【ネタバレ解説】『スパイダーマン:スパイダーバース』にみる「サム・ライミ版3部作」の痕跡 ─ なぜ過去作品が引用されるのか?

「スパイダーマン映画史上最高傑作」ともいわれる映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は、圧倒的な映像体験と卓越したストーリーテリング、そしてコミックファン&映画ファン泣かせの膨大なイースターエッグが大きな見どころとなっている作品だ。
なかでも映画の端々に見え隠れするのは、これまでコミック「スパイダーマン」を映像化してきた先人たちへの敬意。本記事では特に、サム・ライミ監督による“初代実写映画”『スパイダーマン』3部作へのオマージュを紐解いていくことにしよう。なぜ過去作品を引用することにしたのか、クリエイター自身による回答もあわせてご紹介したい。
この記事には、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のネタバレが含まれています。

『スパイダーマン』3部作の直接的引用
サム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演による『スパイダーマン』3部作は、2002年に第1作、2004年に第2作、2007年に第3作が製作・公開された。現在につながるアメコミ映画・ヒーロー映画の黎明期を支えた作品で、スーパーヒーロー映画に親しんでいるファンの中には、この3部作にリアルタイムで親しんできた人もきっと多いことだろう。
『スパイダーマン:スパイダーバース』の日本版キャッチコピーである「運命を受け入れろ。」というフレーズは、サム・ライミ監督による第1作のキャッチコピーと同じもの。プロモーションにもにじみ出た歴史へのオマージュは、映画の冒頭部分で直接的に炸裂することになる。
逆さまのキスシーン
『スパイダーマン』3部作においても屈指の名シーンというべきだろう、「サム・ライミ版スパイダーマン」をこの場面で記憶している方も少なくはないはずだ。『スパイダーマン』第1作で、ピーター・パーカーは、メリー・ジェーン・ワトソン(MJ)を追いかける暴漢を路地裏で撃退する。その後、逆さまになったまま降りてきたマスク姿のスパイダーマンに、MJはわずかに言葉を交わすと、半分だけマスクを外してキスをするのだ。
『スパイダーマン:スパイダーバース』では、ピーターがMJとの恋愛について語る際、このシーンが引用されている。印象的なシーンが、印象的なアングルのままに再現されているのである。しかしながら異なるのは、なぜかここではMJが逆さまになっていて、スパイダーマンのほうが直立していること。この謎は作り手の口から解明されているので、のちほどご紹介することにしよう。
列車を止めるスパイダーマン
こちらも3部作を代表するシーンのひとつである。『スパイダーマン2』で、ヴィランのドクター・オクトパスによって暴走させられた電車を止めるため、ピーターは両手からスパイダーウェブを大量に放ち、建物にくっつけることで電車を止めようと試みるのだ。あわや線路から転落してしまうというすれすれのところで、ピーターの決死の作戦は実を結び、電車は止まることになる。
『スパイダーマン:スパイダーバース』では、ピーター・パーカーが街を救った活躍の代表例としてこの場面が登場する。
レストランに飛び込んでくる車
同じく『スパイダーマン2』からは、ピーターとMJのいる店に車が飛び込んでくる場面も再現されている。同作ではピーターとMJがカフェで大切な話をしているところに、ドクター・オクトパスによって、車が窓を割って突然飛び込んでくるのだ。幸いにも、間一髪で察知したピーターによってMJは救われる。
このシーンは『スパイダーマン:スパイダーバース』でやや大胆に引用されている。飛んできた車を間一髪で察知するところは同じだが、『スパイダーマン2』のピーターがMJを助けるのに対して、『スパイダーバース』冒頭のピーターは車を殴り飛ばして打ち返すのである。
エモ・ピーター・パーカー
まさか数ある名シーンの中でこの場面を選ぶとは。『スパイダーマン3』でシンビオートの影響を受けたピーターは、いつもと違うファッションといつもと違うメンタリティで仕事場や街中に出現し、ノリにノリながらわが道を行く。通行人に怪訝な顔で見られてもお構いなし、店を出てきて踊りはじめるのだ。このシーンのピーターは海外で「エモ・ピーター・パーカー(Emo Peter Parker)」と名付けられ、今に至るまでさんざんネタにされ続けている。
『スパイダーマン:スパイダーバース』では、スパイディスーツに身を包んだピーターがこのダンスを披露。しかし語り手であるところのピーターは「この話はあまりしないんだ(We don’t talk about this.)」と後悔の言葉を口にしている。
ほかにもある「サム・ライミ版」オマージュ
映画の冒頭で矢継ぎ早に繰り出される、これらのオマージュの数々のみならず、本作にはいくつかの場面で「サム・ライミ版」の直接的・間接的引用が指摘されている。たとえば主人公マイルズ・モラレスがクモに咬まれるシーンの演出、メイおばさん宅の家具の配置、さらにはラストシーンに至るまで、仕掛けられたうちのいくつを発見できるかもファンにとってはお楽しみのひとつだろう。
もちろん本作にはサム・ライミ版だけでなく、アンドリュー・ガーフィールド主演『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ、そしてトム・ホランド主演『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)のオマージュも用意されている。たびたびリブートされてきた実写映画版の歴史が、『スパイダーマン:スパイダーバース』には作品に厚みをもたらす要素となって現れているのだ。

なぜ過去のスパイダーマンを引用するのか
それにしても、なぜ『スパイダーマン:スパイダーバース』は過去のスパイダーマン映画を繰り返し引用するのか。ファンを喜ばせるためだけの遊び心にしては、いくらなんでも周到すぎやしないか……。
製作総指揮のフィル・ロード&クリス・ミラーは、米Fandangoのインタビューにてこの謎の答えを明かしていた。いわく、すべては本作に登場するピーター・パーカーのために仕掛けられたギミックだというのだ。
クリス:今回のピーター・パーカーは、ポップカルチャーの世界に登場してきた全てのピーター・パーカーの融合体だと考えているんです。だからトム・ホランドやアンドリュー・ガーフィールド、トビー・マグワイアの演じたスパイダーマンのほか、いろんなコミックやテレビ番組に出てきたスパイダーマンの要素が含まれている。マイルズの世界にいるスパイダーマンは、彼らに見た目は似ているけれども、みなさんがご存知のスパイダーマンとは決して同じではありません。だから見た目は同じでも、ひねりが加えられているわけです。
フィル:マイルズのユニバースにいるスパイダーマン、彼が映画の最初に出会うスパイダーマンは、できるだけ優秀な存在として、メインストリームのコミック・ユニバースを思わせるような、別のユニバースを生きる存在として作りました。ですから、彼とMJがキスをする場面では、女性のほうが逆さまで、男性のほうが立っているんです。“これは別世界です”と言える、わずかな道筋を見つけたいと思いました。
すなわち大切なのは、過去作品を引用していることと、そこに“ひねりが加えられている”こと。ささいな違いこそが、本作最大の特徴である、いくつもの多様な「スパイダーバース」を演出する技法となっているのだ。映画ファンやコミックファンの知るスパイダーマンのイメージを提示し、ずらし、そこに新しいスパイダーマンを登場させ、さらに異なるスパイダーマンを次々投入していく。これぞ映画一本で巨大な世界観を作り上げることに成功した、その“初めの一歩”なのだ。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は、2019年3月1日(金)・2日(土)・3日(日) IMAX先行上映。2019年3月8日(金)より全国ロードショー。
『スパイダーマン:スパイダーバース』公式サイト:http://www.spider-verse.jp/site/
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