Menu
(0)

Search

ハリウッドの日本描写、いかに間違っていたか ─ 「SHOGUN」海外プロデューサーが語る「これまでの過ち」と「日本への希望」【ロングインタビュー】

「SHOGUN 将軍」プロデューサー ジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウ
©︎ THE RIVER

ハリウッドが、戦国時代の日本を初めて本気で映像化。日本映画とハリウッド映画の両面で長年活躍する真田広之が細部に至るまで徹底監修し、ハリウッド作品に「正しい日本描写」をもたらした戦国ドラマ「SHOGUN 将軍」が、2024年2月27日よりディズニープラス「スター」にていよいよ配信開始となる。

『トップガン マーヴェリック』の原案を手掛けたジャスティン・マークスとその妻であり映画プロデューサーのレイチェル・コンドウが、戦国の日本を描いたジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」を魂の映像化。1975年に米刊行されたこの小説は、アメリカに日本文化の多くを初めて紹介したうちの一作として知られている。

THE RIVERでは、本ドラマのために来日したジャスティンとレイチェルに単独で取材を敢行。たっぷり時間をいただいて、「ハリウッドにおける長年の日本描写の誤りをいかに認識し、本作でいかにして改善させたか」などディープな話をじっくり聞いた。日本の視聴者として必読の内容だ。

この作品を詳しく解説

「SHOGUN 将軍」プロデューサー ジャスティン・マークス&レイチェル・コンドウ 単独ロングインタビュー

「SHOGUN 将軍」プロデューサー ジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウ
©︎ THE RIVER

──「SHOGUN 将軍」全10話を最後まで鑑賞させていただきました。素晴らしい作品です。これまで、ハリウッド作品における日本描写の誤りを感じてきました。ですから本作は、僕たちにとってとても重要な作品です。まさに歴史を変えるドラマとなると思います。今日は取材に応えていただいて本当にありがとうございます。

ジャスティン・マークス:そんなふうに言ってくださって、こちらこそ感謝感激です。僕たちはこのドラマに5年間携わってきました。初めのうちは、アメリカの視点になってしまうことへの恐怖心がありました。ハリウッド作品では、過去何年にもわたって「誤り」がありましたから。だから今回は、文化をつなげるための新しい方法を見つけることが重要でした。本作が、日本のみに限らず、さまざまな文化を描く際の雛形のようになればという思いがありました。

日本の映画業界で育ちながら、過去20年間をアメリカでも活躍された真田広之をプロデューサーに招くことは、とても重要なステップでした。彼は(ハリウッド的な日本描写に関する)誤りをたくさん見てこられた方です。だから、撮影開始より前のかなり早い段階から、彼と「我々はこれまでいかに間違っていたのか?」「どうやってこの状況を変えるか?」「一緒に改善していくためには、どうすべきか?」についてじっくりと話し合いました。ですから、今回で成し遂げられたことは全て、ひとえに真田さんのコンサルティングのおかげです。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

もちろん、細かな点はまだ残っていると思います。でも思うのは、毎日が学びの連続であり、毎日が新しいことへの取り組みだったということ。きちんと理解をして、それを正して、明日はもう間違えないようにする。本作の製作期間は、その繰り返しでした。時間が経つにつれて、「誤り」の質も高まっていきました。

真田さんと協業するより前の段階から、脚本作業にもかなりの時間がかけられました。この製作はまず、西洋の視点から、我々の視点から、理解の精度を高めるということから始まりました。例えば、切腹の持つ力の、真の意味とはなんなのか。

切腹についても、長らく誤解がなされていたと思います。「SHOGUN 将軍」劇中では、よそ者であるジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)が、それを理解しようとし、人生の祝典として尊重しようと努めようとします。よそ者の視点から、切腹を「死の祝福」として見ることは容易です。でも、切腹はそういうものではないのです。

ネタバレになるのであまり言えませんが、後半のエピソードで、とある切腹のシーンが登場します。このシーンはプロデューサーの一人であるカミツナ・マコの助言によって、当初書かれていたものからかなり進化しています。私たちは「どうしてこのキャラクターは切腹を選んだのか」という文化的なニュアンスを深く尊重しました。切腹は非常に奥深く、力強い行為です。今とは違う時代に生まれたものですが、アメリカでは多くの誤解があったと思います。ここに辿り着くまで、何年もかかることとなりました。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

レイチェル・コンドウ:その誤解とは、私たちに由来するものです。数年前から、かなり素朴にこの構想に取り組みました。(切腹という)概念と向き合い、共に生き、考え、内面化し、俳優やコンサルタント、プロデューサーたちから、この概念が彼らにとってどれだけの意味を持つのか、日本文化にとってどのような意味があるのか、さまざまな視点から学ぶには、とても長い時間を要しました。

そして私たちは、ついに理解に至りました。切腹とは、人生を、信念を表したものだったのです。自分の中の最も深いところにある、最も深奥なる信念を表現する方式なのですね。これを理解するまでの長い長い旅路を思うと、涙が溢れてきます。

ジャスティン:これまでの間違い、そして今もある間違い。そのことについて謙虚な思いになります。本作でようやく、日本人の俳優に委ね、演じていただくことができました。

ヒロさん(真田)とは、他にもさまざまな深奥なるディティールについて話しました。例えば、江戸時代よりも特に戦国時代において、帯刀の位置には帯が重要であることなど。この時代、刀の角度はどうだっか。西洋の視点では、そこまで細かく注意を払ったことがありませんでした。それから言葉遣い、正しい髪型、メイク、そういったさまざまなことです。

小袖のカット具合はどうか、陣羽織の位置はどうか……。彼は、自分の出番の撮影があろうがなかろうが、毎日かならずセットで、こうした全てに目を光らせていました。ヒロさんはいつも舞台裏を歩き回り、衣装部門と最終チェックをしては、あちこちでクオリティの確認に奔走して、それが終わったら、「よし、次の人は……」と、別のところに飛んでいく。そこまで徹底したディティール確認です。

それは、協力者を尊重し、その物語を描かせてもらっている文化を尊重する、というものでした。私が思うに、それだけ正しいディティールを作っているからこそ、より良い物語が生まれるのだと思います。より精確で正しいディティールを、カメラに収めることができるのです。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

欧米人として、アメリカの視聴者として、この世界に5年も生きていない私たちが観たとしても、こうしたディティールの意味することがなんなのか、理解できないかもしれません。それでも、そこに厳格さがあること、深い信念が宿っていることはわかるはずです。そのおかげで、日本人であろうと、アメリカ人であろうと、フランス人であろうと、どこの国の人であろうと、より優れた視聴体験のできる、満足感のある作品に仕上がっていればと思います。

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly