Menu
(0)

Search

【考察】『007 スペクター』ボンドとブロフェルドの過去、着想は原作「オクトパシー」にあり ─ 『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はどう進む

007 スペクター
JAMES BOND, 007 and related James Bond Indicia (C) 1962-2019 Danjaq, LLC and Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. CASINO ROYALE, QUANTUM OF SOLACE, SKYFALL, SPECTRE, JAMES BOND, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved. (C) 2019 Danjaq LLC and Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. TWENTIETH CENTURY FOX and associated logos are trademarks of Twentieth Century Fox Film Corporation and its related entities.

ダニエル・クレイグ版『007』シリーズ第4作『007 スペクター』(2015)では、前作『007 スカイフォール』(2012)に続き主人公ジェームズ・ボンドの知られざる出自が明かされた。本作で登場したヴィラン、エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)とボンドが、血の繋がりこそ無いものの、幼少期を共に過ごした“兄弟”であることが判明したのである。

この設定、『007』原作小説シリーズの1冊で描かれるストーリーに基づいたものであることをご存知だろうか。暗い過去を持ったデクスター・スマイスという名の退役少佐のもとにジェームズ・ボンドが訪れることから物語が始まる1966年出版の短編「オクトパシー」だ歴代のシリーズでは、ボンドのパーソナルな部分が描かれることはほとんど皆無だった。一方、ダニエル版シリーズではジェームズ・ボンドという1人の男の内面に焦点が当てられ、これまでにはなかった感情をボンドに抱いた方もいるだろう。

本記事では、『スペクター』で描かれたボンドとブロフェルドの関係を、原作小説の設定を踏まえながら掘り下げていくと共に、最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』での展開を簡単に予想していきたい。

※当初は『007号/ベルリン脱出』のタイトルで出版され、1983年に文庫化された際に「オクトパシー」へと改題された。

ハンネス・オーベルハウザーの死

『スペクター』では、両親を亡くしたボンドが12歳の時にハンネス・オーベルハウザーという男の家庭に養子に迎えられたこと、このハンネス・オーベルハウザーがブロフェルドの父親だったことが明かされた。その後、ブロフェルドは「仮親のもとで孵化したカッコウの雛は生き抜くために仮親から生まれた他の雛を殺す」という本能行動を引用し、オーストリアでスキーをしていた最中に発生した雪崩に巻き込まれて死んだと思われていた父親を当時フランツ・オーベルハウザーという名だった自分が殺したという真相をボンドに伝えたのだ。ボンドにはこうした複雑な過去があったのである。

ここで、この設定の着想元である「オクトパシー」を見ていきたい。主人公は、ジャマイカで悠々自適な生活を送っていたデクスター・スマイスという退役軍人。遠い昔、スマイスはナチスドイツの秘密警察ゲシュタポを一掃する任務に就いていた。ゲシュタポの隠れ家があったオーストリアの山小屋に向かったスマイスは、そこで金塊が近くに埋まっていることをはからずも発見。私欲に目がくらんだ彼は、山岳ガイドを雇って目的地へ向かい、着いたところでガイドの男を殺害してしまう。このガイドこそ、“ハンネス・オーベルハウザー”という男であり、父親のいなかった10代のボンドの父親代わりになった人物だったのだ。

つまり、小説におけるスマイスが『スペクター』におけるブロフェルドということになる。「オクトパシー」でスマイスとボンドは兄弟関係には無かったが、『スペクター』では兄弟という設定に脚色された。もっとも、「オクトパシー」と共通するボンドとブロフェルドの関係性はこれ以上ないようだが、殺されたハンネス・オーベルハウザーという人物の存在は、最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』での展開を予測する上で大きな手がかりになるかもしれない。

サフィン、復讐の目的とは

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Credit: Nicola Dove © 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、ラミ・マレック演じるサフィンという男がヴィランとしてボンドの前に立ちはだかる。何から何までが謎に包まれているサフィンだが、予告編では拘束されたブロフェルドが気になる事をボンドに言っている。「お前の敵は私の敵でもある」という言葉だ。このサフィンなる男は、ボンドとブロフェルドにとって共通の敵であるということであり、さらに言い換えるならば、ボンドとブロフェルドに恨みを持った人物であるとも捉えられる。

恨みを持つからには、過去に2人から直接、あるいは間接的に何かをされたとも考えられるが、ここでハンネス・オーベルハウザーの死が思い当たらないだろうか。もしもハンネスに知られざる肉親、または子どもがいたとしたら、家族を殺した人物に復讐を考えるだろう。ハンネスを殺したのはブロフェルドに他ならないが、復讐心に満ちた被害者なら、ボンドのことさえ敵とみなしうる。つまり、このサフィンがハンネスに何らかの形で関係していたとすれば、ボンドとブロフェルドにとって共通の敵になり得るということだ。

しかし同時に、この仮説は無数にある可能性の中の1つにすぎない。ハンネス・オーベルハウザーの死は伏線でも何でもなく、『スペクター』で完結したものである可能性だって考えられる。また予告編では、『スペクター』から再登場するマドレーヌ(レア・セドゥ)とサフィンとの間で過去に何か起きたことを示唆する描写も登場しており、サフィンの復讐の対象がマドレーヌであるということも大いにある。

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、ボンドとサフィンの対決にスポットライトが当てられていくことになりそうだが、『007』シリーズの伝説的ヴィランであるブロフェルドとも何らかの決着がつくことを期待したい。ちなみに、「オクトパシー」でスマイス少佐がたどった運命は、全ての事情をボンドに話した後に向かった海でタコに絞め殺されてしまうという、自然によって下された因果応報の死であった。

Writer

アバター画像
SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly