プロデューサーのブライアン・カセンティーニ氏への単独インタビューに成功した。
ブライアン氏は今回の映画版のみならず、本国で放送されているTVシリーズについても2011年の『パワーレンジャー SAMURAI』からプロデュースを手がけている。同氏へのWebメディアによるインタビューは、なんとTHE RIVERが日本唯一。今作の魅力についてはもちろん、日本のスーパー戦隊シリーズと今作の違いなどをたっぷり語り合ってきた。このページでしか読めない、超貴重な独占インタビューをたっぷりお楽しみいただきたい。

──まずは、今作『パワーレンジャー』について、日本の皆さんにご紹介いただけますか?
スーパー戦隊シリーズの『恐竜戦隊ジュウレンジャー』をベースとしたパワーレンジャーが始まってから、2018年で25周年を迎えます。
私たちは、1993年のシリーズ第一作『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』を観て育った観客が大人になるタイミングをずっと待っていたんですよ。かつて観ていたものよりももっと成熟させたものをお出しするためにね。キャラクター主体のスーパーヒーロー映画にすることにより、パワーレンジャーをもっと大きなテーマの作品として拡張しました。
──日本のスーパー戦隊がアメリカでパワーレンジャーとして大人気であることを今まで知らなかった、という日本の方も多いです。アメリカではどうなのでしょうか?パワーレンジャーが日本由来ということを、彼らは知っているのですか?
たくさんの人が知っていますよ。全員知っている、というわけではありませんが。
パワーレンジャー関連のWebサイトもたくさんあって、ハードコアなファンたちはスーパー戦隊の次のシリーズがパワーレンジャーとして輸入されるのを待ちきれず、先行して日本のスーパー戦隊を観て、あれこれ語り合っているんです。だから彼らはスーパー戦隊についても詳しかったりするんですよ。そういったファンに若い子は少なく、比較的年期の入った方たちが多いですね。
──僕も子供の頃、パワーレンジャーをVHSで観ていた記憶があります。あれは『パワーレンジャー:ライトスピード・レスキュー』(2000)だったかな。
その頃は、シーズンごとにオリジナル・テーマソングがあったんですよね。2010年にサバン・ブランドが権利を買い戻してからは、”♪ゴー・ゴー・パワーレンジャー”のテーマソングを起用しています。
スーパー戦隊とパワーレンジャー、何が違う?

──スーパー戦隊とパワーレンジャーの大きな違いって何でしょうか?
いい質問ですね。スーパー戦隊は楽しく、時にコミカル。パワーレンジャーでは人生の葛藤といったドラマ部分に重きを置いています。パワーレンジャーにもコメディ的なサイドキックがいて、体を張った笑いの要素も持ってはいるものの、スーパー戦隊ほどコメディを追求していません。
──今回の映画もシリアス路線ですね。
そうなんですよ。ビリー・クランストン(ブルー・レンジャー)を通じてユーモア要素を取り入れていますが、成熟したシリアス路線を意図していることは間違いありません。TVシリーズには”バルク&スカル”というコメディ・コンビがいるのですが、今回の映画には登場させませんでした。

──スーパー戦隊では、いつもアームバンドなどのガジェットを使って”変身”するわけですが、今回のパワーレンジャーの作中ではそういった変身アイテムは登場しませんよね。
映画ではパワー・コインを取り込んで、スーツに変身するのですが、明確にどう変身しているかは描いていません。ジェイソン・スコット(レッド・レンジャー)は”イッツ・モーフィン・タイム!”というお決まりのコールを叫びますが、変身ポーズは取りませんね。これは、よりシリアスなドラマにするためのアプローチなんです。監督の意図としては、彼らは変身にたどり着くまで努力を重ねてようやく力を開放する術を見つけ、チームとしてひとつになるのだから、シリアスで威厳あるシーンにしたかったのです。だから、「(弾けた口調で)イッツ・モォフィン・タァーイム!」とするよりは、「(落ち着いた口調で)イッツ・モーフィン・タイム」としたんです。
──変身にたどり着くまでの努力は本当に丁寧に描かれていましたね。
そうですね。オリジナルTVシリーズでは、キャラクターたちのメンターとなるゾードンがアルファ・5にヤル気のある5人を集めるように頼むんです。で、「君は賢いからね」「君は強いからね」「よし君たちは今日からパワーレンジャーだ!」となるわけですが、これだけでは映画としてキャラクターの成長を描けませんよね。
だから今作では、5人のティーン・エイジャーがそれぞれに異なる問題を抱えていて、観客が誰か1人に共感できるような作りにしました。何らかの理由でトラブルに直面するのですが、それを乗り越えて正しい道を見つけていく。自分本位な考えを捨て、真の絆で結ばれていく。彼らにも何人か友達はいましたが、本当の友達と呼べるものではありませんでした。私は、パワーレンジャーになることとは、真の友情とは何かを学ぶことなのだと思います。
『パワーレンジャー』では「友と一緒にスーパーヒーローになる」ということが描かれています。個々としてではなく、チームワークによってのみ、そのパワーを解放できる。5人で団結して戦わないと、敵を倒せないのです。
「友と一緒にスーパーヒーローになる」

──「友と一緒にスーパーヒーローになる」というメッセージは凄く良いですね!マーベルやDCのスーパーヒーロー作品にはあまり見られないかと思います。あちらは一人ひとりのスーパーヒーローが際立っていますからね。
そうですね。マーベルやDCといったスーパーヒーロー映画も大好きですが、やはり『パワーレンジャー』では違いを出そうと思いました。地に足がついた感じというか、リアリティを出したかったのです。だから彼らは億万長者ではなく、共感できる一般人なんですよね。舞台もニューヨークのような大都市ではなく、アメリカの小さな街にして、あくまでもキャラクター主体のストーリーにしました。
私たちにとって挑戦だったのは、一本の映画の中で5人のキャラクターをしっかり紹介して、共感させるということです。だから彼らが変身して、ビジュアル・エフェクト満載のビッグ・バトルのシーンになるころにはすっかり感情移入している。彼らが街や家族、友人を守っている、というのが堪らないんです。彼らは自分本位さを完全に取り払い、互いを知り、愛し、友のためなら命も捧げられるという強いチームになっていくんです。
みな、学校にいる時も家にいる時も、見えないマスクを被って暮らしているのではないでしょうか。そのマスクを外して自分の本当の姿を晒してこそ、はじめてパワーレンジャーのマスクを付けられるようになるんです。

──5人でひとつの物語、というわけですね。
その通り!「友と一緒にスーパーヒーローになる」ということと、チームワークの力が主題です。スーパー戦隊とパワーレンジャーのTVシリーズも、はじめからそうでしたよね。クールですよねぇ、この映画を制作できて本当に光栄に思いますよ!(笑)
──スーパー戦隊シリーズの特徴として、敵が巨大化し、レンジャー側も巨大ロボットに乗って戦うというものがあります。日本ではウルトラマンを始め、こうした巨大なヒーローたちの戦いが描かれるのですが、アメリカ人から見てこういった描写はどうなのでしょうか?
こちらも興味深いですよね。ジャイアント・メカ・ロボットがジャイアント・カイジュウ・モンスターと、小さな街の中で戦うというね。ここで肝なのが、明るい日光の中で戦うというところなんですよ。
多くの映画はCGで細かいところを隠しながら、戦闘シーンを夜に持ってくる。でも日中の戦闘では全てが晒され、だからこそリアルに感じる。ここも今作のポイントだと思いますね。
パワーレンジャーは、「友と一緒にスーパーヒーローになる」物語であり、巨大なメカ・ロボットに乗り込むという要素も兼ねています。5人のそれぞれのゾードを合体させ、巨大ロボットのメガゾードが立ち上がる。これは文字通り今作のコンセプトを擬人化しているのです。つまり、チームワークとコンビネーションによって5人はひとつになる。それこそがメガゾードなのです。今作のメガゾードは最新のTVシリーズと異なり、5人がそれぞれ独立したコクピットに乗り込み、それぞれのパーツを操縦するという設計にしました。チームワークの重要性を強調するためです。彼らは、協力しあって初めてカイジュウ・モンスターとのバトルに挑めるというわけです。
「今日から君はパワーレンジャーだ!」
──音楽の使い方も良かったです。トリニーがポスト・ハードコアを聴いているところもリアルで。音楽にはどのようにアプローチを?
音楽にはこだわりましたね。ディーン・イズラライト監督は、それぞれのキャラクターに異なった個性を持たせようとしました。トリニーはヨガをしながらハードコアを聴いている(笑)、それだけで彼女の多くを物語っています。
──カニエ・ウエストのテーマソング”Power”はどのように決まったのですか?
映画にピッタリだと思いました。アクションを彷彿させるし、”パワー”というテーマもパワーレンジャーに合っていますしね。

──今作はティーン・エイジャーの映画でしょうか。
ティーン・エイジャーたちがスーパーヒーローになるという点ではその通りなのですが、今作は全世代に訴えかける映画です。誰だって”元”ティーン・エイジャーでしょう?(笑)つまり、誰もがティーン・エイジャーとしての経験を持っているからこそ、誰にでもアピールできる作品になっていると思います。
──その通りですね。でも、映画の中で”大人”の存在はあまり登場しません。
はい。10代の目線から世界が描かれているからですね。そこが他の作品と違うところです。
──だからこそ、5人の少年少女に集中することができました。
その通りです!
──僕は、ある日突然「今日から君はパワーレンジャーだ!」と告げられるという不条理さが好きなんです(笑)。もし自分だったら「は?何言ってるの?」ってなりそう(笑)。
ですよね!(笑)普通「はぁ?」ってなりますよね(笑)。映画ですと更に壁が動いて喋るわけですからね。だから、そういうシチュエーションにおいてリアルなリアクションとは何かについても考えました。子供にもわかりやすいシンプルさも残しつつ、全世代が納得できて楽しめるものにしたかったんです。
スーパーヒーロー映画はド派手なアクションが売りですが、今作は派手なアクションも見られるキャラクター主体のドラマという感じ。みなさんが普段観ているヒーロー作品より、ドラマがしっかりしているんですよ。

──日本では20歳になると成人式というものを迎えて、それを済ませるともう大人とみなされるんですよ。「成人式も済んだから、今日から君は大人だ」みたいな。それって、「今日から君はパワーレンジャーだ」っていう感覚に似ていると思うんですよね。
なるほど、面白いですね!アメリカでは18歳になると法的には大人としてみなされます。でも、そういったセレモニーはありません。あぁ、それは気づかなかったなぁ!新しいことを知れて嬉しいな。
──だから「今日から君はパワーレンジャー」を否応なしに受け入れなくてはいけない感覚もわからなくもないんです。「オッケー、地球を救うのね」みたいな(笑)。
そうですね(笑)。でも彼らが本当にそれを理解して信じるには少し時間がかかるわけですよね。今作でもそういった原作の設定を下敷きにしていることを明示しながら、5人のティーン・エイジャーにより没入できるように独自のキャラクター像を創り上げました。
彼らのメンターとなるゾードンについては、原作のTVシリーズよりも深みを持たせました。それこそ、ゾードンのリアクションはリアルでしたよ。彼は地球や宇宙の平和、そしてもう二度とチームを失いたくないと願っている。一日の終わりにゾードンは「彼らはやってくれるだろうか、私は彼らを信じ抜けるだろうか」と自問するのです。この先はネタバレになるので言えませんが…、非常にパワフルなシーンが待っているわけです。

このインタビュー前日、東京でかなり美味しいお寿司を食べたとご機嫌のブライアン氏へのインタビューでは、何度も笑いに包まれながら、今作に込めた熱い思いを聞き出すことができた。何よりも「今作を誇りに思うよ!」と語った笑顔が印象的であった。
ブライアン氏が強調するように、映画『パワーレンジャー』は全世代にアピールできるドラマ性の強い作品だ。フィジカル・アクションと巨大ロボット、メガゾードのメカ・アクションだけでなく、5人のティーン・エイジャーの葛藤と成長も色濃く描かれる。日本が産んだ世界に誇るスーパーヒーロー・チームが、アメリカでどのような”変身”を遂げたか、是非この夏劇場で見届けて欲しい。
映画『パワーレンジャー』は2017年7月15日(土)ついに日本上陸!
(取材、撮影、文、編集:Naoto Nakatani)
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