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窪塚ら日本人キャストが語るスコセッシ監督作『沈黙-サイレンス-』─ 記者会見レポート

映画『沈黙-サイレンス-』記者会見

2017年1月12日、映画『沈黙 -サイレンス-』の記者会見が日本外国特派員協会で開催された。

マーティン・スコセッシが遠藤周作の名著『沈黙』と出会ってから28年、同作への飽くなきこだわりにより遂に完成した映画『沈黙 -サイレンス-』。アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、そしてリアーム・ニーソンという豪華俳優陣が登場する。THE RIVER的に言ってしまえば、スパイダーマンとカイロ・レンとクワイ=ガン・ジンの共演である。

この布陣に対し、日本からは窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形を始めとする豪華俳優陣が出演。江戸初期の長崎を舞台に、ポルトガル人宣教師と日本の隠れキリシタンが激しい弾圧に立ち向かう。人類永遠のテーマを尊く描ききった本作は、早くも本年度アカデミー賞最有力候補と評されている。

この日の記者会見では、キチジロー役の窪塚洋介、通辞役の浅野忠信、井上筑後守役のイッセー尾形が登壇し、今作にかける想いや見どころをたっぷり語った。

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© THE RIVER

 「僕は英語が得意じゃないのに、通辞(=通訳)の役を演じました」と照れるように笑う浅野忠信。「マーティン・スコセッシ監督と出会え、僕にとって大きな成長となりました。また、イッセー尾形さん、(窪塚)洋介くんと一緒に仕事ができて光栄に思っています。お二人から学ぶこともいっぱいあり、恵まれていると感じました。」

「アイム・ア・踏み絵マスター」とジョークを飛ばし、会場の笑いを誘った窪塚洋介は、「この映画『沈黙 -サイレンス-』が持っている力で、世界中の人達にとって少しでも良い”明日”が来ることを心から願っているし、そう信じています」と力強く語った。

今作の無事の完成を迎えたことに胸を撫で下ろすように、イッセー尾形は「台湾で撮影している時は、この日がくるとは思ってもいませんでした。それほど撮影に集中した日々でした」と振り返る。

「マーティン・スコセッシ監督、スタッフや共演者の皆さんに沢山の刺激を受け、俳優としてこれほど幸せなことはないという時間を過ごさせて頂きました。」

『沈黙 -サイレンス-』で演じたそれぞれの役について

井上筑後守

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© THE RIVER

長崎の奉行として、アンドリュー・ガーフィールド演じるセバスチャン・ロドリゴに棄教を迫る井上筑後守を演じた尾形は、「キャラクターをどうやって作ったかというのは、『沈黙 -サイレンス-』という台本の文脈から決して外れて考える事はできないんです」と語り、こう解説する。

「ロドリゴを棄教させようとするシーンで、彼はキリスト教を”女性”、”側室”に置き換えて、『こんな女とは暮らしたくない』と言うセリフがある。”神”、”キリスト”、”信仰”が天空的なものだとしたら、井上は地上的なものなんです。彼は地上にしがみついている男。そこから井上という役を考えました。」

井上筑後守という男は難しい役のように思われる。原作では、彼は一見温情ある柔らかで慈悲深い老人のようではあるものの、実は非人道的な拷問を考案したり、ロドリゴらの精神を削り取るような罠を仕掛ける冷酷な策略家として描かれている。しかし、その人となりはあまり深くは触れられていない。

「原作だけではわからない井上という男を、スコセッシ監督は想像の限りを尽くして描き上げてくれた。そのおかげで僕は自由に演じることができました」尾形は解説する。

「井上はキリシタンだったという説があるらしい。
『お前が本当に宣教師ならば、苦しんでいるキリシタンの日本人を救うために棄教せねばならない。キリスト教であるからこそ、キリスト教を捨てなければならない』。彼は、そんな無茶苦茶な論理を見つけたんです。これは、自らがかつてキリスト教徒だったことを踏まえてのセリフであったと思います。」

さらに尾形は、井上がいかにこの”論理”をロドリゴに振りかざしたかを話す。

「井上にとってロドリゴとは、フェレイラの二番手。かつてフェレイラを落とした(=転ばせた)実績があるので、この論理は有効であると考えた。今度はえらい若造が来たぞと、ではこの論理で(ロドリゴを)ひっくり返してやろうと考えたんです。」

通辞

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© THE RIVER

浅野演じる通辞は、主人公ロドリゴに棄教を迫る”ヴィラン”側の立場ではあるが、単純な悪役ではないように描かれている。

「決して悪役というつもりで(通辞という役を)受け取っていなかったので、とても共感しながら役を演じていました。彼は、もともとクリスチャンではあったが、(キリスト教を)自分の中で信じられなくなった日が来て通辞の仕事に就いたのだと思っています。だからこそ、彼に奥行きがあったんだなと思っています。」

浅野は、通辞という役に立体感を持たせるべく、独自の解釈で役作りを行っていたそうだ。

「彼は、わかりやすいポジションに立たされている人間ではないんだなと。井上様とロドリゴの間にいるような人間です。日本の漫才にボケとツッコミというのがありますけど、”巧みなツッコミ”の気持ちを持っている人なのではと考えて、この役を考えるようにしていました。」

キチジロー

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© THE RIVER

窪塚演じるキチジローは今作でも一際ユニークなキャラクター。ロドリゴを裏切り、そして神を裏切りながらも、ロドリゴを追い、許しを請い続ける汚い男だ。しかし、この男を弱者の一言で片付けることはできない。

「原作にもありますけど、キチジローは”弱き者”。醜く、狡く、汚く、弱い。彼があまりにも踏み絵を踏むもので、弱いんだか強いんだかわからない。表裏一体のようなものを感じていました。」

キリスト教を棄てることを、江戸時代の日本では『転ぶ』といい、今作でも最後の手段として度々登場する。原作通り、キチジローは何度も転んでいるが、窪塚はだからこそこの役を「人間臭い」と話す。

「『転ぶ』ことと、『棄教』することは、きっと違う。転んだら起き上がることができる。そのときキチジローはまたキリスト教を信じている。また踏み絵を踏む。また転ぶ。また起き上がり、信じる。キチジローは、自分の心の中に自然と湧き上がってくる気持ちを大切にしていた役。踏み絵も踏むけど、神様も信じてるんですというところが、すごく人間臭いと思います。」

しかし窪塚は、「キチジローはとても馬鹿なので、キリスト教を理解していないのでは」とも分析する。「自分自身の中にあるものを信じて、我儘な生き方をしている人間なんだなと思います。」

窪塚にとって、そんなキチジローと自分自身を繋いだキーワードは「イノセントさ」だったと振り返る。そのイノセントさとは、誰の心にでもあるようなものだ。

「『沈黙 -サイレンス-』は江戸時代の話ではありますけど、キチジローという役を通じて、現代の皆さんにとって共感しやすい作品になっていれば嬉しいです。」

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© THE RIVER

遠藤周作の原作について

窪塚は、ラストシーンにおける原作との相違点が印象的だと指摘する。「『沈黙』の持っている力を最大限に引き出している」と振り返りながらも、「家に帰ってからもう一考えしたい」と、今作に込められた解釈の深みを示唆した。

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© THE RIVER

一方、浅野は敢えて原作を読むことを避けたようだ。

「まず台本を読みました。自分のシーンは何度も読んで、その前後のシーンも何度も読み、もう一度自分のシーンを何度も読む。わからないところは自分の中でストーリーを描きました。それでも納得がいかない時に初めて原作を確認しました。

ただ、自分の中にある(通辞の)ストーリーと原作が違うところにあったので、なるべく原作は読み込まないようにしました。台本に戻って、また何度も自分のシーンを読むことを繰り返しました。」

尾形は「若い頃、一度挑戦して挫折しました」と笑う。井上役を演じるにあたって再度原作を読み直したところ、「心惹かれるのはキチジローでした」と明かした。

アカデミー賞は「あると思っている」

今作の本質について窪塚は、「神が『沈黙』しているところだ」と語る。その答えを見つけるには、「自分自身の心の深奥に入っていく必要がある」と続けると、尾形もその意見に同調する。
その上で「神が『沈黙』したと言うが、ではいつ喋っていたのか」と宗教学的な疑問を会場に問うた。

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© THE RIVER

続いて尾形は、今作に対して「答えが分かれる」と評す。

「日常とはかけ離れた過酷な物語です。まるで万力で締め付けられ、そこから人間が絞り出されたような。そんなものを人間と呼べるのか、いや、これこそが人間だ。僕の中で、今作の答えは2つに分かれています。鑑賞してからもう何日も経ちますが、今も分かれたままです。」

尾形は、胸に手を当てて続ける。「それなのに、観終えた後は清らかなものが此処に残っているんです。この感覚は一生続くだろうと確信できる、そんな映画です。」

アカデミー賞最有力候補と囁かれる今作だが、出演者らの手応えはどうだろうか。三名を代表して浅野は「選ばれると思っています」と語り、自信を覗かせる。

「もし選ばれないということがあるのだったら、それはもう神様が審査員に余計なことを喋っているのかなと(笑)。」

台湾撮影について

『沈黙 -サイレンス-』は、日本の長崎が舞台ながらも、残念ながら撮影は台湾で行われた。
これに対し浅野は、日本人にとってさえある種の『異なる世界』である江戸時代の日本を描くという意味では、台湾という異国での撮影は「やりやすかった」と振り返る。

一方、「台湾は何の申し分もなく、素晴らしい国だった」と断った上で、「日本で撮影し、日本のスタッフで作ったら、もしかしたら違うものもあったのかなと思います」と、少し寂しい様子で語った。

窪塚は、台湾での撮影を振り返り、「まず一番最初に思い浮かぶのは小籠包です。シャオロンポウ」とジョークを飛ばし、会場の笑いをさらった。続けて、異国ならではのエピソードを明かす。

「現地のスタッフさんに聞いたのですが、山の上に村(のセット)を作った際、そこの建物の扉がはじめは開き戸(欧米風のドア形式)だったそうです。江戸時代の日本には引き戸しかないのに。」

もちろんスコセッシ監督らは、こうした間違いを正しながら撮影準備を進めたとのことだ。

「監督は、僕らや遠藤周作さんのみならず、日本そのものに対して本当に敬意を払って、毎日どの瞬間も撮影に臨んでいてくれました」と語る窪塚さんは、監督がきちんと時代考証を行っていたからこそ、日本の物語を台湾で撮影するということに違和感がなかったと語る。また、尾形も同様に、台湾撮影に対し違和感はまったく無かったと軽快に答えた。

もしもあの時代に生きていたら

『沈黙 -サイレンス-』は、観客ひとりひとりに残酷な決断を迫る作品だ。愛する信念を貫くべきか、それとも愛するからこそ棄てなければならないのか。これは江戸時代の日本において、当時の宣教師や隠れキリシタンらに実際に突きつけられ、そして彼らの運命を文字通り左右した実題である。

では、もしもそんな時代、自分自身が当事者であったならば、どう振る舞うだろうか。

尾形は「僕は、多分江戸時代に生まれていても俳優になっていたと思います」とかわし、会場の笑いをさらって続ける。

「踏み絵を踏むか踏まないか?それを迫る井上のような男の役を演じていると思います。その時にスコセッシ監督もいてくれないと出来ませんけどね。」

窪塚も「僕も踏み絵マスターだったかもしれません」と観客を笑わせ、浅野は、「僕がもしその時代にいたら、(弾圧は)やだなぁと思うし、関わらないようにしていると思います…」と、こっそり話していた。

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© THE RIVER

マーティン・スコセッシとの仕事

『世界的』という言葉さえはばかられるほどに著名な映画監督、マーティン・スコセッシ。尾形は「まず僕が提出する演技を、ともかく見てくれます」と、監督との現場を振り返る。

「『こうやりなさい』とか『今のはやめよう』とか、否定的な言葉は一回も言わない。俳優というのは、そういう場を与えられるとアイデアや感性がどんどん研ぎ澄まされていくんですね。自分だけでなく、相手役、たとえばロドリゴ役のアンドリューの醸し出す雰囲気をもキャッチできるようになるんです。監督はそんな場を、どのようなシーンにおいても作ってくれた。」

尾形が語った、役者に『委ねる』スコセッシ監督の寛容さについて、浅野もうなずく。

「監督は、オーディションの時ですら、僕のやり方を楽しみに、じっくり見てくれました。
押さえつけるようなことは一切なかったので、本当に自由な自分で楽しむことができましたし、自由な中でやっていいんだという緊張感も生まれました。なかなか他の監督さんではないことです。監督さんは、どの俳優にも平等にそのように振る舞っていたので、現場に行くのが毎日楽しかったです。」

「”委ねてくれるタイプ”の監督さんなので、現場では具体的にキチジローの人となりを詳しく説明されたことがない」と語った窪塚によれば、スコセッシ監督は「現場では王様」だそうだ。

「その王様がいてくれるだけで、こんなに演技がしやすくなる。いてくれるだけで演出になる。自分の姿が二倍にも三倍にも見える鏡のような、自分が素晴らしい役者になったような気分にさせてくれる監督さんです。」

そんな尊敬するマーティン・スコセッシ監督のニューヨークの自宅に、窪塚は二度も招待されたという。「こないだ初めてニューヨークに行った時にマネージャーにメールしたんですけど、それはスルーされました」と明かし、観客の爆笑をさらった。

窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形をはじめとする多くの日本人俳優が、アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、リーアム・ニーソンらと魂の演技で対峙する。マーティン・スコセッシ監督作『沈黙 -サイレンス-』は、いよいよ1月21日(土)より全国ロードショー。

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Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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