「SHOGUN 将軍」重厚の音楽いかに誕生?日本音楽との連携、アッティカス・ロスら語る

ディズニープラスで配信されて以来、初回再生回数が歴代No.1を記録するなど、大きな話題を呼んでいるドラマ「SHOGUN 将軍」。戦国の日本を描いた小説「SHOGUN」を原作に、『トップガン マーヴェリック』の原案を手掛けたジャスティン・マークス製作総指揮のもと、日米で活躍する真田広之らハリウッドの製作チームが手掛けた驚異的なスケールの戦国スペクタクルだ。
日本の時代劇ファンをも唸らせる忠実な考証など、その映像には目を見張るものがあるが、オープニングで流れるメインタイトルをはじめ、和の風と重厚感を感じさせる音楽も大きな魅力の一つ。これを手掛けたのは、ナイン・インチ・ネイルズのメンバーとしても知られ、『ソーシャル・ネットワーク』(2010)など数々の映画音楽で知られるアッティカス・ロス。『ソウルフル・ワールド』(2020)ではアカデミー賞オリジナル作曲賞にも輝いた。ほか、アッティカスの兄弟レオポルド・ロスや、ニック・チューバも加わっている。
この頼もしき作曲陣への日本特別インタビューをお届けする。『SHOGUN 将軍』楽曲制作の舞台裏や、ドラマを盛り上げる音楽にこめられたこだわりを知ることができる。
──『SHOGUN 将軍』の配信が開始され、世界的に大きな話題となっています。今、どのようなお気持ちですか?
アッティカス・ロス:すごくハッピーな気持ちです!
レオポルド・ロス:とてもうれしく思います。アッティカスと私にプロデューサーからの依頼メールが来たのは3年前のことでした。とても長い道のりでしたね。エグゼクティブ・プロデューサーでショーランナーのジャスティン・マークスや監督のジョナサン・バン・トゥレケンとお会いしたのが始まりでした。それから長いプロセスを経て、こうして多くの方々に楽しんでいただけることをとても幸せに思います。
アッティカス:撮影が始まる前の打合せの頃は、このような作品になるとは想像もしていなかったんです。音楽をめぐるアプローチも変わりました。もともとは、エピックとオーケストラを掛け合わせる構想でした。しかし、撮影が始まってからは、オーケストラは用いず、エピックのみで表現したいと思ったんです。製作陣との協働を通して、作品自体も、音楽も、これまでにない新しいものになったように思います。
──エピックに加えて、日本の楽器・音楽を用いているのもユニークな点ですね。
レオポルド:台本を読んで、本物の日本の楽器を取り入れたいと思いました。一方で、作品が描く時代の音楽をそのまま表現しようとしたのではありません。
日本音楽については、現代音楽も含めて様々研究しました。その中で、雅楽の音楽家である石田多朗さんのことを知ったんです。多朗にはアレンジャーとして参加していただきました。
ニック・チューバ:多朗のインスタグラムを見つけて、メッセージをしたんです。ラッキーなことに、お返事をいただけて(笑)。多朗は、雅楽のアレンジャーで、日本の音楽をめぐる様々な活動をされていましたから、尺八などの奏者の方たちとのネットワークもお持ちでしたし、お寺でのお坊さんたちによる聲明のレコーディングなどもアレンジしてくれました。日本の様々な楽器について学んだり、収録をしたり、私たちの表現を作り上げていく上で、とても大切な役割を担っていただきました。
レオポルド:多朗の高度な知識や様々な奏者の方々とのネットワークなしには、成し遂げえない作業でしたね。
アッティカス:既に広く知られた作品を、新たな視点で制作する中で、当時の音楽を尊重しながら、新たな物語のための私たちらしい新しい声を与えるのはパズルのような複雑な作業でした。私たちが映像作品の音楽を作る時には、作品と一体化した、その作品ならではの音楽を作ることを目指します。『SHOGUN 将軍』は、時代、そして私たち一人ひとりの物語の表現のあり方などの面で、奥深い作品でした。
──西洋と日本の文化、音楽、キャラクターの間でバランスをとるのは、チャレンジだったのではないですか?
レオポルド:その通りです。ただ、古い歴史を描くとか、西洋・東洋の視点を描くということよりも、ジャスティンとレイチェル・コンドウが作り出した世界に合う音楽を作りだすことをゴールにしていました。バランスをとるのは、簡単な作業ではありませんでしたけれど(笑)。私たちが音楽を作る際は、時間や場所よりも、映像のスケールや、キャラクターの心理、そして視聴者に合わせるようにします。例えば、第1話冒頭のエラスムス号のシーンでは、船員たちは、これから何が起こるのかまだわからない状況にいます。日本が本当に存在するのかどうかすら知らないわけです。ですので、それに合わせて、視聴者の方にも不安を掻き立てるような音楽を作りました。
──ジョン・ブラックソーンは、実在したイギリス人の三浦按針にインスパイアされています。アッティカスさんとレオポルドさんもイギリス人ということで、特別な思い入れはありましたか?
ニック:そうですね。ネタバレにならないように詳細はお話ししませんが、興味深いキャラクターでした。音楽の面では、按針含め、すべてのキャラクターの人生に寄り添って作りました。
アッティカス:ロサンゼルスで長く暮らすイギリス人としては、イギリス英語が聴けるのは、特にうれしいことでした(笑)。

──尺八や篳篥などによる日本の伝統音楽や、日本の現代音楽に対しては、どのような印象をお持ちですか?
ニック:これまでほとんど触れることがなかったので、感銘を受けましたね。私たちの音楽表現においても、可能性を広げてくれたように感じます。
アッティカス:どのような音楽的表現を用いるかが見えてからは、様々な表現ができる素晴らしいタペストリーのように感じていました。今日も、第1話と第2話を見返してみたのですが、映像と音楽がオーガニックにマッチしつつ、これまでにない世界観を生み出しているように感じ、うれしく思いました。
──これまでも様々な作品で協働してこられましたが、3人での作曲はどのように行うのですか?
レオポルド:多くの場合、まず、コンセプトや方向性について話し合います。そして、それぞれ曲を作り始めます。できた曲をみんなで持ち寄って、アイデアを深めます。その後、お互いが作ったものの中から、それぞれの良いところを取り入れたり、マッチさせたりしながら、更に曲を作っていく。その上に、様々な楽曲を組み上げていく感じでしょうか。
アッティカス:今回、特にユニークな取組みとしては、伝統的な日本の楽器の音を録音して、それをコンピューターに取り込み、新しい形で演奏することで、新たな表現を生み出すようにしました。
ニック:まず、雅楽で演奏される伝統的なフレーズや、即興で演奏したフレーズを、楽器ごとに録音したり、アンサンブルで録音したりします。それらをコンピューターに取り込むことで、キーボード上などでいろいろな表現が可能になるんです。例えば、雅楽で用いられる打楽器の一音をもとに、リバーブやディストーションをかけることによって、別の形のリズムとして表現することもできるようになります。また、それらを組み合わせることで新たな音を生み出すこともできます。例えば、篳篥の音をキーボードで表現できるようにすることによって、見知らぬ国に漂着したエラスムス号の船員の感情を表すのにぴったりな、SF的なサウンドが出来上がりました。一方で、最近では日本でも篳篥の音を聴く機会が減り、人によっては伝統的な結婚式を思い出すのだとも聞きました(笑)。
アッティカス:このようにして、伝統楽器を、私たちの「今」の表現と組み合わせられるようにすることによって、歴史を感じさせながらも、現代的な表現ができたと思います。
──サウンドトラックもリリースされていますが、お薦めの楽曲はありますか?
レオポルド:「メインタイトル」は、完成までにとても長い時間がかかった作品です。実は、第10話の段階になっても、 まだできあがっていなかったんです。時間をかけただけあって、素晴らしい曲になったと思いますし、私のお気に入りです。
ニック:それに、「メインタイトル」では、日本から参加して下さったすべてのミュージシャンの方の演奏を聴くことができます。
アッティカス:『SHOGUN 将軍』の音楽については、皆、とても誇り思っています。ハリウッドの典型的なサウンドや音作りとは異なり、本当の意味でのコラボレーションを通して、新しい表現ができたと思っています。
──アカデミー賞でオリジナル作曲賞に輝いた『ソウルフル・ワールド』の音楽と聴き比べてみても興味深いかもしれませんね。
アッティカス:そうですね。作品ごとに、その作品のための音楽を作るということの意味をわかっていただけると思います。『ソウルフル・ワールド』は、子供たちと共に「死」を考える作品でした。私たちは、主に、亡くなった後のユニークな世界を表現する音楽を作ったんです。死後の世界も、『SHOGUN 将軍』が描く戦国の時代も、私自身は実際には経験したことがないものです。それらを、音楽家、そしてストーリーテラーとして、表現するのが私の仕事です。
まったく別の作品でも、取り組み方は同じです。作品と向き合い、どのような音楽表現が良いのかコンセプトを固め、物語やキャラクターの気持ちを表現する。楽器に向かう前の、コンセプトを考える時間がとても大切なんです。
──最後に、日本のファンの皆さまにメッセージをお願いします。
レオポルド:作品を温かく受け入れて下さりありがとうございます。このように多くの方に楽しんでいただけるとは想像していませんでしたので、とてもうれしく思っています。
ニック:『SHOGUN 将軍』をご覧下さり、また、私たちの音楽を聴いていただき、ありがとうございます。一生懸命取り組んだ作品ですので、日本の皆さんに楽しんでいただけて幸せです。
アッティカス:私も同感です。製作総指揮のジャスティンやレイチェル、そしてスタッフたちがリスクを顧みず地平を切り開き、実現してくれた特別な作品でした。音楽の面からもベストを尽くしたと自信を持って言える作品だと思っています。これまでにないような、ユニークで、文化的な作品に関わることができたことを、光栄に思っています。
Written by井筒節
ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」はディズニープラスの「スター」にて独占配信中。
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