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王道ミュージカルとしての『SING/シング』レビュー 映画ならではの方法、ミュージカルならではの感動

2017年も三分の一が過ぎ去ったが、いつになく今期の日本公開作品はミュージカル映画の印象が強かった。まず、あらゆる面で話題をかっさらった『ラ・ラ・ランド』。ディズニーの王道ミュージカル実写映画として大ヒット中の『美女と野獣』。そして、アニメーション映画『SING/シング』だ。

『ラ・ラ・ランド』『美女と野獣』『SING/シング』どれも全く異なる魅力を持つ作品で素晴らしいと感じたのだが、この中で私が考えるミュージカルの王道は、実は『SING/シング』だったりする。『SING/シング』のどこがミュージカルらしいのか、私が感じたことを説明していきたい。

『ラ・ラ・ランド』より『SING/シング』の方がミュージカル度が高い

ミュージカルは、オペレッタがアメリカに渡って独自の変化を遂げたものだと言われている。一応「セリフ、歌、ダンスで構成される」という定義らしきものは考えられるものの、『レ・ミゼラブル』のようにほぼ全てのセリフが歌になっている作品や、『ネクスト・トゥ・ノーマル』のようにダンス要素がほとんどない作品もあり、明確に定義づけることは困難だと思われる。

では、私が考えるミュージカルの定義は何かというと、「感情やストーリーの動きを歌やダンスで表現していること」だ(その点はオペラやオペレッタも同じだが、音楽性や上演時のマイクの有無などが異なる)。その意味で、『ラ・ラ・ランド』のミュージカル度はそこまで高くない。例えば、王道のミュージカルであれば、ミアとセブの喧嘩シーンは確実に歌で表現されたはずだ。

対して『SING/シング』では、あらゆるポイントが歌やダンスを使って表現されている。ステージで歌うということだけではない。スーパーでのロジータのダンスソロもそうだし、金を稼ぐために洗車をするバスター・ムーンのシーンだって、立派なダンスシーンになっていると私は思う。また、中盤でのイカたちの活躍は見事な群舞になっていた。そしてもちろん、極めつけは終盤のショー。彼らが自身の悩みや壁を乗り越え解放される瞬間を、歌とダンスで表現しきった最高のクライマックス。ストーリーや感情が大きく動くとき、そこには必ず歌やダンスがある。ミュージカルならではのこの快感を、『SING/シング』は十分に満たしてくれる作品なのだ。

シング
(C)Universal Studios.

『美女と野獣』より『SING/シング』の方が劇場でのミュージカル体験に近い

『美女と野獣』は劇場でも上演されている正真正銘のミュージカル作品だ。しかし、実写版『美女と野獣』と『SING/シング』とを比べたとき、どちらの方にライブ感があったかと問われれば、『SING/シング』だと答えざるを得ない。それはやはり、『SING/シング』の設定が劇場であるということが大きい。劇場で行われるオーディションやショーがメインになっているので、スクリーンのこちら側にいる観客は必然的にステージを見つめる観客と一致する。ステージ上で行われるオーディションを扱う『コーラスライン』や、ストーリー全体をショーの演出のように見立てている『シカゴ』を観ているときと同じような感覚で、ミュージカルシーンをより自然に受け入れることができるし、映画館にいながらにして劇場にいるような錯覚に陥ることができる

少なくとも私は、劇場でミュージカルを観るときと同じような感覚で『SING/シング』を鑑賞した。対して、実写版『美女と野獣』は舞台版『美女と野獣』とは異なる感覚で鑑賞した。実写版『美女と野獣』はアニメ版の見事な実写化だが、舞台版『美女と野獣』の没入感とは少し異なるな、とも感じたのだ。

SING/シング
(C)Universal Studios.

現実の舞台では実現が難しい豪華なカタログミュージカル

ミュージカルには、オリジナル楽曲を使用したものと、既存の曲を使用したものがあり、後者を一般的に「カタログミュージカル」と呼ぶ。特定のアーティストの楽曲を使った作品が多く、有名なところでは『マンマ・ミーア』や『ジャージー・ボーイズ』などがある。前者はABBAの楽曲で、後者はThe Four Seasonsの楽曲で構成されたミュージカルだ。

一方で、『SING/シング』のように、複数のアーティストによる有名ポピュラーミュージックを使用した作品は珍しい。有名な過去作品を挙げるとすれば『ムーラン・ルージュ』だろう。一組のアーティストの楽曲を使用する場合と、複数のアーティストの楽曲を使用する場合とでは、かかる手間が大違いだということは想像に難くない。実際、バズ・ラーマン監督は『ムーラン・ルージュ』に使用した楽曲の権利許諾にはかなりの時間がかかったと語っているし、ブロードウェイでのミュージカル化が発表された現在でも、原作映画と同じ楽曲が使われるのか、オリジナル楽曲になるのかは判明していない。

Writer

umisodachi
umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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