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【レビュー】『スモールフット』に大人の観客がハッとさせられる理由 ─ モジャかわの皮を被ったシニカル映画

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

子供から大人まで楽しめるが、大人の観客にとっては思いがけずハッとさせられる。2018年10月12日(金)より公開の『スモールフット』はそんな映画だ。臆病なイエティと、彼らにとって空想上の生物とされてきたスモールフット=人間との不思議な出会いを描く。『ミニオンズ』(2015)原作者と音楽が贈るミュージック・ファンタジーとあって、すべての世代を夢中にさせる楽しさは折り紙付きだ。

好奇心があるからこそ、人生はすばらしい

『スモールフット』イエティの主人公のミーゴは、人里離れた雪の山頂に暮らしている。そこではイエティたち特有の文化が形成されており、彼らは古代めいた伝統を疑うこと無く信じて生きている。

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

このイエティたちは、自分たちが暮らす山頂は雲海の下でマンモスたちが支えてくれており、危険だから絶対に近づいてはならないと教えられている。主人公ミーゴの父ドーグルは、毎朝スリングショットで自身を空に放ち、頭につけたヘルメットで岩場のゴングを鳴らすという仕事をしている。これは、村に朝日をもたらすという”光るカタツムリ”を目覚めさせるための儀式で、ゴングを鳴らしてカタツムリを起こさなければ、村に新しい朝は訪れないと信じられているためだ。この仕事は先祖代々続く世襲制のもので、毎朝強く頭を打ち付けて背が低くなっていくことが、この村に貢献している証だとしてドーグルは誇っている。

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

彼らには、非科学が支配する世界で、これまで平和の歴史を成り立たせてきた自負がある。彼らの律法は、すべて「ストーン」=石に刻まれていて、ストーンの教えは絶対であり、疑うことは非常識的だと信じられている。村の長老的存在であるストーンキーパーが、ストーンを鎧のように身に纏い、ガシャリガシャリと音を立てて歩く。この重みある音こそ、村の歴史と安全を保証する響きであるかのように村民に崇められている。

主人公ミーゴも、最初こそ「このまま全て変わらずにいてほしい」ことを望み、村の子どもたちには「ほんとかなって疑問がわいたら、モヤモヤはグッと押し込んで」、旧来の教えを疑わないことを説いて回る。ミーゴはこの保守的なメッセージを、アップテンポなミュージカル・ナンバーに乗せて歌うが、観客はすぐに曲調と歌詞がミスマッチであることに気づくようになっている。

この映画のテーマは、あくまでも「好奇心があるからこそ、人生はすばらしくなるんだ」という考えに基づくもの。だが、「何も疑わずに今のままが続くことを望め」というイエティたちの姿は、意外なほど大人の観客の心を突く。監督のキャリー・カークパトリックがインタビューで答えているように、イエティの世界は「人間より進化が1,000年ほど遅れている」設定で、「村の作りやその信念体系はどことなく原始的」である。しかしながら、映画の冒頭で観客は「だからといって私達は、このイエティを蔑視できるだろうか」というジレンマに陥る。

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

興味深いことに、いずれの世界にも急進主義者はいる。グワンカ、コルカ、フリーム、そしてミーチーといった若者たちは、ストーンの教えに疑問を抱き、空想上の生物とされるスモールフットの存在を信じている。ただし、こうした好奇心はストーンの教えに反するため、彼らは秘密裏に集まっては、雲海下に広がっているであろう別世界に思いを馳せている。

そしてミーゴは、スモールフット…、つまり人間のパーシーと偶然出会う。お互いの言葉は通じないようで、ミーゴからすると人間は、ミニオンのようにピーチク騒ぐ小動物に見えている。一方人間の目からすると、イエティはガウガウと吠える巨大な怪物だ。このあたりのユーモアは、『怪盗グルー』シリーズとミニオンを生み出したセルジオ・パブロス原作とあって安心の出来。往年のアメリカン・コメディ・アニメ「ルーニー・テューンズ」を意識したというアクションは賑やかで飽きさせない。

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

やがて、ミーゴらとパーシーの出会いは、神話を根底から覆す衝撃的な事実を村に持ち帰ることになる。神話の伝統を頑なに守るストーンキーパーの原語版声優はラッパーのコモン(Common)。もちろんこの配役には理由があり、伝統の観点をスムースなラップで説くシーンはひとつのハイライトだ。

イエティたちの価値観を制限し、恐れを抱かせるのは、むしろ彼らが盲信する律法のためである。観客によって、さまざまなメタファーに置き換えられるテーマを孕んだ『スモールフット』は、表向きはあくまでも”モジャかわ”の皮を被った、イエティと人間の笑えて心温まるミュージック・ファンタジー映画。その皮下には思いがけずシニカルなメッセージが隠されているので、ぜひ感じ取って欲しい。彼らにとって、なぜストーンの掟が必要なのか?ストーンキーパーが本当に守っているものとは一体何なのか…?

スモールフット
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

声優キャストには先出のコモンほか、主人公ミーゴに『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)のチャニング・テイタム、ストーンキーパーの娘でミーゴの憧れミーチーには『グレイテスト・ショーマン』(2017)のゼンデイヤ。人間のパーシーには『ピーターラビット』(2018)のジェームズ・コーデン。日本語吹替版として、ミーゴには『ドラえもん』ジャイアン役の木村昴、ミーチーに早見沙織、パーシーに宮野真守、ストーンキーパーに立木文彦。コモンによるラップの日本語吹替時には、元SOUL’d OUTのDiggy-MOが監修に入られたということである。

映画『スモールフット』は、2018年10月12日(金)新宿ピカデリー他ロードショー。

『スモールフット』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/smallfoot/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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