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【インタビュー】『ロケットマン』デクスター・フレッチャー監督は、エルトン・ジョンの物語をなぜミュージカルに仕上げたのか

デクスター・フレッチャー
© THE RIVER

エルトン・ジョン 名曲との融合

── エルトン・ジョンの楽曲の歌詞そのものがストーリーに織り込まれているのが素晴らしかったです。特に僕のお気に入りは「黄昏のレンガ路(Goodbye Yellow Brick Road)」のシーン。おそらく、優れたミュージカル映画とは、音楽が物語を語る映画なのではないでしょうか。

正にその通り。エルトンの曲を聴いた時、同じことを思いましたよ。楽曲と歌詞が、既に素晴らしいストーリーテラーなんです。これを使わない手はありません。だって、エルトン・ジョンの映画を観に行ったらエルトン・ジョンの曲が聴けると思うじゃないですか。でも我々の場合は、ただ曲を使うのではなく、音楽が物語を語るようにしようと。

曲が生まれる瞬間にもドラマを持たせました。例えば「僕の歌は君の歌(Your Song)」は、彼の母親の家のリビングで生まれました。お金がなくて、住む場所がなかったからですね。2人の人間が、この世界でどう生きていこうかと、そんなことを歌っている曲です。「もしも君と一緒に住めるような 大きな家が買えたなら」って。どういう状況で生まれた曲か、想像できますよね。幸せな状況で書かれた曲ではないんだな、って。

楽曲「ロケットマン(Rocketman)」も、世界から孤立した男の歌です。だから観客には、楽曲にまつわるエモーショナルな部分も示す必要がありました。ただ「僕は寂しい」と言うだけではなく、曲があることでもっとパワフルになります。

── エルトン・ジョン本人もプロデューサーとして携わっていますし、現場にもいらっしゃいましたよね。本人から、何かこうして欲しいという要求はあったんですか?

「良いものを作れ!」と。冗談です(笑)。

いやいや、特にありませんでしたよ。彼はいつも寛大でオープンで、理解的でした。現場には彼の夫であるデヴィッドさんや、プロデューサーも来ていました。製作には深く携わっていましたが、「これはダメ」みたいな要求は一切ありませんでしたよ。本当にオープンで、自分を偽ろうとしないという長所の持ち主です。だからこそ世界中のコミュニティ、たとえばゲイコミュニティに多大な影響を与えているんですね。

ロケットマン
©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

── エルトンはタロンに、「私の真似はするなよ」と言ったそうです。

エルトンの曲が聴きたいだけなら、SpotifyやiTunesでダウンロードすればいいだけの話ですからね。でも映画では、全く別の体験を作らなければいけません。ただタロンがエルトンの物真似をしているだけではいけない。だからタロンは自分のやり方で、自分で歌を歌って、自分で物語を伝えているんです。

── 映画が完成した時は、エルトンと一緒に観たんですか?

はい。あれはカンヌ国際映画祭でした。

ロケットマン
©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

── エルトンはどんな反応でしたか?

泣いていましたよ。嬉しかった。かなり緊張しましたね。本編が仕上がったのが金曜日で、次の木曜日にはカンヌ国際映画祭でお披露目でした。だから、考える時間もなくて。

エルトンは、映画を観てとても誇らしくしていました。もちろん製作の最初からサポートして頂いていたので、一部の映像は前から観ていたんですけど、全編を観るのはカンヌまで待ちたいということで。カンヌではエルトンとタロンと、ジャイルス・マーティン(音楽プロデューサー)にバーニーの奥さん……重要人物が集っていました。それでみんなで映画を観て、終わった後はスタンディングオベーションでした。素晴らしい瞬間でした。恵まれていたと思います。

── ミュージカル映画なので、登場人物は誰もが歌を歌うことができます。その中でエルトンの歌手としての苦悩を描くのは難しかったのでは?

歌を歌うのって、別にいつでもハッピーだからというわけではないでしょう。全てのミュージカルが、ラララララ〜、ハッピーハッピーハッピーってわけではない。音楽には光と影があるし、様々な形で心が突き動かされる。映画では色々なキャラクターが歌いますけど、エルトンの曲だからこそ様々なニュアンスが出せました。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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