アレック・ボールドウィン主演映画の銃誤射事故、発生時の状況が判明 ─ 直前にスタッフ7名離脱のトラブル、数日前には別の誤射事故も

アレック・ボールドウィンの主演映画『ラスト(原題:Rust)』の撮影現場にて小道具の銃が誤射された事故について、発生当時の状況や撮影チームをめぐる新たな情報がわかった。
2021年10月21日午後、ニューメキシコ州サンタフェの南部にある牧場「Bonanza Creek Ranch」にて、ボールドウィン氏が持っていた小道具の銃から銃弾が発射され、撮影監督のハリーナ・ハッチンス氏と、監督のジョエル・ソウザ氏の二人に当たった。ハッチンス氏はまもなく死亡が確認された。なお、ソウザ監督は病院で治療を受け、すでに退院している。
事故を受け、捜査にあたったニューメキシコ州警察はボールドウィン氏を一時取り調べたが、現在は解放。本件について逮捕者は出ておらず、また書類送検もなされていない。現時点で映画の製作は中断されており、再開の目処は立っていないとのこと。警察は現在も捜査を継続している。
事故当時の状況
米国メディアの取材によると、ボールドウィン氏が持っていた小道具の銃には実弾が入っていた。ただし、ボールドウィン氏本人はもちろん、手渡したアシスタント・ディレクターのデイヴ・ホールズ氏もその事実を認識せず、小道具は安全だと考えていたという。事故当時は直後に撮影するシーンの準備のため、ハッチンス氏やソウザ監督はカメラの付近に集まっており、ボールドウィン氏もすぐ近くでアクションの確認を行っていた。
それゆえに事故が起きた際、ハッチンス氏は至近距離から銃弾を胸部に受け、その後ろにいたソウザ監督の肩にも銃弾は当たった。ハッチンス氏が倒れたのち、周囲のスタッフは止血にあたり、すぐ隣で作業をしていたスクリプト・スーパーバイザーのメイミー・ミッチェル氏が通報したという。
実弾が入っていた銃を準備したのは、本作で銃器を担当していたハンナ・グティエレス氏。事故が起きたのは屋内のセットであり、誤射の瞬間、グティエレス氏はセットの外に出ていた。事故の後、ボールドウィン氏から銃を手渡されたグティエレス氏は、薬莢を抜き、銃とともに警察に提出したとされる。
ニューメキシコ州警察は、発砲された銃をはじめ、ボールドウィン氏が着用していた衣裳、その他の小道具の銃や弾薬などを調査するほか、事故の様子を記録した映像の有無も含め、現場となったBonanza Creek Ranchの捜索を実施するとのこと。現時点で使用された銃や銃弾の詳細は明らかになっておらず、なぜ実弾が小道具に入っていたのかも不明。発砲された銃弾は一発だったとの情報もあるが、正式な発表はなされていない。警察側の担当者は「来週の初めには新しい情報が入っていると思われる」との見解を示した。なお、ニューメキシコ州の労働安全衛生局も現場の調査にあたっている。
なお、現地の地方検事であるメアリー・カーマック=アルトウィーズ氏は、今後本件に関する告訴が行われる可能性について、捜査状況を注視する意向を明かした。現時点で捜査は初期段階であり、検察側は捜査に協力しながら事実や証拠を慎重に検討する方針だという。
事故直前のトラブル、数日前の誤射事故
『ラスト』の撮影は2021年10月6日に始まっており、事故が起きたのは、以前から予定されていた21日間の撮影の12日目だった。しかし事故を受けての取材の結果、撮影現場では複数の問題が発生していたことも判明している。
事故当日の10月21日、問題の誤射が起こる直前には、当初から本作に参加していたカメラスタッフ7名が製作を離脱していた。原因となったのは、スタッフに支払われる報酬や労働環境の問題、新型コロナウイルスの感染対策、そして撮影現場での危機管理不足。7名が現場を離れた決め手は、本来約束されていたホテルが実際には用意されなかったことだと伝えられている。
当初の契約では、ニューメキシコでの撮影中、スタッフにはセットに近いサンタフェ市内に宿泊場所が用意されるはずだった。ところが撮影の開始後、一部のスタッフは、現場から車で1時間ほどかかるアルバカーキのホテルに宿泊することを要求された。サンタフェの宿泊費が高かったことから、製作チームは支払うことを渋ったとされる。スタッフたちは、12時間以上の労働後に遠方のホテルまで自ら移動することに不安を示していた。
証言によると、あるプロデューサーはこれに立腹し、当該のスタッフたちに現場を去るよう要求。自主的に離れなければセキュリティを呼ぶ、と脅迫したともいわれる。その後、製作チームは急遽、全米撮影監督協会に所属していないスタッフを招集して撮影を継続。亡くなったハッチンス氏はこの事態を非常に悲しんでいたという。事故が起きたのは、カメラスタッフが現場を去った約6時間後だった。
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