Menu
(0)

Search

『SKIN/スキン』全身タトゥー男の狂気と贖罪描く実話、ヘイトに満ちた黒人差別主義者は生まれ変われるか ─ ジェイミー・ベルがダークサイド演じる

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

「怪物のような男が別人に生まれ変わるという出来事を知ったとき、すごく惹かれるものがありました。怪物が心身共にクリーンな真人間に生まれ変わるって、どういうことだろうと。難しい主人公に取り組むのが好きだから、惹かれた。」

イスラエル出身の映画監督、ガイ・ナティーヴは話す。映画SKIN/スキン(2020年6月26日公開)は、ナティーヴ監督が“執念”で作り上げた、実話に基づく映画だ。暴力と憎しみにまみれた過激な白人至上主義者が、「ヘイト」の恐ろしさや虚しさに気付き、闇から抜け出そうとする姿を描いた、鬼気迫る一本だ。

THE RIVERは、新型コロナの影響で外出制限が本格化され始めたロサンゼルスの監督の自宅とつないだSkypeで話を訊いた。

全身タトゥーの怪物

『SKIN/スキン』は、幼い頃に両親に捨てられ、白人至上主義団体に洗脳されて育った筋金入りのレイシスト、ブライオン・ワイドナーの狂気と贖罪を描く。差別と暴力に生きてきたブライオンは、シングルマザーのジュリーと出会い、これまでの自らの悪行に気付かされる。新たな人生を決意するブライオンだったが、これを許さない組織からの脅迫や暴力が執拗に襲いかかる……。

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

ブライオンという男にとって、全身に刻まれたタトゥーは憎悪の証。顔面にも所構わず彫られており、この男が常軌を逸していることを物語っている。同時に、「取り返しのつかない」暗闇の道を歩んでいることも。『SKIN/スキン』で描かれるのは、この男が「取り返しのつかない」哀しき定めにあらがって、心身共に生まれ変わろうとする物語だ。ブライオンは、過激なヘイトグループからの脱会を試みるだけでなく、全身に刻まれたタトゥーをすべて綺麗に除去すると決意を固めるのである。タトゥーとは、入れるよりも除去の方が何倍もの痛みに耐えなければならない。ブライオンにとっての「心身共に生まれ変わる」ことには、地獄の苦しみが伴った。

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

ナティーヴがその男の物語を知ったのは、2012年のことだった。テルアビブ(イスラエル)のベン・グリオン空港で、ナティーヴはコーヒーショップに座って新聞を読んでいた。ふと、ブライオン・ワイドナーという男の記事が目を惹いた。全身タトゥーにまみれたスキンヘッドのネオナチが、心身ともに自身を浄化すべく、すべてのタトゥーを除去したという。やがてナティーヴは、時間をかけてブライオン本人にたどり着き、ついに会うことになった。ふたりはアメリカの、とあるフリーウェイ沿いのダイナーで待ち合わせた。

「会うのは怖かった」とナティーヴは打ち明ける。「まだレイシストのイメージがあったので。もしかしたら、傷つけられるかもしれない。」警戒していた。ところが実際にブライオンと会って話すうち、それも偏見だったのだと気付かされた。「私が会ったのは“人間”でした。好青年でした。“ふつうの人間”になりたくて、もがいていた。」結果的に、2人は4日間を共に過ごした。「相手を理解し、ハイレベルな話し合いができるようになると、お互いに信頼が芽生えるんです。」

短編でオスカー掴む

友となったこの元レイシストの壮絶な物語を映画にして伝えるため、ナティーヴはまず短編映画から始めざるを得なかった。長編用に脚本を書き上げたものの、「アメリカでネオナチものはダメだ」とプロデューサーに返されたのである。当時はオバマ政権で、ネオナチと言われてもピンと来ない社会だったからだ。次期大統領には、女性初としてヒラリー・クリントンが候補に目された、リベラルの時代だった。

そこで、長編の資金調達のため急遽製作された短編は、同名の原題を持つ『SKIN』。この度の長編映画とは登場人物も設定も異なるが、過激な人種差別が生み出す最悪の悲劇をえぐるように描きあげた21分の渾身作だ。登場するのは、やはり過激な白人至上主義グループの男。ある日、幼い息子を連れてスーパーに出掛けたとき、会計中に息子が黒人の男と目があった。黒人は、この小さな子供に挨拶をおくって微笑んだ。子供も喜んで笑った。白人の父が気付く。「俺の息子にちょっかいを出したのか?ニガーが挑発か?」白人の父は仲間を電話で集めた。「黒人が俺たちにケンカを売ってきた」と。黒人の男は、そのまま駐車場で白人至上主義者たちに囲まれ、家族の前で半殺しにされた。それから、黒人グループの復讐が始まる。

『SKIN 短編』
『SKIN 短編』© NEW NATIVE PICTURES

この鋭い短編が評価された。カンヌ、ベルリン、サンダンスといった主要な映画祭には間に合わなかったが、小規模な映画祭に多数ノミネートされ、いくつもの賞に輝いた。その頃、スティング(ミュージシャン)の夫妻にこの短編を送る機会に恵まれた。すると、夫妻が観て非常に気に入ったという。長編を製作する際には、妻トゥルーディー・スタイラーがプロデューサーとして協力してくれることになった。

ある時、短編を出品した小さな映画祭のうちのひとつから連絡があった。賞を取ったので、次はアカデミー賞にノミネートされます、と。「勝算があるのか分かりませんでした。万が一という感じでした」と、このインディペンデント映画監督は振り返る。

その結果は、見事に受賞だった。2019年アカデミー賞、短編映画賞を勝ち取ったのだ。映画界の巨人たちと同じように、ナティーヴはオスカー像を手に持って、壇上でささやかなスピーチを経験した。「全く予想外でした。おかげで、長編映画が作りやすくなった。」

トランプ政権と白人至上主義

「でも、最も追い風になったのは、」ナティーヴは続ける。「ドナルド・トランプが大統領に当選したことです。」極端なビジネス思考を持つアメリカン・ドリームの覇者が共和党から出馬、2016年の大統領選に勝利した。「アメリカの裏が、表に出てきた」とナティーヴは表現する。トランプ政権下、極右勢力が顕在化した事実だ。

2017年の8月、ヴァージニア州シャーロッツビルで悲惨な事件が起こった。白人至上主義者たちが集結し、大規模なヘイトスピーチが展開された。彼らは、これに抗議する反対勢力と衝突し、白昼の街は騒然となる。その群衆に、アクセルを憎しみに踏み任せた1台の車が猛スピードで突っ込んだ。死者が出た。

2018年10月には、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で銃乱射事件があった。白人至上主義の男が、ユダヤ人の大量虐殺を目的に、朝の教会内で銃を乱射し、11人が無差別に殺された。

「アメリカ全土が燃えているようでした。ネオナチが火を付けてまわっているような。」

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

『SKIN/スキン』は、この危機感をもって製作された。アメリカの問題をえぐる本作を、非アメリカ人が製作するという皮肉にも気づいている。自身はイスラエル出身。主演ジェイミー・ベルはイギリス、シングルマザー役のダニエル・マクドナルドはオーストラリアの出身だ。「外から見えるアメリカというものがあります。外国人である我々にとって、それはハッキリと見えやすい。

レイシストのヘイトが導く悲劇を描く映画の前例のひとつに、『アメリカン・ヒストリーX』がある。エドワード・ノートンとエドワード・ファーロングが兄弟を演じている。ネオナチに傾倒する白人兄弟を通じて、アメリカの差別問題を浮き彫りにした、1998年製作の映画だ。もう20年以上前になる。「それなのに、状況は当時より悪化している。」ナティーヴの語気は強い。「殺しが行われている。

ホロコーストを生き延びた祖父を持つナティーヴは、子供の頃から「ヘイト」や「差別」について聞かされていた。「(ホロコーストが行われていた)1930年代にだって、レイシズムはあったわけです。ヘイトの歴史を振り返ると、暴力の連鎖がある。だからこそ、子どもたちには教えてやりたいんです。何が正しくて、何が間違っているのか。幼い頃から価値観を教えることができれば、違った大人に育つはずです。幼い頃から(差別主義の)洗脳を受ければ、ブライオン・ワイドナーが出来上がるんです。すべては教育です。」

ジェイミー・ベル、ロマンチストから怒れる男への変貌

『SKIN/スキン』で描かれるブライオン・ワイドナーは、幼い頃に両親に捨てられた。過激な白人主義グループに拾われると、与えられたのは住処と食べ物だけではなかった。武器と、憎悪と、歪んだ思想である。アメリカは白人の国だ。ニガーは追い出せ。殺しても良い。

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

この憎しみに満ちた男を演じることを、ジェイミー・ベルは一度拒んだ。心優しい作詞家バーニー役を演じた『ロケットマン』とほぼ同時期に、この映画が米国公開されたとはにわかに信じがたい。「それまでロマンチックな役が多かった彼にとっては、難しい役でした。批判の恐れがある役というのは、彼にとって初めてのことです。」役者は、演じる役と自分自身を同一化する必要がある。ナティーヴが言うには、ジェイミーはここまで酷い人間と自分を同一化させることを拒んだのだという。「うまく演じられないかもしれない。様々な不安がつきまとっていました。」

ジェイミーがオファーを受け入れた決め手のひとつは、ブライオン改心のきっかけとなるシングルマザー役をダニエル・マクドナルドが演じるということだったとナティーヴは説明する。ダニエルは、この物語の短編版にも、レイシストの男の妻として出演していた。『パティ・ケイク$』(2017)での主演がサンダンス映画祭で評判を集めた、注目の若手のひとりだ。

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

やると決めたら、ジェイミーはブライオンそのものになった。本人同様のスキンヘッドになり、本人と同じタトゥーを再現した。撮影初日、怪物と化したブライオンを見たナティーヴは、思わず悪寒を感じたという。もちろんタトゥーは本物でなく撮影用のプリントだが、ジェイミーはそれらを全身に残したまま数日を過ごしたという。街を歩き、レストランに出掛けた。消すことの出来ないタトゥーにまみれて社会生活を送る感覚を体験した。「撮影期間中、ジェイミーは常に怒っていました。ダークサイドに堕ちたように」と、ナティーヴは振り返る。

「それでも、私はブライオン・ワイドナーを、ただの怪物ではなく、深みのあるキャラクターとして描きたかった。非常に複雑なキャラクターに見えるからです。だからこそ、このキャラクターを人間としてエモーショナルに演じられる役者が必要で、それがジェイミーでした」と言うナティーヴは、ジェイミーについて「世界的に見ても、彼の世代の中でも突出した実力の持ち主」と評価する。「例えばトム・ハーディなんかは、こういうタフガイを演じることが多いですね。今作はジェイミーのイメージに全くない役なので、とても新鮮に観られるはずです。非常にセンシティブで、エモーショナル、そして聡明な男です。」

ブライオンは、かつて憎んでいた黒人の手を借りて更生に挑む。反ヘイト団体を運営するダリル・L・ジェンキンスだ。演じたのは、ドラマ「Marvel ルーク・ケイジ」主演のマイク・コルター。ちょうど「ルーク・ケイジ」シーズン2の撮影を終えた頃で、うまくオファーも通った。ダリル・L・ジェンキンス本人は、もともと「ルーク・ケイジ」コミックの大ファンだった。自分の役をルーク・ケイジの役者が演じてくれると知ったダリルは泣いて喜んだという。

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

この映画は、次の世代のために

事実に基づくハードな映画作りが信念になる背景には、ホロコーストを生き延びた祖父の存在と共に、政治情勢厳しいイスラエルの育ちがある。「ハードな話題には慣れています。気楽な題材は面白みに欠けるので、難しい題材と向き合っていたい。」ヨーロッパ映画や日本映画を観て育った影響も強い。「北野武監督が好きです。『BROTHER』(2000)とか。あれだって気楽な映画ではないでしょう。」

たしかにハードな題材ではある。しかし、普遍的なテーマも芯にある。人は、生まれ変わることができるのか。負の連鎖を断ち切り、憎悪の闇から抜け出すことができるのか。ナティーヴは、「人は変われると信じています。そう信じていなければ、この映画も作っていませんよ」と微笑む。「ただ、生まれ変わるには相当な覚悟が必要です。ブライオン・ワイドナーには、その覚悟があった。敵対する人間が改心して、より良い人間になることもあるんです。希望が貰えるはずです。」

SKIN/スキン
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

『SKIN/スキン』では、「人を受け入れる」という気持ち持っているかを観客に問うているとナティーヴ。「ブライオン・ワイドナーのような人間を受け入れ、改心する手助けをできるだろうか。その機会を与えることができるだろうか。この映画を観て考えてみて欲しい。無理だという人もいるでしょうし、もちろん出来るという人もいるでしょう。そこに議論があります。」

「それに……」画面の向こうから、無邪気な笑い声が聞こえる。まだ1歳ほどの可愛い息子が、パパの部屋に遊びに来たのだ。「この子の世代のためにやっているんです。」ヘイトともレイシズムとも無縁の無垢な我が子を抱き上げて、カメラに向かって紹介してくれた。「子供を持つと考え方が変わるもので、この子の世代のために何ができるだろうかと考えるようになるんです。この子のために、どんな世界を用意してやりたいか。」デヴィッド・ボウイやプリンスらポップスターのイラストがあしらわれたベビー服を来て、きらきらした笑顔を見せている。平和なはしゃぎ声をそのままにして、ナティーヴは続ける。「ブライオン・ワイドナーがネオナチに染まったとき、彼はわずか14歳でした。可愛い子供が怪物に変えられてしまった。多くのネオナチは、小さい頃から洗脳され、愛を失います。僕のベイビーが成長して16歳や17歳になる頃に、この映画を観て欲しい。」

ヘイトを抜け出したブライオン・ワイドナーとダリル・L・ジェンキンスは、今も良き友であるという。ニューヨークでの公開初日、ブライオンとダリルも本作を観た。「実は今日は、ご本人にも来てもらっています!」サプライズでブライオンとダリルが客前に登場した。2人は万雷の祝福を浴びた。スタンディングオベーションは、10分間鳴り止まなかった。

映画『SKIN/スキン』は2020年6月26日(金)より新宿シネマカリテにて全国順次公開。

SKIN/スキン

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly