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【屍愛好会】高貴すぎるゾンビ映画『高慢と偏見とゾンビ』レビュー

映画『高慢と偏見とゾンビ』

9月30日公開の映画『高慢と偏見とゾンビ』は18世紀、イギリスの貴族社会を舞台にしたジェイン・オースティンによる名作小説「高慢と偏見」をベースにゾンビを加えた映画と同名のパロディ小説を原作とした映画です。 もとの小説の「高慢と偏見」は産業革命後のイギリスで古くから残る階級社会と新しい時代に生き、より自由を望む女性の葛藤を描いた小説。中世の女性は早く自分の家よりも位の高い男性の家に嫁ぎ、家にこもって料理や家事だけしてればいいという価値観のなか、主人公のエリザベスは当時の女性には必要ないとされていた高い教養を身に着け、強い自立心も持っています。なので彼女は親が見つけていた相手が良家のイケメン金持ちだからといって、すぐに結婚を承諾はせず、自分の納得できることをする。といった現代の女性像を形をなすもとになっている物語です。 平たく言えば、こじらせ女子エリザベスの婚活です。豪華絢爛できらびやかな貴族社会の中での高貴な婚活。それが「高慢と偏見」です。 しかし、今回の『高慢と偏見とゾンビ』はというと…。

あらすじ

17世紀ごろからイギリスでは産業革命とともに謎の疫病が流行り、死者がよみがえり、生きる者の脳を食らうゾンビが蔓延していた。そして、その時代から女性たちは、騎士道に通じる男性たちから守ってもらうだけでなく、自分の身を守るため、東洋に留学し武術と外国語を習うことがトレンドと化していた。そんな時代を生き、美貌と武術を兼ね備えているベネット5姉妹はもう結婚適齢期なのに、まだ誰も結婚はしていない。彼女らの両親は結婚を急がせたいなか、何人かの婿さん候補が現れる。その一人のダーシー大佐(サム・ライリー)は姉妹の一人エリザベス(リリー・ジェイムズ)の美しさと彼女のゾンビを倒すしなやかな剣遣いに惹かれるが、ダーシーとエリザベスは二人とも自らの高慢さがこれらの恋路を邪魔する。そしてもっと彼らの恋路を邪魔する、邪悪な屍たちも背後から忍び寄ってきて…。

レビュー

貴族と屍、対極の出逢い

18世紀の高貴で豪華絢爛な貴族の世界と、20世紀以降に生まれたポップカルチャーのゾンビは、まさに文化として相容れるはずがない、対極の位置にあるもの同士です。しかしこの映画は、フィクションではあるが、時代背景が緻密に考えられた小説の「高慢と偏見」の世界に、大衆文化的フィクションの産物であるゾンビを、違和感なく、説明的になりすぎることなく、組み込んでいます。  また原作小説では、ダーシーはエリザベスの知性に惚れ込むのですが、「~とゾンビ」では彼女の持つカンフースキルの惹かれるという、ちょっと捻った設定の変更もされています。昨今の映画では「女性が戦う」ということ自体は全く珍しくありませんが、時代背景的に男性の騎士しか戦わないという前提がある中、この映画は高貴な美女が豪華なドレスをまといバッサバサとゾンビを切り倒してゆく様は、大変目新しく見ごたえがあります。 派手なエンタメになれてしまった現代人にはいわゆる”文学作品”である原作小説で交わされるような会話は、結構退屈だと思います。しかし、この映画では、その原作で交わされるような会話は、姉妹同士で武術や剣術のトレーニングをしている最中に交わされるので、少々退屈な会話も、目で楽しむことができるので飽きません

美しい映像と衣装

さまざまな時代劇やゾンビ映画を見ていたら、「時代劇のビジュアルってだいたいこんな感じ」とか「ゾンビ発生後の終焉的世界ってこんな感じ」というイメージがありますよね? でもそれって、普通は一緒になりえないもので、中世×ゾンビアポカリプスの世界は見y他ことないですよね。 時代劇は、一度こんな場所に訪れてみたい!と思わせるような現代にはなく少しファンタジックな世界。ゾンビアポカリプスは街から人間性が失われ、絶望が渦巻き生きるのがやっとな世界。これをいい塩梅で見せてくれます。 また登場人物のほとんどの衣装も素晴らしいです。きれいなドレスや、制服は女性も男性もキャラクターを表すのにも一役かっています。時代劇の衣装は見慣れていますが、特に女性のドレスは、そこにナイフとか仕込んでおくのか!と驚かされます。しかも、そんな豪華なドレスを血みどろにしてしまうのでホラーファンが見たいものもしっかり見せてくれます。

ユーモアもたっぷり

映画の原作がパロディ小説という時点で、コメディ要素は約束されているようなものですが、真っ向から笑いを狙ったゾンビコメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ウォーム・ボディーズ』とは違い、とてもイギリスらしいちょっと湿った賢くシニカルなユーモアがふんだんにあります。ギャグ満載のはちゃめちゃコメディよりも、シュールな状況やちょっと考えて笑えるような控えめだけどスマートなユーモアが好きな方にはドンピシャです。 そしてこの映画におけるユーモアにかなり貢献していたのは、姉妹の結婚相手候補の一人のコリンズ牧師を演じたマット・スミスです。彼のキャラクターは戦う美女たちや騎士よりも、ちょっと弱っちいビビりな男で、もし普通のゾンビ映画にいたら、とてつもなくウザい”お荷物”にもなりえるところを、なんとも気の優しい”いいヤツ”で憎めないキャラを好演していました。彼かスクリーンに映り話すだけで、緊迫した状況をやわらげてくれます。

ちょっとした問題点

退屈になりえる会話はアクション付きでつまらなくはないのですが、やはり、やや古い三角関係的な恋愛構図は、現代のエンタメ慣れしてしまっている目にはあまり響くものがありませんでした。 そして、ゾンビ映画としてはちょっとゾンビ要素が足りません。特に中盤はゾンビというより人間模様に多くウェイトを置いているので、ゾンビを期待しすぎると肩透かしを食らいます。 また、クラシックな純文学をもとにした映画なので、若干先が読めてしまい、王道といえば王道ですが、起承転結の「転」はツイストがほとんどないです。

まとめ

少し粗探しは出来てしまいますが、おおむね楽しめる作品で、そして、只今のハロウィンの季節には持って来いで十分おすすめできる作品です。またゾンビ映画ではありますが、年齢制限はないので、特段怖いということもグロテスクということも多くはないので、誰とでも楽しめると思います。美女美男が華やかにゾンビをなぎ倒すシーンはこれだけで映画に行く理由にもなりますゾンビ好き、ホラー好き、変わったロマコメが好きな方は、ぜひ劇場に足を運んで『高慢と偏見とゾンビ』をご覧ください

https://theriver.jp/pride-and-prejud…zombies-review-2/

Writer

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Nao C.V.Nao Goto

パンクロックと映画が好きです。ストレートエッジになりたいのに、ストーナーフィルムに憧れています。ヴィーガンです。スタンドアップコメディアンもやってます。