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『レディ・プレイヤー1』OASIS開発者ハリデーはスティーブ・ジョブズか、それともウォズニアックなのか

©THE RIVER

ロビネットは誰にも内緒で”エッグ”をゲームのプログラムのなかに隠した。アタリは秘密の部屋があるとは気付かないまま《アドベンチャー》を生産し、世界各国に出荷した。イースターエッグの存在を知ったのは、リリースから数ヶ月後、世界じゅうの子供たちが次々にエッグを発見し始めてからだ。わたしはそういった子供の一人だった。ロビネットのイースターエッグを初めて見つけた瞬間。それはわたしのビデオゲーム人生で最高のクールな体験のひとつだ。

このイースターエッグについては、原作では序盤にてエッグハントの概要を説明するハリデーの遺言メッセージ内で早々に登場する。この概念は、劇中を通じて描かれたエッグハントの本質 ──小さい頃から映画、ゲーム、コミックに夢中で育ち、ポップカルチャーやユーモアを理解するものだけが得られる楽しみや発見があって、それは「遊び」を軽視してきて「会社人間」になった大人たちがお金で買えるものではないのだ、というような痛烈なメッセージ── を物語っている。同時に、ゲームを開発した自分自身の名が世に残らないことを恨んだウォーレン・ロビネットのささやかな反逆でもある。

原作のモローは、ハリデーについて「人づきあいが本当に苦手だった。自分の気持ちを表現するのが下手くそだった」と紹介する。ハリデーにとって友人と呼べる存在はモローしかいなかったが、それもキーラという名の女性を巡って仲違いを起こしてしまう。現実世界からますます孤立を深めるハリデーにとって、自身の創り上げたOASISだけが唯一の居場所だった。ハリデーが最後の試練に「アドベンチャー」を選んだのは、自分がこのOASISを創ったのだという親心が、ウォーレン・ロビネットの思いに共鳴したためであった。

ジョブズとウォズニアックの二人に戻すと、世間的に神格視されるのはどちらかと言えばジョブズの方で、お人好しのウォズニアックの偉大さは隠れがちだ。ウォズニアックは、後年にようやく自身の功績を回顧している。たとえば書籍『アップルを創った怪物―もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』(2008年、ダイアモンド社)では、ジョブズとウォズニアックで共作したとされていたApple Ⅰ・Ⅱは、実はウォズニアックが一人で作ったのだとようやく明かしているのだ。ハリデーもウォズニアックも、自分の功績を自分でひけらかすようなことはあまり得意ではない。

次の世代へ

©THE RIVER
ポップカルチャーを愛するハリデーがOASISを創ったように、スティーブ・ウォズニアックもポップカルチャーを愛する。そもそも、マーベルのスタン・リーと共に『東京コミコン』や『シリコンバレー・コミコン』を創ったのもウォズニアックその人だ。2015年、『東京コミコン』キックオフを祝う来日時、記者会見にてこのように語っている。

テクノロジーとは、ポップカルチャーそのもの。(中略)テクノロジーとポップカルチャーに関わる人々は、実は同じなのです。週末にポップカルチャーを楽しんでいる人々の多くは、平日にはプログラマーやクリエイターの仕事をしているんです。」

ウォズニアックは現在、エンジニアとしてのキャリアからは退き、新たな才能や夢を育むための教育活動を行っている。エンジニアリングやテクノロジーと、ポップカルチャーがもたらす喜びを、未来に紡いでいくべく必死だ。ハリデーも、OASISをウェイド・ワッツという次世代に引き渡した。映画『レディ・プレイヤー1』で音楽を手がけたアラン・シルヴェストリは、米Varieryのインタビューにて次のように考察する。

「ハリデーは病気を患ってから、自分の子供(=OASIS)を誰かに託すことを考えていたのではないかと思ったんです。OASISは彼の作品で、そのライフワークの頂点。でも、もう面倒を見られないから、新しい親を探すための最善の方法を作ったわけですね。そうして純粋な心を持つものを見つけることができたのです。ハリデーのように、OASISにおける善を愛する者に。

ハリデーは、OASISというゲーム世界に籠もる現実逃避が決して正しい選択ではないことを悟っていた。物語の最後、全ての鍵を手に入れたウェイドにハリデーは「真の幸福を見いだせる場所は現実の世界だけ」「現実の世界はリアルだからだ」と告げる。これは映画と原作で共通のセリフだが、原作では、やや諭すようにこう続けている。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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