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【解説】なぜ『パワーレンジャー』は「変身までが長い」のか?

(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

7月15日、日本の「スーパー戦隊」をアメリカ版に再構成した人気ドラマシリーズ『パワーレンジャー』の映画(リブート版)が劇場公開されました。アメコミヒーロー映画が映画界を席巻する中、ハリウッドの映画技法や最新技術で再構成された「スーパー戦隊」はいったいどんなものになっているのでしょうか。

私の感想はまず置いておくとして、たくさんの映画サイトやツイッターで感想を漁っていくうちに、賛否関係なくよく見かける感想がありました。それは「変身までが長すぎる」というものです。そうなんです。『パワーレンジャー』は2時間近くある上映時間のうち、その半分の1時間を過ぎるころまで全く「変身」しないのです。これはヒーロー映画として、本作いちばんの特徴であると断言していいでしょう。
では「変身までが長すぎる」ことは『パワーレンジャー』の欠点なのか?と言えば、そうでないと思います。そこには作品上の必然性があるはずです。この記事はそんな多くの人が本作に抱く想いに対し、ひとつの考察を提示してみようという試みです。以下、内容に関してネタバレを含みます。ご注意ください。

【注意】

この記事には、映画『パワーレンジャー』のネタバレが含まれています。

(c)2016 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

一点集中型のストーリー

まず、「変身までが長すぎる」という声が多かった理由を、他のヒーロー映画との比較から考えてみましょう。

最近、ハリウッドのビッグバジェット映画は製作費が極端に高騰していると言われています。基本的にスタジオ側は「たくさん投資してたくさん回収する」という姿勢です。ヒーロー映画も例外ではありません。特に最近は「マーベル」や「DC」がブランドとして定着してきたこともあり、大ヒットを見込み、莫大な資金をつぎ込んでひとつの映画が作られます。一種のインフレ状態ですが、その結果、当然のように映画の規模も大きくなり、見せ場もたくさん用意されることになります。たとえば『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)では、冒頭の「アベンジャーズ対クロスボーンズ戦」、中盤の「空港決戦」、終盤の「キャプテンアメリカ対アイアンマン戦」と大きく分けて3つのヤマ場がありました。『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』も同様に複数の戦闘シーンがありましたよね。いまや観客の目も肥えてしまい、舞台を移動したバトルシーンが何度もあって当たり前という状況です。

その結果、ヒーロー映画ファンにとって「ヤマ場が少ない(バトルの舞台が移動しない)」ことは、それだけで減点という状況になってしまっているのではないでしょうか。(あくまで私の主観も込みで申し上げると)最近のヒーロー映画でファンからの評判が辛めの作品はだいたいヤマ場がひとつしかない一点集中型の作品になっています。試写会の時点でお通夜ムードだったリブート版『ファンタスティック・フォー』(2015)を始め、いつのまにか某映画雑誌も手のひらを返していた『スーサイド・スクワッド』(2016)や、一部ファンからはかなり辛めの評価をされていた『ドクター・ストレンジ』(2017)などは全てストーリーに絡んでくるバトルシーンはクライマックスに集約されています。ファンの支持を受けにくいのは、戦いを経たキャラクターの心情の変化が描きにくいのもありますが、単にヒーローの見せ場が少ないのがいちばんの理由でしょう。予算や作品の規模を考えれば仕方のないことでもあります。そこらへんを時系列の入れ替えと飛び道具的な第四の壁の破壊で上手く処理したのが『デッドプール』(2016)だったりします。

要は『パワーレンジャー』も「ヤマ場がひとつしかない」タイプの映画だったのです。プロダクションロゴが消えるが早いかヒーローが大暴れする映画に慣れてきた身からすれば、変身までの過程をひたすらじっくり描き続ける『パワーレンジャー』はヒーロー映画の常道を外しています。「変身までが長すぎる」という感想はファンから湧き上がってきておかしくないものだと言えるでしょう。

青春映画を土台にしたヒーロー映画

『パワーレンジャー』はなぜ「変身までが長い」のかという疑問を考える上で最も大事なヒントは、この映画が青春映画を土台にしたヒーロー映画だということです。

Writer

トガワ イッペー
トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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