満足度99%!映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は「セルキー神話」を知っていると100%楽しめる
2014年に製作され、あの辛口レビューサイト”Rotten Tomatoes”での満足度は脅威の99%。その年のアカデミー賞で長編アニメーション映画賞にノミネートされた傑作『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』がついに今夏日本上陸しました。
海に入るとアザラシに姿を変える妖精”セルキー”と人間の父親の間に生まれた兄と妹が本作の主人公。悪い魔女にさらわれてしまった妹を助けるため、愛犬と共に魔法世界を旅する兄の大冒険を描きます。
”セルキー”とはアイルランドで言い伝えられている神話に登場する妖精のことです。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』には”セルキー神話”をモチーフにした意匠や設定がたくさん登場します。知らなければ困るということもないのですが、知っていると「ああ、これね」と楽しめるポイントが増えるのも確かです。
という訳で、これから『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』を観る人に向けて”セルキー神話”をご紹介したいと思います!
そもそもセルキー神話とは?
セルキーとは海中ではアザラシとして生活し、地上では毛皮を脱いで人間として生活している妖精です。
男のセルキーは好色で人間の女を誘惑します。一方、女のセルキーは人間の男に恋することはあまりないのですが、変身する姿を見られてしまうと、人間の男に毛皮を隠され言いなりにならざるを得ない場合もあります。そのときは無理やり結婚させられ、家族を残した海を恋しく眺めながら、悲しく余生を過ごさねばなりません。
しかしながらこの妖精の話にもさまざまパターンがあります。たとえばセルキーが毛皮を見つけ出して海に帰ってしまうとか、愛した女性がセルキーであることを知らず、気付いたら彼女は海に帰ってしまっていたとか。悲恋に終わるものが多いようです。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』でも白く光るフードが登場します。まさしくセルキー神話の毛皮がモチーフになっているアイテムです。
羽衣伝説
余談ですが日本にも酷似した内容の伝説があります。羽衣伝説です。
羽衣によって天から舞い降り、白鳥の姿で水浴びをしている天女に人間の男が恋をするお話です。男が天女の帰還を阻止するために羽衣を隠してしまうなど、セルキー神話との共通点がいくつか見られます。
誕生した時代も場所も異なるのに、神話や民間伝承の内容が近寄ってしまうという事例って、なにか人類の普遍的な部分に触れているような気がして神秘的ですよね。そう考えると『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』も遠い海の向こうの国で作られているのに、どこか懐かしさを感じさせ、不思議な気持ちになります。
絵本のような質感のアニメーションと印象的なケルト音楽にも注目を!

少年と犬の勇気いっぱいの冒険の行く末はぜひ映画館で確認していたただくとして、それを表現する技法の秀逸さに関してもすこし触れておきましょう。
2009年にも『ブレンダンとケルズの秘密』がアカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされているトム・ムーア監督のアニメーション表現は、かなりデフォルメを効かせた二次元的な世界観を生み出しています。月並みな言葉になりますが、まるで「動く絵本」のようです。細かい部分は省略し、丸や四角を多用した幾何学的なデザインのなかにも歪みを残した独特のアニメーションは、普遍的な物語のカタチと相まって幻想的な雰囲気を作出しています。主人公たちが徐々に現実世界を離れて妖精たちの棲む森不覚を行くに伴って、観客も夢の中に引き込まれていくような感覚に陥ります。観ているだけで癒された気持ちになるこの映像を見逃してしまうのは非常にもったいないと自信を持って断言できますよ!
またケルト音楽の要素をふんだんに取り入れた音楽にも耳を傾けてみてください。絵本のようなアニメーションとの相乗効果で素晴らしく美しい世界に浸ることができるでしょう。鑑賞後にはサウンドトラックを手に入れたくなること請け合いです。

ディズニーにも、ジブリにも作れない独特の世界観と味わいがこの映画にはあります。上映館数は非常に少ないですが、頑張って足を運ぶ価値はあるでしょう。残暑も厳しくなる9月の始まりに、アイルランドの涼しい空気をたっぷり浴びてくるのはいかがでしょうか。