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「SHOGUN 将軍」海外の反応まとめ ─ 「真田広之の名演技」「座れ、観ろ」「日本史を調べたくなる」

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

主演・製作、真田広之。ハリウッドが初めて戦国時代の日本を本気で描いたスペクタクル・ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」、もう観ただろうか?このドラマ、2024年2月27日(火)に配信開始となってから、万雷の拍手で世界に迎えられている。レビューサイトのRotten Tomatoesではまず批評家スコア100%でデビューし、その後も99%で推移。通常、評価する批評家やエピソード数が増えるにつれてスコアも下落していくものだが、この粘り方は実に稀なことである。

「2024年最高のリミテッド・シリーズとして記憶されるに違いない」(Chicago Sun Times)「陰謀、ユーモア、ロマンス、アクションを見事に融合させ、完璧なエンディングまで驚きを提供し続けるリミテッド・シリーズ」(IGN)「大作映画の全盛期を思い起こさせる」(The Guardian)と、海外から絶賛の声が止まない「SHOGUN 将軍」。本記事では具体的に、何がどう評価されているのかについて紹介したい。

「SHOGUN 将軍」を世界が迎えた ふたつの“時流”

SHOGUN 将軍
(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

まず現在、海外、とりわけアメリカのテレビドラマやショウビズ界には、ふたつの時流がある。「SHOGUN 将軍」はその両方に、最上の形で適合する作品となった。

その時流。ひとつは、「ゲーム・オブ・スローンズ」が放送を終了してから、ドラマ界の“玉座”が空席になっていることだ。米HBOが生んだ世界的大ヒット作である同シリーズは、各話に大作映画並の予算をかけ、重厚で複雑な物語で世界中の視聴者を虜にし、その熱波は日本にも到来した。2019年にシーズン8をもって完結して以来、ここ5年の間、業界も視聴者も「次の『ゲースロ』」の到来を渇望していた。

本家前日譚「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」を含め、いくつもの大作がその玉座を狙って登場した……。そして、“時は来た”、というわけである。「『SHOGUN 将軍』こそが、おそらくその勝者だろう」と、英Independentは評している。

海外メディアのレビューの数々を見ると、「ゲースロ」との比較が、あちこちで唱えられている。一例としてIndieWireでは、「『SHOGUN 将軍』の包み隠さぬ残忍さと狡猾な裏切り劇は『ゲーム・オブ・スローンズ』を思い起こさせる」としつつ、「『SHOGUN 将軍』はほとんどの従者が背くことのない“名誉の掟”を軸にしているので、登場人物ははるかに感情移入しやすく、物語もはるかにわかりやすい」と記している。米The Washington Postは本作と「ゲースロ」との共通点を挙げながら、「物語、戦略、カタルシス、そして女性」の描写において、「ゲースロ」を超えているではないかと、そう評している。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

そしてもう一つの時流とは、欧米の視聴者が外国語の作品を字幕で鑑賞することに急激に慣れ、より幅広い文化の作品に手を伸ばすようになったことだ。日本のアニメ映画が世界的に大ヒットしたり、アジア映画がアカデミー賞で大きな賞に輝いたりするようになり、潮目は明らかに変わっている(ちょうど発表された第96回アカデミー賞でも、日本映画がふたつも受賞した)。

このことについては、プロデューサーを務めたレイチェル・コンドウも話している。「この状況は予想していたものではなく、数年前までは願ってもないことでした。3〜5年前でさえ、やや時期尚早だったかもしれません。でも最近では、たくさんの人が字幕で鑑賞しています」。真田広之も、「アメリカ人や海外の観客の方が、字幕版を選び、原語を聞きたがっている」と見る。

この世界的な話題ぶりを見れば、「SHOGUN 将軍」それ自体が、新たな時流を作り上げてしまった、とも言える。第1話の視聴回数は全世界で900万回再生、ディズニープラス歴代No.1の記録を打ち立てた。海外のYouTuberたちは、「SHOGUN 将軍」を鑑賞しながらのリアクション動画をこぞってアップしている。ためしに“shogun reaction”と検索してみると良いだろう。ものすごい数である。彼らは皆、かなり真剣で、のめり込んでいる様子だ。侍が首を斬るシーンには声をあげて驚き、武士の信念が描かれるシーンには息を呑んでいる。
※北米はhuluで配信。スクリプテッド・ゼネラル・エンターテイメント・シリーズ作品中。

いま、世界中の人々が、「SHOGUN 将軍」を通じて、日本の真髄に触れ、それを語り合っている。海外のテレビ番組、ネットメディア、SNS、YouTube、いたる所で、この「SHOGUN 将軍」という日本の時代劇が、大いに注目され、話題となっている。これまでなかった時流を、本作は起こしている。

SHOGUN 将軍
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海外メディアがこぞって称賛する「SHOGUN 将軍」の凄み

本シリーズの原作となったジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」は、日本文化への子細な書き込みで、1970年代当時のアメリカにほとんど初めて日本文化を紹介した。これは1980年にドラマ化・映画化され、リチャード・チェンバレンと三船敏郎らが出演したこの作品は、欧米におけるサムライ像の原型を作った。

「数エピソードを見た後には、近くの図書館に行って日本史を調べたくなるだろう」と、USA Todayは本作が日本文化を改めて世界に紹介すると伝えている。「全10話を観終えたら、さらにもっと求めたくなるはずだ」。

登場人物の大半が日本人なので、劇中のセリフのほとんどは日本語である。つまり、真田広之やアンナ・サワイ、浅野忠信、西岡德馬らの日本語の演技が、生のまま世界中の観客に届けられている。「もしも全編英語で製作されていたら、物語の知性と力が損なわれていたであろうことは、想像に難くない。この偉大なドラマは、自らの落ち着いた話運びを信頼している。そのため、見栄えも良く、自身に溢れ、夢中にさせられるテレビドラマに仕上がっている」(The Guardian)

日本人役者による日本語での演技は、海外の目の肥えた批評家からも称賛を受けている。その筆頭株が、やはり吉井虎永役、真田広之の威厳ある姿だ。「真田は、虎永が大老評議会の元から密かに逃れなければいけない場面でも、まったく堂々とした名演技を披露。このキャラクターの自信、鋭い洞察力、そして自身に逆らう者を服従させる能力を見れば、なぜ彼がほかの大老衆から危険視されるのか、一目瞭然にわかるというものである」と、米IGNは真田の演技力が描写に説得力と深みをもたらしていると絶賛。同様に、USA Todayも真田について「人を惹きつける存在感がある。周囲の人々が彼に忠誠を尽くす理由がよくわかる」と、その滲み出るカリスマ性を書き表した。

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按針ことジョン・ブラックソーン役のコズモ・ジャーヴィスにも注目が集まっている。このキャラクターは、初めこそある種の西洋的傲慢さをもって侍社会に投げ込まれ、悪態をついて抵抗を試みるが、通詞の鞠子との交流を重ねながら、この異文化を理解しようと奮闘するようになる。

英Independentが面白い書き方をしている。「ブラックソーン役のジャーヴィスは、内なるトム・ハーディを見事に引き出している」。『ヴェノム』などで粗暴な瞬間をなんとか封じ込めようと格闘するような、トム・ハーディ的な演技を見せていると言うことである。

確かにコズモ・ジャーヴィスが演じる按針は、汚い言葉遣いで散々暴言を吐いて見せる場面が多い(これらのほとんどは日本人のキャラクターには伝わらないところが面白い)。劇中のブラックソーンは、ある意味では言語から解放されており、またある意味では言語によってがんじがらめになっている。彼は日本語と英語、西洋と東洋、カトリックとプロテスタント、そして生と死の間でしばしば板挟みになっており、あらゆる物事の多面性に揺さぶられている。ジャーヴィスはその複雑な階層を、巧みに渡り歩いてみせている。

SHOGUN 将軍
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そのブラックソーンに偏りすぎることなく、西洋の観客に迎合しすぎていないことを評価する声もある。「『SHOGUN 将軍』は、世界が今よりもはるかに繋がっていなかった時代の、異文化交流の物語である。(中略)ブラックソーンを特権的な判断や洞察の源として扱うことがない」と、米Varietyはその普遍性を称えている。

多様な登場人物の中で、異彩を放つのが、浅野忠信演じる樫木藪重。この物語が持つ複雑さをよく表す一人だ。表裏の顔を持つこの男、戦国の大舞台で行われる壮大なゲームにおけるジョーカー的存在。最後まで、その行動が読めない要注意人物である。

そんな藪重の暗黒の一面が顔を覗かせたのが、第1話『安針』で描かれた、あの残虐な極刑シーン。響き渡る断末魔の声に、藪重は静かに耳をそばだてる。「まるで、どの種類の燕のさえずりを聞いたのかを推理する野鳥愛好家のような表情で、その叫び声を聞いている。しかし別のシーンで、彼は会話をしたくなるような好感の持てる男として登場する。そうした濃淡がありながらも、“人物像に一貫性がない”とは全く思わされず、むしろ“確かに人間とは複雑なものだ”と思わされる。登場人物の行動に賛否を重ね合わせることをしないのは、アメリカのテレビ界ではますます珍しくなっている視点だ」(Vulture)。

SHOGUN 将軍
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人の心の奥深さは、まさに「SHOGUN 将軍」が描く主題のひとつである。「人には三つの心がある」とは、第一話劇中で語られる諺だ。世間に見せる心、友だけに見せる心、そして三つ目は、他人に見せない秘密の心。生き残りたければ、その心を誰にも見せてはいけない。

それから第4話の劇中で、鞠子が按針に説く「八重垣」という言葉。心の中に築く頑丈な壁。「私たちの心は はるか彼方。安全で 孤独な場所にある」。

このドラマでは、誰もが策士である。鞠子も、按針も、藪重も、石堂も、みな人に見せぬ肚を持っている。それは、信念か、忠誠か、愛か、野望か。人によって違う。これは「本音と建前」の国の戦略劇である。

そして虎永こそが、その最大手だ。第1話、虎永の初登場場面。遣いの鷹を受け取った虎永が、馬上で言う。「こやつは太陽を背にして 獲物の目をくらませる。力を蓄え 襲いかかる時を待ち構えておる。相手は 敵がすぐそばにおることすら 気づきもせぬ」。虎永によるこの最初の言葉こそ、彼の全10話における戦略への伏線なのである。

「SHOGUN 将軍」は人物の心情の機微に触れながら、謀り事は苔のむすが如く、静かに進んでいく。骨太な作品だから心して見よ、ということを、USA Todayが書いてくれている。「『SHOGUN 将軍』は、テレビドラマとは洗濯物を畳みながら気軽にクリックするものではなく、ひとつのイベントであることを思い出させるようなシリーズだ。全神経を集中させるものである。スマホをいじりながら、夕食を作りながら、作業をしながら流しておくものではない。座れ。観ろ。そして全てを受け入れろ。1600年代の日本へのフリーチケットは、そうそう手に入るものではない。これは忘れられない冒険のひとつだ」。

これからの「SHOGUN 将軍」

少し、第4話までの話の流れをおさらいしておこう。太閤亡き後の日本では、虎永ら5人の大老が実権を握っていたが、ライバルの石堂和成(平岳大)の策略によって、虎永は4対1の対立関係に追いやられていた。そんな中、虎永は日本に流れ着いた英国人航海士ジョン・ブラックソーンと出会い、言葉がわかる戸田鞠子(アンナ・サワイ)の通訳を経て意思疎通を図る。“按針”と呼ばれることになったブラックソーンは、虎永に面白がられ、彼らと行動を共にするようになる。

大坂城に囚われの身となっていた虎永だが、奇策を講じてなんとか脱出。さらに、腹心の戸田広松(西岡德馬)を通じて、大老の職を自ら辞することを石堂たちに通告する。大老は5人の票がなければ動けないという“しきたり”だ。虎永は自ら抜けて4人とすることで、大老会議の動きを封じた。これは同時に、自身の身が守られる道理も後ろ盾も失う事態ともなった。

旗本に昇格した按針は鉄砲隊の稽古をつけるが、視察にやってきた五大老使者の根原丞善に対し、虎永の息子・長門(倉悠貴)がとある事件を起こす。これにより、石堂に戦の大義名分を与えることとなったが……。

SHOGUN 将軍
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第5話では劇的な大事変が起こり、物語はさらなる深みに立ち入っていく。これより全10話の後半戦に突入していくが、注目は二階堂ふみ演じる「落葉の方」の本格登場。世継ぎである八重千代の母で、しばしば戦国一の悪女として語られる淀殿(茶々)からインスパイアされた人物である。落葉の方の動きひとつで変わる雲行き、二階堂ふみによる神秘的な演技が奥行きを与える。

ところで我々日本の視聴者は、今や世界的な事象と化した「SHOGUN 将軍」を、原語のまま、そして作品世界の膝下で鑑賞できるという、希少な立場にある。この千載一遇の特権を享受せぬ手はないだろう。アメリカのTV番組専門メディアTV Insiderに「もう『SHOGUN 将軍』のような大作は作られないだろう」と言わしめる作品である。リアルタイムで観進めるのが一番だが、全話配信されてからイッキ観するのもまた一興。ドラマ「SHOGUN 将軍」はディズニープラスの「スター」で独占配信中。毎週1話ずつ登場し、最終話は4月23日(火)配信予定。

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Supported by ウォルト・ディズニー・ジャパン
参考:Chicago SunTimes,Independent,USA Today,The Guardian,Vulture,IndieWire,IGN,Variety,TVInsider,WachingtonPost

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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